第32話 部位破壊


 俺とクラリスはフクロトロールを倒すため、深き森を訪れた。

 ダンジョンはその名の通り、真っ暗な森におおわれている。


「あ、ロインみて! あれがそうじゃない?」

「よし! 倒そう!」


 クラリスがさっそく一匹見つけた。

 フクロトロールはその名の通り、身体に袋のついたトロールだ。

 でかく丸まったお腹の表面に、袋のような皮膚が付着している。

 彼らはそこに、食べ物などの物を入れるそうだ。


「グモオオオ!!!!」


 向こうもこちらに気づいたようで、こっちへ駆け寄って来た。

 大きく拳を振り上げて、俺たちを殴る気だ。

 気性の荒いモンスターらしい。


「ロイン! 私に任せて!」


 ――キン!


 クラリスがフクロトロールの拳を、盾で受け止める。

 しかし、盾を持つその手は震えていた。


「すごい力……」

「待ってろクラリス、今倒す!」


 クラリスが押しつぶされてしまう前に、倒さないとな。

 フクロトロールはかなりの巨体で、どこを狙えばいいのかわからない。

 できれば一撃で仕留めたいところだが……。


「そこだ……!」


 俺は首を狙って、剣を放った!


斬空剣エアスラッシュ――!」


 ――ズシャアア!!!!


 俺の剣から出た斬撃派が、フクロトロールの首元に到達する。


 ――ブシャアアアア!!!!


 首元がスパッと切れ、真緑の血が噴き出した。


「さすがロイン! 楽勝ね!」

「よし! ドロップアイテムは……」


 俺は倒れたフクロトロールに駆け寄り、アイテムを探す。

 一発でアイテムボックスが出ればいいのだがな……。

 がしかし――。



《サンライト鉱石》

レア度 ★★★★★

ドロップ率 0.5%

説明 武器の強化素材の石



「ハズレ……か……」


 これも確かにレアドロップには違いないが……。

 少なくとも俺が求めているものとは違う。

 いったいどういうことなんだろう。

 一体のモンスターに、複数のドロップアイテムがあることは珍しくないが……。


「まあいい、次だ!」


 俺たちは他の個体を探した。

 だが――。


「違う……これもダメだ!」


「違う……!」


「ハズレ……!」


「クソ……次!」


 いくらフクロトロールを倒しても、一向にアイテムボックスはでてこない。

 あの親父……俺を騙したのか……?

 いや、そんなはずはない。

 あれだけの金をとるんだから、確かな情報であるはずだ。


「ねえロイン。戦い方を変えてみるのはどう?」

「戦い方……?」

「そう、さっきから斬空剣で首を斬ってばかりでしょう? そうじゃなくて、他の方法で試してみるの」

「そうだな」


 倒し方によってドロップアイテムが変わるという話は聞いたことがないが……。

 それでも同じことを繰り返して、同じ結果が出続けるよりはましに思えた。


 俺たちはさまざまな倒し方を試した。


盾火砲シールドビーム――!」


 クラリスの盾から、火の光線が出る。

 それはフクロトロールの身体を焼ききった。

 腕がまる焦げだ……。


「ダメか……」


 しかし、アイテムボックスはドロップせず。

 俺の袋に微妙な使いどころしかない鉱石が溜まり続ける。


「ん……? 袋……?」


 そうだ、俺は戦っている間に気づいた。

 今もそうだ。

 フクロトロールは、死ぬ間際に、自分のお腹の袋を庇う動作をする。

 さっきも光線を腕で受けた。

 決して袋が傷つかないように守っているのだ。


「よし、クラリス。次はヤツの袋ごと破壊する! 手伝ってくれるか?」

「もちろん!」


 作戦はこうだ。

 最初に、クラリスが挑発でひきつける。

 それを俺が、溜め斬りで袋ごと粉砕するのだ。


「いくよ! 《挑発アピール》――!」


 ――キュイン!


 クラリスの盾が、きらりと光る。

 フクロトロールはそこに向かって一直線。


「グモオオオオ!!」


 俺はクラリスの横で、あらかじめ溜めの動作をして待ち構える。

 置きの溜め斬りだ。


「よし、いまだ!」


 俺は溜めに溜めた剣を、フクロトロールにむけて振り下ろす!


溜め斬りソードバースト――!」


 ――ズドーン!!!!


 ――ズシャアアアア!!!!


 俺の剣が、フクロトロールの脳天から足先までを切り裂く。

 その音は森中にもこだまするほどだった。


 しかもそれだけではない。

 俺の剣が直撃したとき、いつもはしない音がしたのだ。


 ――キュイン!


「これがクリティカルヒット……!?」


 そう、会心率を得たことにより、俺は普段より数倍の力でフクロトロールを攻撃していた。

 当然、フクロトロールはひとたまりもない。


 フクロトロールの身体が、袋ごと消失する――。

 そんな威力の剣撃。


 俺が剣を地面に置いたとき、フクロトロールの姿は消滅していた。

 あまりにもの威力に、欠片すら残らず消え去ったのだ……。


「す、すごい威力ね……」


 クラリスも盾の後ろで驚いている。

 この大盾がなければ、彼女も危なかっただろう。

 この技は、町中なんかでは使えないな……。


「さて……ドロップアイテムは……。…………!?」


 そこには、小さな箱のようなものが残されていた。


「こ、これが……!」



《アイテムボックス》

レア度 ★×13

ドロップ率 0.01%(袋・部位破壊によりのみ出現)

説明 なんでも無限に収納できる不思議な箱。



「やったわねロイン!」

「あ、ああ……」


 どうやらこれは、フクロトロールの袋部分を破壊することでしかドロップしないアイテムらしい。

 これは……かなり貴重な情報じゃないのか……?

 アイテムボックスだけでなく、思わぬ報酬が得られた。


「さあ、さっそく使ってみよう」


 俺は今回のフクロトロール乱獲で得たサンライト鉱石を、さっそくそのアイテムボックスに移した。

 箱とアイテムを接触させると、するするとどこかに消えるようにして収納された。


「すごいな……こんな小さな箱なのに……」


 どういう仕組みかはわからないが、これはかなり便利だ。

 多すぎてドロップアイテムをあきらめるということがなくなる。

 これからは、かなり長時間ダンジョンに潜れるだろう。


「よし! 帰るか! 情報屋にみやげもできたしな!」

「そうね、サリナさんとドロシーが待ってるわ」


 俺は転移のスキルをつかった――。

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