第46話 王と勇者


 俺は勇者になったことで、王から呼び出しを受けていた。

 会いに来るのはいつでもいいとのことだったが、ちょうどいま暇なのでこうしてやってきたわけだ。

 転移で一瞬で家に帰れるしな……。

 面倒事はさっさと済ませておきたい。


「ではロイン様……王がお待ちです」

「ああ、ありがとう」


 俺は案内にしたがって、王のいる部屋――謁見の間に向かった。


「君が……ロイン・キャンベラスだね」

「はい、お初にお目にかかります」


 俺は、若き王に頭を下げた。

 さすがに、王に会うとなると緊張する。


「そうかしこまらなくてもいい。君は勇者なんだから。君とは対等な友人関係を築きたいと思っている。頭をあげてくれないか、ロイン」

「は……わかりました」

「敬語もよしてくれ。私のことは、ケインと呼んでほしいな」

「…………わかったよ、ケイン」


 王――ケイン・ヴォルグラウスに言われ、俺はしぶしぶ頭を上げる。

 いくら俺が勇者だからといって、フランクすぎないか……?

 まあ、王がそう言うのだから、無下にもできない。


 ケインか……俺の名前に、どことなく似ている。

 歳も近そうだし、親近感を覚える。

 向こうも、俺のことをそう思っているのだろうか。


 ケインは色の濃い金髪の、いかにも王族といった高貴な顔立ちの好青年だった。


「ロイン……あえてうれしいよ。この国を……いや、世界を危機から救ってくれてありがとう」

「いや、俺は当然のことをしたまでだ」


「実は先代の勇者――アレスターたちには私も頭を悩ませていたんだ……。君のような優秀な人物が現れてくれて、本当に感謝しているよ……」

「それはまた……」


 アレスターは王からも評判が悪かったのか……。

 そのせいで、あんなに荒れていたのかもな。


「実は、アレスターを勇者に指名したのは、先代の王――私の父でね。父が死んだことをいいことに、アレスターはあることないことでっちあげて、好き勝手に振舞っていたんだよ」

「そうなのか……。まあ、俺はそんなことはしないから安心してくれ」


「はは……そうだろうね。君はそういった私利私欲とは無縁の人間に見える」

「まあ、俺は強くなれさえすればそれでいい。そうすれば、護りたいものが護れるからな。そのためには勇者というのはちょうどいいポジションだ」


「ロイン、君と会えたのもなにかの縁だ。私から、君に爵位を進呈しよう……」

「爵位……!?」


 ケイン王は、俺にとんでもないことを言い出した。

 さっきからのフランクな態度からしても、そこらへんの王とは一線を画した人物だとは思っていたが。

 俺に爵位だって……!?


「そ、そんな……! 俺はそんなつもりでここに来たんじゃ……」

「いやいや、遠慮はしないでくれ。これは友人としてのささやかなプレゼントだよ」


 まったく……そこの知れない男だ。

 俺に恩を売って、勇者としてつなぎとめておこうという算段なのか……?

 それとも、ただたんに本当にお近づきの印でしかないのか……?

 まあ、いずれにせよ、俺にはいい話だ。


「ではロイン・キャンベラス子爵、君にアルトヴェール領を任せることにするよ……」

「あ、アルトヴェール領……!? そんな……! まさか……!?」


 アルトヴェール領というのは、俺たちが今住んでいるあの城のある地域のことだ。

 あの城以外には、荒廃した大地が広がるばかりで、大したものはない場所だが……。

 それでも広さでいえばかなりの土地になる。

 わずかだが畑もあり、農民も存在する、立派な領地だ。


「お、俺が……領主……!?」

「ああ、そうだよロイン。頼めるかな……?」


「も、もちろん……! ありがたく頂戴いたします! ケイン王」

「あはは……だからそうかしこまらないでくれよロイン。僕たちは友人、だろ?」


「は、はい……いや……ああ、わかったよケイン」

「よし、それじゃあ後のことは頼んだよ。あそこの土地は、君の好きに治めてくれ」


 まさか、俺があのアルトヴェール領の領主になるなんて……。

 王は、初めからそれを言うために、俺を呼んだのか。

 なんて気前のいい……。

 まあ、俺に守るものを増やさせて、勇者としての自覚を持たせようという算段なのかもしれないが……。

 それにしても、若いのになかなかやり手の王だな。


「ケイン……本当にありがとう。領地は、魔王軍との戦いに備えて、有効活用するよ」

「はは……ロインならそうすると思ったよ。期待している」


 俺は、このふところの広い王のためにも――いや、友人ケインのためにも、魔王軍を倒そうと思った。

 まあ、それもケインの思い通りなのかもしれないが……。


「はは……この人たらしめ」


 俺は、一人になった途端悪態をついた。

 ああいう魅力的な人物が王として君臨していると考えると、こっちもやる気が湧いてくるな。

 戦いがいがあるというものだ。


 領地は、今後発展させていき、俺によって最強の兵団を作ろう。

 そして、みんなが安心して暮らせる場所を作っていこう。





 家に帰った俺は、さっそくみんなに報告した。


「ロインさん、ここの領主になったんですか!?」

「ええ……そうみたいです……」


「すごいじゃない! ロイン! さすが私の相棒ね!」


「はっはっは! さすがこのドロシーちゃんの認めた男だ!」


 みんな、俺を祝福してくれた。

 今後、領地を発展させていくなら、彼女たちの尽力も必要だ。


「これからもよろしくな!」

「もちろん……!」


 さっそく明日からは、冒険の再開だ。

 領主として、もっと強くならなければな……!


 領地経営に関する細かい書類仕事は、サリナさんがやってくれた。

 それに、ドロシーはもともとこの辺りの姫様だった。

 なので、詳しいことはドロシーに訊けばよかった。

 面倒なことは、ドロシーが代わりにやってくれるそうだ。

 念力もあるから、力仕事もドロシーにとってはお手の物だ。


 最高の仲間たちが助けてくれる。

 だからこそ、俺は俺で、自分の戦いに集中できるのだった――!

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