第45話 武器屋と兵舎


「やあ、またきたぞ……」


 俺はすっかり、この街の装備屋の常連と化していた。

 慣れた手つきで武器屋の扉を開ける。


「お。英雄のお出ましだ……! 噂は俺も聞いてるぜロインのダンナ」

「おいおい……アンタまでやめてくれよ……」


 まさか武器屋の親父にまで知られているとはな……。


「俺としても、自分の作った武器が活躍するのは嬉しいよ」

「ほんとに、おかげさまだ……」


 この武器屋がいなければ、ここまでの成果は得られなかっただろう。

 まさに俺の恩人の一人といってもいい。

 これからもたくさん依頼をして、恩返しをしていこう。


「今日は、このアイテムを持ってきたんだ」


 俺は《白龍の龍玉》をアイテムボックスから取り出した。

 ドラゴネアの街で、ホワイトドラゴンたちを倒したときに得たものだ。


「おお! これは、《白龍の龍玉》じゃねえか!」


 龍玉とは違う効果があるみたいだが……。

 これはどうつかうのだろうか……?


「龍玉は会心率を上げるものだったよな……?」

「ああ……」


「《白龍の龍玉》は、会心の一撃のダメージ自体を上げる効果があるんだ!」

「なるほど……龍玉と対をなす感じか……」


 となると、ぜひこれも武器に組み込みたい素材だな……。

 龍玉で会心率を上げ、白龍玉でそのダメージを上げる……!

 なんともロマンのある話だ。


 だが、俺のデモンズブレードは既に限界なほど改造してある。

 それに、今では《邪剣ダークソウル》という新しい武器のほうが攻撃力も高い。


 俺は、デロルメリアのドロップアイテムである《邪剣ダークソウル》をテーブルの上に置いた。


「おいおい……これは……なんなんだ……!?」


 武器屋の親父は、見たこともない素材でできているその剣を、興味深く観察した。

 《邪剣ダークソウル》は、禍々しく、漆黒の煙のようなものを吐き出し続けている。


「さあな……俺もわからない。ただ、魔界のアイテムであることは確かだ。これを……改造できるか……?」


 さすがに優秀な武器屋の親父でも、コレを改造することはできないだろうか……?


「ちょっと待ってろ……時間をくれ。とりあえずこれは預かって、いろいろ試させてもらう」

「ああ、お願いするよ……」


 他の人間はこんな貴重な剣を渡せないが、この武器屋になら安心して預けられる。

 つくづく、俺は人に恵まれているなと思う。





 つぎに俺は、兵舎を訪れた。

 この街にも、大勢の訓練された兵士たちが滞在している。

 彼らは国から支給された武器を使っているのだが、それらはどれも経費削減のために、ベストなものとはいいがたい。

 中には前の部隊からのおさがり品などもあり、このままだと魔界からの脅威に対抗するには厳しい感じだった。


「兵士長に会いたいのだが……」

「あ、あなたは……! 勇者ロインさん……! い、今呼んできます!」


 当然のように兵士たちも俺のことを知っていた。

 本来であれば、勇者とともに魔界の脅威を倒すのは、兵士たちの役目でもあった。

 それを民間人でありながら一人でやってのけた俺に、みな羨望の眼差しを向けている。


「ロインさん、私が兵士長のカルロスです」


 やってきたのは、赤髪の初老の男性。

 年齢的に実際に前線で戦うというよりは、指導者的な人物なのだろうか。

 とにかく、俺は兵士たちのために、ある物を持ってきた。

 タイラントドラゴンのドロップアイテム《龍神骨》だ。


「兵士長さん、これ……俺からの差し入れです」

「こ、これは…………!?」


 俺がアイテムボックスからいきなり巨大な素材を引っ張り出したせいで、かなり驚かせてしまったようだ。


「《龍神骨》じゃないか……! ど、どうしてこれを……!?」

「これは俺一人で使うには大きすぎる素材です。ぜひこれで兵士たちの装備を一新してください。そのほうが、俺としても助かりますから」


 これから、魔界の脅威が大きくなると、俺一人では対処できないかもしれない。

 前回はデロルメリアだけだったが、複数の軍団に、複数の箇所を攻められるような事態もあり得るからな……。

 それに、兵士たちのような画一的な装備が求められる場所では、こういう大きい素材が役に立つ。


「そ、そういうことでしたか……! あ、ありがとうございます……!」

「まあ、そういうことだから、俺はこれで……」


「ま、待ってください! ロインさん!」

「え……?」


 《龍神骨》を渡すという目的を終え、俺がそそくさと帰ろうとすると、カルロス氏に呼び止められた。

 これだけでは素材が足りなかっただろうか……?


「まだなにか……?」

「その……我々兵士はみな、ロインさんのファンなのです! どうか、みなに会ってやってください! ロインさんに喝を入れてもらえると、きっと励みになります!」


「え、まあ……そういうことなら……別に構わないけど……」


 その後、兵士たちから手厚い歓迎を受けた。

 歓迎会を開いてもらったり、模擬試合をしたりなど……。


「ロインさん! 本当にありがとうございます! 俺たちはみんな、ロインさんにあこがれているんです!」

「俺の母親はドラゴネアに住んでいるんです! ロインさんのおかげで、助かりました!」


 などと、実際に兵士たちからそんな話をきくと、俺も世界を救ったという実感が湧いてきた。

 俺は、こんなにもたくさんの人と関わったんだ……。


 それと同時に、妙な責任感のようなものも沸いてくる。

 彼らの命を、決して無駄にしたくはない。

 俺が、きっと魔王を倒すんだ……!

 このとき、初めて俺は勇者としての自覚を得たのかもしれなかった――。

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