第36話 そのとき彼らは……【side:勇者パーティー】

※三人称視点



 ロインたちが上空を見上げ、魔王軍幹部デロルメリアの出現を確認しているとき――。

 時を同じくして、それを見つめる者があった。

 そう、ロインに敗れ、隣町に敗走したあの勇者パーティーである。

 勇者アレスター・ライオスは、これを名誉挽回の機会と考えた。


「はは……ついに魔王軍のお出ましか。いよいよ勇者である俺の出番だな」


 彼の持つ勇者という肩書は、まさにこの時のためにあった。


「ああ、あのロインとかいうヤツを見返してやろう」


 ゲオルド・ラーク――ランキング3位の大男が、それに同意した。

 彼もまた、ロインのことを疎ましく思っていた。


 パーティーの女性陣、モモカとエレナも同じ思いだった。


「ええ、私たちの名誉を取り戻すのよ!」

「やられてばっかじゃいられないわ!」


 常にランキングトップに君臨してきた彼らにとって、ロインの存在はとても脅威であった。

 プライドの高い彼らは、それだけあの敗北を重くとらえていた。


「このままだとランキング1位の座を奪われかねないからな……。ここで魔王軍幹部を倒して、また街に戻れば、俺たちは返り咲ける」


 今やどこのギルドも、魔王軍幹部討伐の依頼で大盛り上がりだった。

 彼らが逃げてきた街も同様、冒険者たちの話題はそればかりだった。

 いったい誰があの恐ろしい悪魔を退けるのか……。

 もちろん、アレスターたちにも期待の目が集まった。


「まず、作戦はどうする? あのデロルメリアとかいうヤツは、ドラゴンマウンテンに拠点を構えるとか言っていたが……」


 用心深いゲオルドが、アレスターに問いかける。

 しかし、アレスターにはそんな余裕はなかった。


「作戦なんてないさ。ドラゴンマウンテンに行って、ヤツを倒す。それだけだ。もたもたしてると、またあのロインとかいうやつに足元をすくわれかねんからな……」


「そうね、他にも手柄を狙っているパーティーはいくらでもいるわ。なるべくはやく出発したほうがよさそうね」


 モモカも同意のようだ。

 勇者パーティー一行は、自分たちの能力を過信していたのだ。

 というのもあたりまえである。

 最も冒険者が多く集まる街で、長年ランキングトップに居座り続けたのだ。

 あくまでロインや魔界からの訪問者が異質なだけで、彼らはずっとトップ冒険者だった。

 負けるとしたら、それは相手が強すぎる場合だけである。


「よし、じゃあドラゴンマウンテンに出発だ!」





 ドラゴンマウンテンに向かう途中、彼らはある街から、要請を受ける。

 その街は、ドラゴンマウンテンに最も近い街だった。

 男の話によると、街には多くの魔物が押し寄せ、ほぼ壊滅状態なのだという。

 どうやらドラゴンマウンテンから、次々といろんな魔物が出てきているらしい。

 それはおそらく、あの魔王軍幹部の仕業に違いなかった。


「なるほど、敵は拠点を築き、そこから勢力を増強して攻めてきているわけだな……?」


 アレスターは腕を組んで、偉そうにそう言った。


「お、お願いいたします勇者パーティー様! なんでもいたします! ぜひドラゴンマウンテンに向かう前に、街のほうにも寄っていただきたいのです!」


 男はアレスターの肩を掴み、懇願する。


 しかしここから街に向かうには、遠回りをしなければならない。

 アレスターたちは、街を無視してドラゴンマウンテンに直行するルートを選んでいた。


「ああ、わかった! 俺が勇者の名に懸けて、きっと街を魔物たちから取り戻してみせよう!」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 男は何度も頭を下げ、礼を言った。


 男が去った後、ゲオルドはアレスターに言った。


「おいおい、マジでそんな寄り道をするつもりか?」


「……っは! そんなの適当に言ったに決まってるだろ! 俺は一刻も早くあの魔王軍幹部を倒すんだ。他の下っ端魔物たちなんか、俺たち以外のザコに任せておきゃいい」


「だよな!」


「俺はそんな馬鹿じゃないぜ? 手柄を横取りされるのはまっぴらごめんだ! 誰よりも早く行動した者が、最後に笑うのさ」


 なんとアレスターが男に誓った言葉は嘘であった。

 彼らは街の人たちの想いや命よりも、自分たちの手柄を優先することを選んだのだった。

 それがのちにどう響くか――。


 それはまだ、誰も知らない。

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