第50話 試し斬り
俺はゆっくりと振り向いた――。
そこには、以前と変わらぬ大きさで……。
いや、以前にもましてぶくぶくと太ったタイラントドラゴンの姿。
どうやらデロルメリアの残した魔力を全部こいつが吸い込んでちまったみたいだな。
「さあ、その腹かっぴらいて、大人しくレアドロップアイテムをよこしな……!」
これだけ魔力を吸い込んでいれば、ドロップアイテムにもなにか変化があるかもしれない。
俺としては、そこにも期待を抱かざるを得ない。
「キュオオオオオオン!!!!」
タイラントドラゴンは、雄たけびを上げて、俺に襲い掛かってきた。
――ズドン……!
そのせいで、アレスターの墓石が破壊されてしまう。
「罰当たりなドラゴンだ……!」
責任の一端を感じなくもないので、このクエストが終わったら代わりの墓石を用意してやろう。
「キュオオオオオオオオオオオオ!!!!」
タイラントドラゴンは、大きく息を吸い込んで、ダンジョンフロアを満たすくらいのブレスを放った。
「く……!」
幸い、勇者の指輪の加護もあって、ブレスは俺に効かない。
だが、視界が大きく遮られてしまう。
「
俺はスキルを放った。
これで、タイラントドラゴンの弱点がハイライト表示され、視界の悪いなかでも位置が把握できる。
「そこだ……!」
俺は、タイラントドラゴンのいるであろう方向に、剣撃を放った。
ここからだと、弱点である首裏を狙うことはできない。
だが、今回は今までとは違う、最強の武器を、試し斬りに来ているのだ。
俺は迷いなく、タイラントドラゴンの硬い硬い
「
――ズシャァ……!
剣撃は、ブレスの煙をかき分けるようにして、まっすぐにタイラントドラゴンへと飛んで行く。
タイラントドラゴンも、見えないところから急に剣が飛んでくるとは思わなかったのだろう。
避けもせずに、その場に立ち尽くしている。
まあもっとも、気づいたとしても、あの巨体で俺の剣を避けられるとは思えないが。
――ズババババ……!
タイラントドラゴンの腹に、俺の剣撃が当たる――!
今までのデモンズブレードであれば、その攻撃は弾かれていただろう。
だが、今回の邪剣ダークソウルの剣撃波は、タイラントドラゴンの硬い鱗に突き刺さった!
――バリバリバリィ!
とものすごい音と火花を上げながら、タイラントドラゴンの腹に大きな切れ込みが入っていく!
だがしかし、さすがの巨体だ。
それだけでは、全体にダメージを与えることはできておらず、タイラントドラゴンはいまだに両足でしっかりと地面を踏みしめている。
「しつこいヤツだ……! これでくたばれぇ!」
俺はすかさず、
さっきの
そして、タイラントドラゴンの腹に空いた大きな切れめに、剣をぶっさした。
俺の攻撃はいまやすべてがクリティカルヒット!
さらに、傷口へのダメージは、そうとうな物だろう。
「ギュアアアアアアアア!!!!」
タイラントドラゴンは、絶叫した。
そりゃあまあ、俺でも傷口にこんなするどい剣を突き立てられたら、発狂する。
だが、タイラントドラゴンはしぶとく、まだ絶命しない。
どれだけ体力が多いんだ……!?
俺は、とどめの一撃を放った。
「
――バリバリバリバリバリィ!!!!
「ギュオオオオオオオオオオン!!!!」
タイラントドラゴンの腹から、傷口に電撃を流し込む!
全身に電撃がクリティカルヒット!
タイラントドラゴンは絶命し、その場にようやく倒れた。
「ふぅ……」
以前はあれほど苦戦した相手だったが……。
今度は俺一人で倒せるまでになった。
しかも、弱点を狙わずに、正面から一番固い部分を破壊してだ。
「これは、ドロップアイテムも期待できるかもなぁ」
今までの経験上、こういう一番固い部分とかを破壊すると、なにか特殊なアイテムが得られたりする。
俺は、タイラントドラゴンのドロップアイテムをまさぐる。
「お……! これは……!」
《転移石》
レア度 ★19
ドロップ率 ???
説明 手に持った者は、転移スキルを使用可能
「こんな便利なものが……!」
あれからスキルメイジを倒しても、転移のスキルはドロップしなかった。
だが、この石さえあれば、俺以外の人間も転移が可能になるというわけだ。
ドラゴンめ、腹の中にこんなものを……。
ドラゴン種の多くは、腹のなかでアルコールや宝石などを作ったりする体質だそうだ。
それは、ドラゴンの強さやブレスにも関係しているとか、学会では言われている。
「とにかく、コレはいろいろ使えそうだぞ」
サリナさんがギルドへ通勤するときとかに、俺が送っていく必要がなくなる。
まあ、それはいい時間でもあるのだけど……。
「よし、これはどうにか役立てよう!」
俺は既に、構想を頭の中で練り始めていた――。
――――――――――――――――――
【★あとがき★】
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