第51話 商売


「もうロイン! 私抜きでクエストにいくなんて!」

「クラリス……ごめんごめん」


 家に帰った俺は、クラリスに怒鳴られた。

 置いて行かれたことに腹を立てているのだろうか。


「私がロインを守れないじゃない! なにかあったらどうするの!」


 ああ、そういうことか……。


「俺は大丈夫だよ」

「もう! 私にももっと頼ってよね!」


 クラリスは頬を膨らませて、そう言った。

 拗ねているのか……?

 むむう……女心というのはこうも複雑怪奇か。

 俺にはいささか難しい。


「わかったよ。今度から相談する。いつも頼りにしているよ」

「ほんと? 絶対よ?」


 さて、クラリスの機嫌も直ったようだし。

 俺はサリナさんとドロシーも交えて、ある提案をした。


「えーっと、我がアルトヴェール領ですが……」


 と、俺は大げさに前置きをして、机に両手をついた。


「どうしたの? そんなにあらたまっちゃって」


 とドロシーが怪訝な顔で訊く。

 俺は手でドロシーを制止し、言った。


「商業ギルドをオープンします!」



「「「はい……!?」」」



 俺の提案に、三人は顔を見合わせて声をそろえた。

 まあ、ムリもない。

 いままで戦っては強化しての、ハクスラ祭りだった俺からそんな言葉が飛び出せば。

 だが、これは意味のある提案なのだ。


「ドロシー、お前はいつも家事以外の時間は、暇しているよな……?」

「うーん、まあねぇ」


 ドロシーにも、戦闘能力がないわけではなかったが、今のところ本人にその気はないそうだ。

 もとがお姫様だし、そりゃあそうかもしれないが。


「それに、サリナさんも、週の半分は暇ですよね?」

「ええまあ……。お家でゴロゴロしてるだけっていうか……すっかりロインさんの収入に甘えてしまっています」


「まあ、俺としてはそれでもかまわないんだけど……。ちょっとだけ、最初だけ手伝ってもらいたいんだ」

「はぁ」


 俺の作戦はこうだ。

 最初、ドロシーとサリナさんの手を借りて、商売を始める。

 幸いにもこの城は、使ってない部屋がたくさんあるから、商品の置き場にも困らない。


 商品は俺が狩りで集めてきた戦利品を元手にすればいい。

 アイテムボックスもあるし、輸送も簡単だ。

 予備のアイテムボックスも、いくつか集めてきてある。


「さらにはこれ……!」


 俺はじゃーん、とあるものを見せる。

 先日手に入れた《転移石》だ。


「これは転移石。これをつかえば、サリナさんやドロシーも街に一瞬でいける。これなら、商売も簡単だろ?」

「そうですね……これは……いけるかもしれない!」


 アイテムボックスと転移石を組み合わせれば、まず敵なしだ!

 最強の貿易網が作れる!


「あとは、金さえ集まれば従業員を雇い入れよう」

「ですね。そのへんも、私がやります」


 サリナさんの受付嬢としての書類仕事のスキルも、ここで活きてくる。


「さらに、この城を中心に商売をすすめていけば、このアルトヴェール領に入植したいという人たちも集まってくるかもしれない!」

「おお! そうなれば、私の国が復活じゃな!」


 とドロシーも立ち上がって興奮する。

 その辺の民の管理は、ドロシーに一任しよう。


「どうだ? そうすれば、きっといい領地経営ができるはずだ! 金や物や人を、この城のまわりに集めるんだ!」

「なるほど! ロインさん、天才ですね! まさか領地経営の才能もあるとは……!」


「いやぁ……単なる思い付きですよ。それに、サリナさんの力も、かなり借りることになってしまいます」

「私は、ロインさんのためなら、このくらいなんでもないですよ! ギルドでぼーっと過ごしているよりは、やりがいもあります!」


 どうやらサリナさんも乗り気でいてくれているみたいだ。

 ドロシーも、やる気のようだ。


「私の念力で運べば、重たい商品でもすぐだしね!」

「うん、まあ……その辺はアイテムボックスもあるから完ぺきだな!」


 思ったよりも、人手もかからなさそうだ。


「じゃあ、私たちはさっそくそのアイテムを集めにいかなきゃね!」


 とクラリス。

 俺とクラリスは、冒険に出て余った素材などをここに持ち帰るのが仕事だ。


「そうだな! 今日からますますアイテム集めをしていこう!」


 俺は、この城を中心に、豊かな街ができるところを夢想した。

 きっと、すばらしい土地になる。

 今は未だ、なにもなくて殺風景な場所だが。

 俺たちの力で、ここを楽園にするんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る