第49話 墓参り


 俺は邪剣ダークソウルの試し斬りに、龍の頂を訪れた。

 例の一件以来、龍の頂にいるドラゴンはいまだに狂暴化しているそうだ。

 デロルメリア出現時ほどではないが、その残滓というか、余韻が残っていて。

 今ではAランク以上の冒険者たちのいい稼ぎ場となっている。


「さて……お久しぶりだな、タイラントドラゴン……!」


 そう、俺がここに来たのはタイラントドラゴンの討伐のためだ。

 現在龍の頂には、またあの巨大ドラゴンが現れていた。

 もちろん、ヤツはかなりの強敵だ。


 以前の俺も、あれにはかなり苦戦した。

 まず身体が固く、まともに剣を通さない。

 そのため、クラリスと協力して弱点を上手く狙い、ようやく倒せたものだ。


 だが、今回俺はそれに一人で挑む。


「まあ、この武器ならいけるだろう……」


 このタイラントドラゴン討伐クエストは、張り出されてから、もう数日誰もクリアせずに終わっていた。

 なにせ、相手は俺ですら苦戦した強敵だ。

 それに、あの巨体を相手するために、クエストの規定人数が6人以上となっていた。

 通常、実力者ほど群れるのを嫌うのが冒険者という生き物だ。

 それに、複数パーティーが合同でとなると、それもまた折り合いがあわなかったりする。


「……ってわけで、俺が倒すしかないよな……!」


 俺はそんなことを考えながら、ダンジョンを歩き回った。

 途中何度か冒険者に会うが、彼らは小者のドラゴンを倒しているヤツばかりだ。

 まあ、俺としては仕事がスムーズにいくからありがたい。


 どうやらダンジョンの浅いところには、弱めのドラゴンが。

 奥に行けば行くほど強いドラゴンが出るらしい。

 まあ、デロルメリアが魔力を蓄えていた地点に近いと、そのぶんモンスターに魔力がいきやすいのだろうな。


「ならやはり、あそこか……」


 俺は以前にタイラントドラゴンと戦った場所までやってきた。

 そう、勇者アレスターが散った地だ。

 今ではそこに、アレスターの墓が作られている。


 まあ、こんな危険なところまで見舞いにくる人間は少ない。

 そのため、花もろくにそなえられておらず、手入れもなされていない。

 適当に置かれた石に、「勇者アレスターここに眠る」と書かれているだけだ。


 まあ、あの勇者にはふさわしい最後という人もいた。

 だが、俺は一応、ヤツをみとった手前、少し哀れにも思う。

 なので、少しばかりのお供え物を持ってきた。


「まあ、俺がタイラントドラゴンを倒せば、もうちょっと人が来るかもしれないからさ……。もう少し待っていてくれ」


 俺が墓に花を置いた時だった。

 前回のように、タイラントドラゴンの巨大な影が、俺の後ろから覆いかぶさった。


「ようやくお出ましか……」


 俺はゆっくりと振り向いた――。

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