第27話 億万長者


 俺とクラリスは、余ったスキルブック5冊をうるために、先日のスキルブック屋を訪れることにした。

 いくらで売れるかはわからないが、これを次の冒険の資金にしよう。


「いらっしゃーい」


 先日のお姉さんが、また出迎える。

 お姉さんは俺に気づき、おっと顔つきが変わった。


「おやおや……ちょっと見ないうちに、女連れでご帰還かい?」

「はは……まあね」

「それで、スキルブックは手に入ったのかい?」


 お姉さんは皮肉混じりに言った。

 きっと俺がスキルブックを得られずに、おめおめと帰ってきたとでも思っているのだろう。

 だが残念、俺はしぶしぶスキルブックを買いに来たのではない。

 余ったスキルブックを売りにやってきたのだ。


「ああ、おかげさまでね」

「え……?」


 俺はスキルブック5冊を、カウンターにどさっと並べて見せた。

 どれも価格は予想もつかないが、魔法系スキルのものだ。

 俺もクラリスも、魔法使い系の職ではないので、使わない。


「ちょ、ちょっとあんた……こ、ここここここれは……!?」


 意外な展開に、お姉さんはすっごく驚いている様子だ。

 まあ、まさか5冊も持ってくるとは思わないだろうな。


「ど、どこかで盗んだんじゃなかろうね……?」

「いやいや……どれもドロップアイテムですよ」

「そ、そう……それにしても……アンタ意外とすごいんだね……」

「まあ、運がいいだけですよ……」


 お姉さんはカウンターの奥に引っ込んで、なにやら計算をし始めた。

 すでにある在庫なんかと照らし合わせているのだろう。


「うん、じゃあ……8億Gでいいかい?」

「は……?」


 お姉さんが提示した金額に、俺は耳を疑った。

 しかし、彼女が手に持つ小切手にも、ちゃんとそう書いてある。


「ね、ねえロイン……私の聞き間違いじゃなければ……はちおく……だよね?」

「あ、ああ……な、なにかの間違いでは……!?」


 俺たちは顔を見合わせる。


「いや、これで合っているよ。高名な魔法使いとかが、いくらでも出すんだよこういう品は」

「そ、そうなのか……」


 しかし……金っていうのはあるところにはあるものなんだな……。

 俺が田舎者だから知らなかっただけか?


「じゃあ、とりあえずもらっていくよ」

「はい、またスキルブックが集まったらいつでも持ってきておくれ」


 俺はドキドキした気持ちで店を出た。

 この手に握られている紙切れだけで、8億もの大金を動かせるんだ……。


「な、なあクラリス……これ、どうしようか?」

「そ、そうだね……」

「家でも……買っちゃう……?」

「へ……?」


 俺たちは冒険者だから、そんなにデカい家はいらないと思っていた。

 また違う街にいくこともあるだろうし、ギルドの割引で宿には安く泊まれる。

 しかし、こうなったら話は別だ。

 俺たちには転移のスキルもあることだし、どこに拠点を構えてもいい。

 それに、サリナさんとクラリスと……三人で暮らせば楽しいだろう。


「そ、そうだね……いいかも!」

「ああ、さっそく不動産屋に行ってみよう」


 ということで、俺たちは家を買うことにした。

 これからいろんなアイテムを集めることにもなるだろうから……。

 拠点があるというのは、すごく安心できる。

 サリナさんに話すと、快く賛同してくれた。

 ギルドの仕事終わりに、3人で不動産を見に行く――。

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