第42話 対魔王軍幹部デロルメリア戦


 俺はボス部屋の扉に、手をかける。

 クラリスは盾を念入りに構えて、扉を開けた――。


 ――ギィ……。


 ――シュィイイイイイイイイイン!!!!


「うわ……!?」


 扉を開けると同時、奥から超高圧の光線が、ものすごい速さで飛来した。

 光線は、クラリスの盾をかすめた。

 なんと、光線の当たった部分が、欠けてしまっていた。


「クラリス……だ、大丈夫か……?」

「え、ええ……なんとか……」


 危なかった、もし盾の真ん中を射抜かれていたら。

 盾ごと貫通してクラリスも俺も死んでいたかもしれない。

 あのクラリスの盾が、こうも簡単に破損するなんて……。

 敵の攻撃は、いったいどれほどの威力なんだ?


「おや……、また客人か……?」


 部屋の奥に、人影があった。

 そいつはゆっくりとこちらを振り向いた。

 おそらく、それが魔王軍幹部デロルメリアで間違いないだろう。

 彼は、以前の悪魔のような見た目から、人型のフォルムに変形していた。

 まるで魔術師のような風貌をしている。


 長い黒髪の初老の男性の見た目をしていて……。

 禍々しいローブを身に纏っている。

 ぱっと見では、性別も年齢もわからないような、そんな不思議な見た目。

 これがヤツの真の姿なのだろうか……?


 そしてデロルメリアは、なにやら魔力を増強するための装置のようなものをいじっていた。

 一言で表現すれば、巨大な時計。

 その作業の手を止め、俺たちの方を見た。


「お前が……デロルメリアか……?」

「ああ……私がデロルメリアだ。ニンゲンよ……」


 実に気味の悪い声で、そいつは返事をした。

 さっきの光線は威嚇だったのか、自動トラップだったのか、次の攻撃はまだ飛んでこない。

 しかし、いつ攻撃を仕掛けてくるかわからない。

 油断は禁物だ……。


「くっくっく……ニンゲンとは愚かなものだ……さっきの奴らよりは楽しませてくれよ……?」

「さっきの奴ら……?」


 勇者パーティのことだろうか……?

 というか、アレスター以外の面々はどこに……?


「私は今、魔力を増強させ、魔界への扉を完全に開くための準備をしている……。あいにくだが今、ちょうどいいところでね……。残念だが戦いに興じている暇はないのだよ……くっくっく……そこで、こんなものを用意した……」


 デロルメリアはそう言うと、パチンと指を叩いた。


 ――ガルルルルル!!!!


 暗闇の中から、一体のモンスターが登場した。

 三つ首の魔物――。


「け、ケロべロス……!?」


 だがよく見ると、その首についていたのは犬の顔ではない。

 勇者パーティにいた、あの三人の顔だった。

 俺は、底知れぬ怒りを感じた。

 彼らに特別思い入れはなかったが、それでもこれは……。

 人間として、許せない……!


「てめぇ……! ゲス野郎が……!」

「ひぃ……ロイン……あれって……」


 俺は、このデロルメリアとかいうふざけた悪魔を、絶対に許さない……!


「まずは、てめえらからあの世に送ってやるよ……!」

「ロイン……!?」


 俺はケロべロスに向けて、剣を放つ……!


 ――ズシャ……!


 一撃で、ケロべロスを真っ二つにする。

 俺はもう、迷わない……!


 デモンズブレードから、血がどぼどぼと滴り落ちる。

 俺はその中を、一歩一歩と進み、デロルメリアのもとへと近づく。


 しかし、デロルメリアはケロべロスが殺されたことにも気づかず……。

 もくもくとなにやら作業に集中している。

 俺は、完全に無視されていた。

 奴にとっては、俺なんて直接戦うにも値しないというわけだ。

 俺は勇者でもなんでもない。

 すでにケロべロスが勝ったとでも思っているのだろう。

 舐められたものだ。

 だが、俺はコイツを……許さない……!


「おい、オッサン……。無視すんなよ」


 俺はデロルメリアの首に、剣を添えた。


「おやおや……? 勇者パーティはもう倒したハズだったのですが……。まだこんなに戦えるニンゲンが残っていたとは……。ケロべロスを一刀両断ですか……あなた、なかなかやりますねえ」


 首に剣をあてられているというのに、デロルメリアはいたって冷静だった。

 それが余計に、俺の怒りを誘う。


「うるせえよ」


 俺はデロルメリアの首をスパっと落とした。

 以外にもあっけなく、倒せてしまったことに拍子抜けする。


「っは……!」


 デロルメリア自体の戦闘力はそこまででもなかったということか……?

 俺は安心して、剣を下げる。


「あっけなかったが……これでもう大丈夫だ……。帰ろう、クラリス」

「う、うん…………」


 俺はそこで、あろうことか後ろを向いてしまう。

 そのときだった。


「ロイン……! 危ない……!」


 クラリスがそう叫ぶ……!

 しかし、俺は後ろから迫る光線を、避け――。


「うわ……!」


 俺の後ろから、光線が飛来するッ――!


 ――キュィン!


 しかし、俺の持つ勇者の指輪が、それに反応した。

 光線へ向けて、勇者の指輪から赤い光線が発射される!


 ――ビュン!


 光線と光線は、相殺しあい、空中で消滅する。


「すごい……! これが勇者の加護……!?」


 しかし、俺はその拍子に転んでしまう。

 光線同士がぶつかった衝撃波で、空間が揺れる……!


