第39話 苦戦【side:勇者パーティー】
※三人称視点
アレスターたち勇者パーティー一行は、ロインより一足先に、龍の頂に到着していた。
ロインが街でドラゴンキラーと崇められているころ……。
「ここが敵の拠点か……」
魔王軍幹部デロルメリアが根城を構える龍の頂――。
そこはかつての神々しい姿とは変わり果てていた。
もはやドラゴンたちの隠れ住む楽園ではなくなったのだ。
今やその頂上には禍々しい魔王城のようなものが建てられ、そこからは毒々しい煙が立ち上っている。
デロルメリアはその中で、人類侵略のために魔力を練っていた。
そして魔物軍団を創り出し、戦いの準備を進めている。
「絶対に俺たちが倒してやる……!」
アレスターは勇者らしく覇気のある表情で、魔王城を睨みつけた。
そして彼らはダンジョンの中へ入っていく――。
龍の頂の山頂にある魔王城、そこへ続く、ダンジョンへと――。
◇
「くそ……! 中にもまだこんなにドラゴンが……!?」
ダンジョンの中は、ドラゴンだらけであった。
レッドドラゴン、ホワイトドラゴンの他にも、様々なドラゴン。
アレスターは勇者とはいえ、それほどドラゴンとの戦闘経験があるわけではない。
そこに、大量の未知のドラゴンだ。
当然、苦戦を強いられる。
「おいゲオルド! しっかり盾を張れ!」
アレスターは傷を負いながらも、決して自分のミスを認めなかった。
自分の負った傷はすべて、盾職のゲオルドがへまをしたからだと決めつけていた。
「くそ! 敵の数が多すぎる! こう四方を囲まれていたら、俺の盾だけじゃムリだ!」
「いい訳はよせ! みっともないぞ! お前は仮にも勇者の盾だろう!」
戦いが上手くいっている間はよかったが、こう厳しい状況が続くと、パーティーの雰囲気も悪くなってくる。
特にアレスターは、先日の敗北が尾を引いて、イライラが募っていた。
「エレナ! 回復はどうした……!?」
「っく……やってるわ……でも、追いつかない!」
しまいには、回復役のエレナにも当たり散らす始末。
ドラゴンブレスの間をかいくぐりながら、戦闘を行うのは、至難の業であった。
継続的なダメージをやわらげるため、エレナは必至の回復を強いられた。
アレスターも必死に前にでて、剣で攻撃を行うが……。
龍の鱗は思ったよりも固く、弱点をピンポイントで狙わなければ、ダメージがろくに入らない。
「くそ……! なかなか当たらねえ!」
次第にアレスターのストレスがだんだんと溜まっていく。
ただでさえイラついているのに……怒りのボルテージがだんだん高まっていく。
そのいらだちは、他のパーティーメンバーたちから見ても明らかだった。
悪い雰囲気は、周りに伝播していく。
「ねえアレスター! さっきから全然当たってないじゃない! 私の魔法ばかりよ? 倒してるの!」
モモカも攻撃魔法を撃ちながら、アレスターを責める。
この中で唯一モモカだけが普段通りの仕事をできていた。
彼女の強力な攻撃魔法は、ドラゴンの固い皮膚すらも打ち砕く。
「っち……! 俺は一生懸命やってんだよおお!」
アレスターは怒りにまかせて、ドラゴンに無防備に斬りかかる!
――キン!
しかしデタラメな剣撃は、ドラゴンの尻尾に弾かれてしまった。
アレスターの剣が、地に落ちる。
「あ……!?」
そこへドラゴンの強力なブレス……!
ドラゴンは隙を見逃さなかったのだ……!
アレスターは絶体絶命。
「っち……勇者のくせに面倒をかけやがって……!」
ゲオルドは身を呈して、アレスターの前に躍り出る。
盾を全身で支え、ドラゴンの強ブレスを何とか耐えきった。
――ズドーン!
そこをすかさず、モモカの攻撃魔法がドラゴンを射抜いた!
アレスターに気を取られていたドラゴンは、脳天を貫かれ、死亡する。
「ふう……なんとかなったみたいね……」
モモカの攻撃魔法で、この場はなんとかしのぎ切ることができた。
ゲオルドの盾を持つ手は震えていた。
「あ、ありがとう……」
危機一髪で難を逃れたアレスターは、自然とゲオルドに礼を言っていた。
彼が咄嗟にアレスターを庇わなければ、死んでいた。
冷静になってみると、一番足を引っ張っていたのはアレスターだった。
「てめえ! 勇者のくせに、一回負けたくらいでナヨナヨしてんじゃねえ! こっちは命かかってんだぞ!」
ゲオルドはアレスターの首元を掴み、喝を入れる。
ここで立て直さないと、とてもではないがこの先に進めない。
アレスターはそれで目が覚めたように、表情に覇気を取り戻した。
「あ、ああ……すまなかった……」
気を取り直して、全員で先へ進む。
ダンジョンを抜けると、いよいよデロルメリアとの対決だ。
◇
「魔王軍幹部デロルメリア! 俺は勇者アレスター・ライオス! この世界を脅かすことは、この俺が絶対に許さん!」
再び覇気を取り戻したアレスターは、堂々とデロルメリアのいるボス部屋の扉を開けた。
しかし――。
――キュルルルルルルルル……。
――ズドーン!!!!
