第52話 下準備
素材集めに奔走する前に、まずは今できることをやろう。
俺はアイテムボックスを開いて、城の一番大きな部屋に余った素材をぶち込んだ。
「うわ……すごい、こんなに素材があったんですね……」
「まあ、こんな確定レアドロップ体質をしていますからね……自然と、使わない素材ばっかりにはなるんです」
あまりの素材の多さに、サリナさんは驚いていた。
まあ全部の素材を無理やり活かすこともできるが。
正直、装備品にもスキルにも今のところ苦労はしていない。
今までに隙間の時間で集めた素材が大量にあった。
「じゃあこれ、アイテムボックスです」
俺は予備のアイテムボックスをサリナさんとドロシーに渡す。
これで彼女たちだけでも商売を行える。
「あとは……商業に詳しい人を何人か雇いましょう」
当面の予算も渡しておく。
下っ端のスタッフは適当に雇っておいてもらおう。
それから、商業の責任者については俺が直接雇ったほうがよさそうだ。
俺はさっそく準備を始めた。
向かったのはとある商業ギルド――。
◇
商業ギルドから帰って来た俺は、サリナさんやドロシー。
徐々に集まりつつあるスタッフたちを集めた。
そして――。
「……ということで、彼が商業の責任者だ」
俺は雇った人物を、みんなに紹介した。
「はじめまして。アリエスタ商会の、ノエルです」
ノエルと名乗った人畜無害そうな青年は、深々と頭を下げた。
緑色の髪をした、エルフ族の人間だ。
「ちょっと……ロインさん、アリエスタ商会……!?」
サリナさんが驚いて言った。
そう、アリエスタ商会といえば、かなり有名な商業ギルドだ。
そんなところからやって来た人物、不思議がるのも無理はない。
「ああ、彼をアリエスタ商会からスカウトしたんです」
「えぇ……!? あのアリエスタ商会からですか……!? どうやって……」
そう、俺はノエルを引き抜いてきた。
もちろん、アリエスタ商会には話をつけてある。
もめごとにはならない。
「アイテムボックスや転移石の話をしたら、すぐにでもうちと組みたいと言ってくれたんですよ」「はい! もうロインさんのアイデアに感銘を受けました! アリエスタ商会総出で、ロインさんに協力しますよ!」
とノエルがやや興奮気味に言った。
そう、ノエルは一応、アリエスタ商会から借りていることになっている。
まあ給料もうちで払うし、好きに使っていいとも言われているから大丈夫だ。
他にも取引先や、人材の確保にも、アリエスタ商会は手を貸してくれるそう。
「でも、アリエスタ商会が後ろ盾になってくれるなんて……幸先いいスタートですね」
「ほんとうに、良かったです」
やはりアイテムボックスや転移石を使った商売というのは、商人からしても魅力的なのだろう。
少しでも甘い汁を吸おうとするのが道理だ。
俺としても、アルトヴェール領だけでなくミレージュの街を巻き込んだ貿易網を構築していきたいと思っている。
先行投資を惜しまないアリエスタ商会には、感謝しかない。
これから、利益をいっしょにあげていくつもりだ。
「じゃあ、ノエル。それからサリナさん、ドロシーあとは頼んだ」
「わかりました、ロインさん」
商会の設立や、それからの商売は彼らに任せる。
俺は、その間にも新たな商品を集めることにした。
「じゃあちょっと行ってくるよ」
「はい!」
俺とクラリスは、冒険の準備を始めた。
目指すはギルドラモンという街だ。
ミレージュ周辺にはない素材なんかを集めれたらいい。
それに、魔王軍討伐のために、強い冒険者を集めるのも目的の一つだ。
もっと領地を経営していきたいところだが……。
正直俺の性に合わないから、そこはみんなに頼ろう。
俺は俺にできることをするまでだ。
商売がうまくいけば、自然とこのアルトヴェール領にも人が集まってくるだろう。
戻って来た時に、商売がうまくいっていることを祈って……。
「さあ、やることはたくさんあるぞ……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます