第33話 情報屋


 戻って来た俺たちは、再び情報屋を訪れた。

 アイテムボックスを手に入れたことを報告するためだ。

 あと、部位破壊のことも話しておきたい。


「いらっしゃい、おや……アンタか。ずいぶん早いご帰還だね。またなにか情報が必要か?」


 情報屋の親父は、また儲かりそうだという顔をした。

 だが、今回情報を買うのは俺ではない、情報屋のほうだ。


「いや、アイテムボックスはもう手に入れた。おかげさまでね」

「なに……!? あ、アンタ……マジで言ってるのか……!? あ、あり得ねぇ……」


 俺がアイテムボックスを見せると、情報屋の親父はカウンター越しに立ち上がって身を乗り出した。

 まあ、まさかこんなに早くアイテムボックスをてにいれてくるとは思っていなかっただろうな。


「だ、だが……いったい……ど、どうやって……」

「情報、買ってくれるんだろ……?」

「あ、ああ……」


 俺もタダで話すほどのお人よしではない。

 情報屋なのだから、情報は金で仕入れてもらわないとな。


「これだけだそう……」


 情報屋は指を2本立てた。


「200万か……まあ、いいだろう」

「いや……その十倍だ」

「えぇ……!?」


 俺はそこまでぶんどる気はなかったんだが……。

 せいぜい最初にこっちが払った500万くらいが戻ってくればと思っていた。


「そ、そんなに……!?」

「なに、こっちとしてはもっと払ってもいいくらいだが?」

「いや、もういい。それで十分だ」


 だが、なぜそこまで金を支払うんだろうか。

 アイテムボックスについての情報は、それほど貴重なのか?


「あんたは1日でアイテムボックスを手に入れてきた。そんな人間の情報、俺としては喉から手が出るくらい欲しいのさ……」

「そうか……なら、話そう」


 まあ、確かに……アイテムボックスは俺を含めても、まだ4人しか得た人がいないんだもんな……。

 それもそうだ、まずアイテムボックスを手に入れるには、強敵フクロトロールの袋を破壊しなければならない。

 フクロトロールは袋を守る習性があるから、なかなか難しいことだろう。

 それに加えて、0.01%という運にも恵まれなければならない。

 まさに幻のアイテムというわけだ。


 俺は、アイテムボックスの入手に、部位破壊が条件にあることについて、情報屋に話した。


「なるほどな……そんな条件があったとは……。これは新しい情報だ。また、他のモンスターでも同じようなことがあるかもしれん……。もしわかったら、そのときは情報を買い取るよ」

「ああ、そのときはまた来るよ」


 たしかに、情報屋の言う通り、部位破壊は他のいろんなモンスターでも試してみるべきだろう。

 まだこの世界に見つかっていないレアなアイテムが、たくさんあるかもしれない。


「それにしても、よくわかったな……。というか、アンタどんだけ運がいいんだ? それについても、なにか秘密があるんだろう……?」

「いやぁ……俺の運については、話しても真似できるやつはいないさ」


 確定スキルのことについては、とりあえず黙っておくことにしよう。

 そのときだった、急に、店全体……いや、街全体がわずかに揺れたような気がした。


 ――ドーン!!!!

 ――ビリリリリリ……!


「地震か……?」


 しかし、それ以上になにか不穏な感じがする。

 もっとこう……上手く言えないが、なにかとてつもないことがおころうとしているような……。

 漠然とした、嫌な予感だ。


「時空が乱れているんだろう……」


 物知りげに、情報屋がそんなことを言った。


「時空……?」

「ああ、アンタ、知らないのか」


 そんな当然のような顔をされても困る。

 俺は田舎者だし、たしかに都会の常識はまだ慣れない部分もある。

 だが、時空の乱れって……なんだ……?


「500年周期の時空の乱れさ。勇者だ魔王ってやつ、そろそろ空間が歪み始めてるんだよ」

「なに……!?」

「つまり……魔界とこっちが繋がりかけてるんだ」

「そ、そんなことが……!?」


 確かに、伝説でそういう話は聞いたことがあるが……。

 500年周期……!?

 今がそのときだっていうのか……?


「まあ、近い内にわかるさ……」

「そうなのか……?」


 なんだか不気味な話だ。

 だけどまあ、勇者だなんだということは、例のあいつがなんとかするんだろう?

 俺にはあまり関係のない話かもしれない。

 とにかく、いつなにが起こってもいいように……。

 俺は俺で強くなるだけだ。


「しかし、あんたはすごいな。まだ冒険者としては始めたばかりなのに、こんなふうにアイテムボックスまで手に入れちまうなんてよ。ロイン・キャンベラス」


 と、急に情報屋の親父がそんなことを言った。


「あれ……? 俺、名乗ったか……?」


 俺はここに来て、名まえを言った覚えはない。

 クラリスとの会話を聞かれたかと思ったが、俺のフルネームはわからないだろうし……。


「おいおい、こっちは情報屋だぞ?」

「はは……なんでもお見通しってわけか……」


 きっとどこかのバカな野次馬が、俺の情報をせっせと売りに来ているんだろうな……。

 まあ、俺もそれだけ注目を浴びるようになったってことか。


「じゃあ、また来るよ……」

「ああ……健闘を祈る」


 俺たちは情報屋を出た。

 このとき、俺たちはまだ知らなかった。

 この先にある、とんでもない大事件を――。

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