第28話 幽霊のレアドロ~


 不動産屋が勧めてきたのは意外な物件だった。

 俺たちに金があるとわかると、特別な物件があると言ってきたのだ。


「こちら、古く使われなくなったお城をリフォームしたものでございまして~」

「うーん……」


 俺の気持ちは揺れ動いていた。

 たしかに、4億で城が買えるのは魅力的だ。

 しかも、転移をすればすぐに行けるし……。

 これだけの家を買っておけば、一生困らないだろう。


「よし……! 買う!」

「ほ、ほんとですか……!」


 俺は見学もそうそうに、購入を決めた。

 なぜかこの城は、俺に買ってほしそうな感じがする。

 まるで城自体に呼ばれているような……。


「いいのロイン? こんな買い物しちゃって……」

「ああ、いいんだよ。三人で住むんだし、大きい方がいい」


 俺はその場で古城を購入した。

 そして、さっそくそこに住むことにする。

 広く快適な家だったが……夜になって問題が起こった。


 ――こっちよ……。

 ――こっちよぉ……。


 という不気味な声が、ベッドルームまだこだまする。


「ん……ねえ、ロイン。あなた寝言を言っているわ……」

「いやクラリス、俺じゃない……」


 寝ぼけているクラリスに、俺は否定する。


「え……? じゃあ、サリナさん……?」

「いや……私も何も……」


 おかしい……やはり昼間の見学のときから、この城にはなにか不思議なものを感じていた。

 誰かに呼ばれている気がしていたのは……この声だったのか……?


「ちょっと見に行ってみよう……」


 俺は武器を持って、暗闇の中を歩いていく。

 声のする方へどんどん……。


 ――ッサ!


「何者だ……!?」


 急に、怪しい影が俺の目の前に現れた。

 それは薄ぼんやりとした光で、暗闇を照らし出す。


「ゆ……幽霊……?」

「はーはっは! 愚かな人間よ! まんまとこの城を買いおって! すべて私による罠とも知らずに!」


 などといって、その影は実態を現した。

 口調とはギャップのある、ドレス姿の女の子だ。

 紫色のドレスに、金色の髪をロール状に巻いている。


「なんだお前は……!」

「私はこの城に住む幽霊、ドロシーちゃんだ! お前の魂を喰らってやる! 死ねえええええええ!!!!」

「っく……!?」


 ドロシーと名乗るその幽霊は、いきなり俺に襲い掛かってきた。

 俺はそれを、デモンズブレードでズバッと切り裂――。


 ――スカッ。


「あ、あれ……?」

「ふわーはっはっは! 私は幽霊なのだぞ!? そんな攻撃、効かぬわ!」

「っく……! 何だって……!?」

「これでも喰らえー!」


 ドロシーがそう言うと、家の中の家具が俺に飛び掛かってきた。

 タンスや椅子、テーブルが俺に襲い来る。


 ――ビュン!


「うわ! あぶねえ! というか買ったばかりの家なのに……!」

「はっはっは!」


 くそ……なんとか対処法はないのか……!

 俺は考えを巡らせる。

 そうだ……!

 俺にはちょうど、スキルがあったじゃないか!


弱点調査ウィークサーチ――!」


 弱点調査のスキルを発動させる。

 さっきまで暗闇で見えにくかった幽霊の姿が、よく見える。

 それだけじゃない、幽霊の身体の真ん中あたりに、コアのようなものが赤くハイライト表示されている。


「あれが本体か……!?」


 幽霊というのは、なにか思い入れのあるものに、憑りつくらしい。

 よく見てみると、そのコアのようなものは、古い手鏡だった。


「あれを壊せば……! うおおおおお!」


 ――キン!


「な、なんだって……!?」


 俺の剣が、幽霊のコアである手鏡を捉えた!

 手鏡は何かで強化されているみたいで、割れずにキン! と音を立ててその場に落ちた。


 ――シュウウウン。


 それと同時に、幽霊の姿も消えてしまう。

 まるで、俺が夢でも見ていたかのようだ……。


「ふぅ……なんだったんだ今のは……」


 どうやらもう声もしないし、幽霊というのは消え去ったようだな。

 だが……あのドロシーと名乗った幽霊の少女はいったい……?


「あ……!」


 そう言えば、手鏡がまだ残っているな。

 俺は地面に落ちた手鏡を、拾いに行く。

 それは、まるでいつも俺がレアドロップアイテムを拾いに行くかのように――。


「ま、まさか……これも幽霊のレアドロなのか……!?」



《ドロシーの手鏡》

レア度 ★×?

ドロップ率 ???

説明 ドロシーという少女が生前に使っていた手鏡。



「これ……どうやって使うんだ……?」


 俺は手鏡に自分の顔を映してみようとする……。

 しかし、そこに映ったのは俺の顔ではなく――。


「ちょっと! ここから出しなさいよ!」

「な……!?」


 さっきの幽霊少女、ドロシーの姿がそこにはあった――。

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