 地面にずざぁああっと擦って倒れた。

 デロルメリアのほうを見ると、首はすでにないのだが、手足だけは動いている。


「まさか……デロルメリアめ……まだ生きているのか……!?」


 まあ、相手は魔界生物の悪魔だ。

 首をはねたくらいでは死なないということか……。


 しかし、あの光線はどこから……?


「くそ……、どうにか倒せないか……!?」


 俺は対策を考える。

 また次光線を撃たれれば、避けられるとも限らない。

 一瞬で思考を巡らせる。


 すると……。


「ロイン……!」

「ドロシー……!?」


 俺の持ってきていた手鏡が、俺に声をかけた。

 いや、正確にはその中にいるドロシーがだが……。


「私にも戦わせて……!」

「戦うって……どうやって……!?」


 ドロシーはそう言うと、手鏡のまま宙に浮かび上がった。

 そうか、ドロシーは幽霊で、念力が使える。

 ならば、手鏡を動かすことも可能なのか……!?


 そのとき、またデロルメリアの方向から、光線が発射される……!

 しかし、俺は地面に寝転んだままで、避けることができない……!

 指輪は再び力をチャージしているのか、弱く光るだけで反応しない。


「くそ……!」

「ロイン……!」


 なんとか盾を張ろうと、後ろからクラリスが走ってくる。

 しかし、間に合わない……!


「大丈夫……!」


 そう言ったのは、ドロシーだった……!


 ――キュィイイン!


 光線がこっちへ向かってくる……!


 しかし――。


 光線は俺には当たらなかった……。


 俺の持ってきたドロシーの手鏡。

 そいつが一人でに浮かびあがって、俺のことを庇っていた。


「ドロシー……!?」


 ドロシーは自分の念力で、俺を庇っていたのだ。


「ロイン……! 今よ……!」


 ドロシーがそう叫ぶ……!

 すると、ドロシーの手鏡から、光線がデロルメリアへと跳ね返った……!

 跳ね返った光線は、デロルメリアのホンモノの肉体を浮かび上がらせた。

 さっきの中年オヤジの後ろに、以前の悪魔のような見た目のモンスターが、半透明で存在している。


「こいつが本体か……!」


「ロイン、いっけええええええええ!」


 ドロシーが光線を放ちながら、俺を鼓舞する!

 そうだ、こいつは……デロルメリアはドロシーにとっても仇。

 ドロシーは、身を呈して俺を庇い、一か八かで戦闘に参加してくれたのだ!


 俺はそのチャンスを、活かす――!


「うおおおおおおおおおおおお!!!!」


 ドロシーからの光線でひるんでいるデロルメリアに向かって、俺は走る……!

 そして――。


雷撃剣サンダーソード――!」


 雷撃をデロルメリアの身体に叩き込む――!

 ヤツの肉体を、電撃が何度も跳ね回る。

 そのたびに、会心率の判定があるから、なんどもクリティカルヒットを与えることができる……!


「ぐああああああああああああああああああああ!!!!」


 半透明だったデロルメリアの悪魔の身体は、電撃でくっきりと浮かび上がっていた!

 あまりの電撃に、痺れ、動けなくなっている。


溜め斬りソードバースト――!!!!」


 俺はそこに、溜め斬りを叩きこむッ――!


 ――シュイイイイイイン!!!!


 会心の一撃――!!!!


 これまでにないほどの威力で、溜め斬りが炸裂ッ!

 電撃で弱っていたのか、剣は簡単にデロルメリアの身体に沈み込んだ。

 溜め+会心の一撃、さらに電撃での蓄積ダメージも乗っかっている!


「ぎええええええええええええええええあああああああああああああああああああ!!!!」


 デロルメリアの本体は、雄たけびをあげながら消滅していく!


「くそおおおお! ニンゲンどもよ……! だが、これで終わりと思うなよ……! またいずれ、魔界への扉が開くだろう…………! そうすれば、次はもっと強力な魔物が――」


 デロルメリアは言い終わる前に、完全に消失した。


「ふぅ……これで本当におわりか……」


 俺はようやく、気を抜くことを許される。


「ドロシー……ありがとう、助かった」

「私も、ヤツを倒せて満足だ……! ありがとうロイン……ここまで連れてきてくれて……」


 ドロシーは、鏡の中で幸せそうな顔をしていた。

 仇を討てたことで、成仏でもする気なのだろうか……?


「ドロシー……お前、きえるのか……?」

「どうやら……そうみたい……」

「ありがとう……ドロシー」

「ううん、ありがとうロイン」


 そう言うと、ドロシーは鏡ごと消えていった――。


「ドロシー……」


 かと思いきや……。


「ロイン……!」


 俺の後ろから、今度はドロシーが、現れた……!

 そして俺に飛びついてきた。


「ど、どういうことだ……!?」

「どうやら……成仏どころか、完全復活しちゃったみたい……」


「えぇ……?」


 どうやらそれが、あの手鏡の効果なようだった。

 中に憑りついている霊の願いをかなえると、蘇生する。


「まあ、ドロシーちゃんが復活して、よかったじゃない!」


 クラリスがそういう。


「まあ、そうだな……。これからもよろしくな!」


 俺たちは、固く手を握り合った。

 ドロシーはこれで、どこへでもついてこれる。

 彼女には幽霊のときと同じく、念力が使えるようだから、これからもいろいろと世話になりそうだ。


「それで……やっぱりドロップアイテムだよな……」

「やっぱり……」


 ようやく落ち着いたところで、やはり気になるのはそれだ。

 なんといっても、そのためにここまで来たのだから。


「さて、ケロべロスのドロップアイテムもあるよな……」


 まずはそれから確認してみよう――。

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