第41話 巨大龍


 俺は、タイラントドラゴンに斬りかかった――!


 ――ズシャ……!

 ――キン!


「なに……!?」


 しかし、俺の剣はタイラントドラゴンの固い鱗に弾かれてしまった。

 どうやらこいつは今までの軟なドラゴンとはわけが違うらしい。


「くそ、どうにかして弱点を突かないと……」


 俺はスキル弱点調査ウィークサーチを発動する。

 タイラントドラゴンの弱点は、首の裏側らしい。

 しかし、この巨体である。

 そこに一撃を喰らわせるのは、非常に難しい。


 ――グオオオオオオ!!!!


 タイラントドラゴンが大声をあげて、ブレスを吐き出す!

 通常のレッドドラゴンなどと比べて、身体が大きい分、やはり息の量もすさまじい。

 ダンジョン全体を覆いつくすような勢いで、熱風が放たれる!


「くそ……!」


「ロイン! 私の後ろに! 反射盾リフレク――!」


 クラリスが盾を張ってくれるが、もう遅い。

 俺はブレスの波にのまれそうになる。


「ロイン……!」


 俺の鎧自体はドラゴンブレスへの耐性を施してあるが、やはり直接息を吸い込むとダメージを受けてしまう。

 こんな熱波を直接吸い込めば、確実に死に至るだろう。


「くそ……! 息が……!」


 俺は咄嗟に息を止めるが、それでもブレスは身体の中に入ってきてしまう。

 このままでは、俺の身体が内側から焼かれてしまう……!

 絶体絶命だ、そう思っていた……。

 しかし、ドラゴンブレスを吸い込んだはずの俺の身体は、なんともなっていなかった!


「どういうことだ……!?」


 ふと、自分の指を見る。

 さっきドロップした勇者の指輪が、光り輝いている。


「これが……勇者の加護ってわけか……?」


 仕組みはわからないが、これはいい指輪だ。

 ドラゴンブレスを無効化してくれるというのなら、無茶な動きができる。

 俺はドラゴンブレスで視界が悪くなったダンジョンの中を、勢いよく走りだす。

 目指すはタイラントドラゴンの首の後ろだ。


「ちょ、ちょっとロイン! 大丈夫なの……!?」


「ああ、なんとか無事だ。クラリスはそこにいてくれ……!」


 ドラゴンは俺たちをブレスで葬ったと思っているのだろうか。

 それともクラリスの盾に気を取られているのか。

 もしくは自分のブレスで視界を遮られているのか……。

 なんにせよ、今がチャンスだ……!


高速移動スピードアップ身体強化パワーアップ!」


 俺はスキルを使って、タイラントドラゴンの身体を登り始める。


 ――グオオオオオオ!?


 身体への異変に気付いたのか、タイラントドラゴンはうめき声をあげ、身体をくねくねしはじめた。

 しかし、俺はここで振り落とされる訳にはいかない!


「オラァ!」


 ――グサリ!


 俺はデモンズブレードを、タイラントドラゴンの身体に突き刺す。

 鱗の間に剣をぶっさしながら、タイラントドラゴンの身体をよじ登っていく。


 ――グサ!


 ――ギャオオ!


 だがこんな小さなダメージでは、この巨体を倒せそうにもない。

 やはり、首の後ろの柔らかい部分を突かないと!


「クラリス! できるだけ、こいつを引き付けてくれ……!」


「わかった……! もう、ロインてば……無茶するんだから……」


 俺はタイラントドラゴンの身体の上から、下にいるクラリスにそう指示する。

 クラリスは盾で挑発をしながら、ダンジョンの中を駆け回る。


「よし、いいぞ……もう少しだ……!」


 俺はようやく、タイラントドラゴンの肩までたどり着く。


「クラリス、いまだ……!」


「わかったわ……! 盾火砲シールドビーム――!」


 クラリスが盾から光線を放つ!

 タイラントドラゴンの顔面に向けて、眩しい光線が炸裂する……!


 ――ギャオオ!


 タイラントドラゴンの顔面は強固で、それだけではさほどダメージを受けていないようだ。

 しかし、目くらましにはなったようだ。


「よし! お次はこれをくらえ……!」


 俺はタイラントドラゴンの鱗の隙間に、雷撃剣サンダーソードで電撃を流し込んだ……!


 ――バチチチチ……!


 ――ギャオオ!?


 鱗の下はそれなりに柔らかく、タイラントドラゴンはかなりの怯みを見せた。

 しかし、怯んだのは一瞬。

 タイラントドラゴンの巨体を痺れさせるほどの効果はないようだ。

 だが、俺はその一瞬の隙を見逃さない!


「いまだ……! 斬空剣エアスラッシュ――!」


 ――シュン!


 俺はタイラントドラゴンの肩の位置から、剣撃を飛ばす!

 斬空剣は、みごとにドラゴンの首の後ろの肉を抉りとった!


 もちろん、会心の一撃クリティカルヒットだ……!


「決まった……!」


 ――ズシーーーーーン!


 タイラントドラゴンの巨体が、地面に崩れ落ちる。


「よし、これでなんとか次に進めるな……!」


「さすがロインね。魔界級の超巨大魔物にも、勝ってしまうなんて……!」


「いや、クラリスのおかげさ。ナイスコンビネーション!」


 俺たちはハイタッチを交わす。


 タイラントドラゴンのドロップアイテムは、かなりの巨大な素材だった。



《龍神骨》


レア度 ★×14

ドロップ率 0.007%

説明 魔力を通しやすい骨



「これはまた……防具屋がよろこぶな……」


 俺がアイテムボックスを持っていなければ、持ち帰れないほどの素材だ……。

 これだけの量があれば、かなりの武器や防具が作れそうだ。


「これは兵士団にでも寄付しようかな」


 俺が使うよりも、これだけの量の素材で、同じ製品を大量に作ったほうが、使い道としてはよさそうだ。

 集団で戦う場合は、一人が強い武器をもっているより、装備品の統一をしたほうが戦力があがるからな。

 これからまた魔界からの侵略があるだろうし、兵士たちに使ってもらうほうがよさそうだ。


「ロイン……みんなのことまで考えているなんて……なんだかんだ言って、ドロップアイテムだけじゃないのね」


「当たり前だ……。俺をそんなアイテム狂のように思われても困る……」


 まったく、クラリスめ。

 さあて、次はいよいよダンジョンを抜け、ついにデロルメリアと対面だ……!


 俺はボス部屋の扉に、手をかける。


「待って、ロイン……! 私が、開けるわ。どんな危険があるか、わからないもの」


「ああ、そうか……頼む……」


 クラリスは盾を念入りに構えて、扉を開けた――。

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