扉を開けた瞬間、アレスターたちの元へ、超高速で光線が飛来した。
完全に不意を突かれたアレスターたちは、なす術がなく。
アレスターは間一髪で、当たらなかったものの、髪をわずかにかすめた。
彼の金髪の一部が、焦げてしまう。
「な……!?」
アレスターは恐れのあまり、その場で動けなくなっていた。
(なんだ今の攻撃は……。まったく見えなかった……。これが、魔界から来た異世界のモンスター……!?)
驚きのあまり、アレスターは味方たちがどうなっているかに気づかなかった。
足元に、生暖かい液体が流れてきたのを感じで、ようやく我に返る。
アレスターが足元をみると、そこには大きな血だまりができていた。
「は……………………?」
一瞬、意味が分からなかった。
アレスターに、敵の光線は当たらなかったはずだ。
だが、アレスターの後ろにはパーティーメンバーたち。
そこで、アレスターは気がついた。
(誰に……当たった……!?)
この血は、仲間の内の誰かのものだ。
そう気づく。
時が、一瞬が、永遠にも感じられる。
だが、アレスターは決して振り向こうとはしなかった。
振り向くのが、怖かった。
「なあ……」
突然、ぽんと、アレスターの肩に手が置かれる。
ゴツゴツとした男の手。
(よかった……ゲオルドは無事だ)
ゲオルドはアレスターにこう言った。
「俺は……あの悪魔野郎を絶対に許せねえ……! なあ、アレスターよ……」
「あ、ああ…………」
そう力なく応えたアレスターの声は、震えていた。
ゲオルドはアレスターを差し置いて、一歩前に出る。
「こっから先は、誰も死なせねえ……!」
盾を構え、アレスターたちを守ろうとしている。
ふと、アレスターの耳に泣きじゃくる女の声が聞こえた。
「ぐすん……ぐすん……ダメ……ダメ……死なないで…………!」
(エレナ……? 泣いているのか……?)
アレスターの後ろで、エレナが泣いている。
そして必死に回復魔法をとなえている。
ということは……モモカに光線が当たった……!?
アレスターはその結論に達していながらも、後ろを向く勇気が出ない。
「うおおおおおおおおおお! 俺たちが世界を救うんだ! いくぞアレスター!!!!」
ゲオルドはそう叫ぶと、あの悪魔――デロルメリアに向かって突進していく!
そう、ゲオルドはアレスターが後ろからついて来ていると信じていたのだ。
だが、アレスターは動かなかった……。
(くそ……! 俺は……!)
アレスターは後ろを振り向くことも、前へ進むこともできずに、ただその場に立ち尽くす。
「ぐわああああああああああああ!!!!」
目の前で、ゲオルドの盾が破壊された。
ゲオルドはモモカと同じように、光線で焼き尽くされた。
「っひ……!?」
アレスターは思わず目を閉じる。
(このままでは……俺も殺される……!?)
次にアレスターがとった行動は――。
「ごめん……! みんな……!」
アレスターは後ろを振り向くと、一目散に逃げだした。
振り向いたときに、倒れているモモカが目に入った。
そして、そのモモカを必死に治療し続けるエレナも……。
しかし、アレスターは逃げ続けた。
モモカの姿を見てしまったことが、アレスターにさらに歩をすすめさせた。
(モモカ……ゲオルド……エレナ……)
アレスターは元来たダンジョンを引き返す。
逃げながら、モモカの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
「おぇ…………!」
アレスターはその場に吐いてしまう。
(モモカ……顔が、なかった……首からうえが……)
「おぇええええええ……!!!!」
エレナは、どうなったのだろうか……。
そんなことを考えながら、アレスターは立ち止まっていた。
今から引き返せば……いや、それももう遅いか……?
などと考えるが、それはただのいい訳に過ぎない。
本心では、もはやアレスターに戦う気など残っていなかった。
あまりの気分の悪さに、ダンジョンの途中で立ち止まってしまったアレスター。
そんなアレスターの元に、大きな影が差す。
「あれ……?」
ふとアレスターが振り返ると、そこにはみたこともないほどの巨大なドラゴンがいた。
「はは……バチがあたったのか……」
もうアレスターに抵抗しようという気は――。
――無かった。
――グシャッ!
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