第23話 スキル厳選


 俺とクラリスは死の火山デスルーラーにやって来た。

 ぐつぐつと煮えたぎる溶岩を避けながら、ダンジョンの奥地へと進む。


「ロイン……思ったより暑いね……」

「ああ……だな。これは長居はできないぞ……」


 これでも、冷却水アイスポーションというポーションをたっぷり飲んではいるのだが。

 それにしても身体が溶けそうなくらいに熱い。


「こんなところにスキルメイジがいるのか……?」


 道中出くわすモンスターは、どれも熱に強そうなモンスターばかりだ。

 分厚いこうらをもったカメとか……。

 分厚い鱗で溶岩を泳ぐ魚とか……。

 分厚い殻に護られたカニとか……。


「あ……! ロイン、アレを見て!」


 どうやらクラリスがなにかを発見したようだ。

 俺がそちらを見ると、さっきまでとは明らかに違ったモンスターがいた。


「こいつが……スキルメイジか!?」


 スキルメイジ……それは小さな人型のモンスターだった。

 というより、ゴブリンの魔法使い版といえばいいのか……。

 ゴブリンの赤い版というか……なんだかそんな感じだ。


 熱に強そうな分厚い皮膚をしているのがわかる。

 通常のゴブリンのようにはいかなそうだぞ……。

 キバや目つきもゴブリンよりも凶悪そうだ。


「キュイキュイキュイー!!!!」

「おい! こっちに気づいたぞ! 気をつけろ」


 スキルメイジは俺たちに気づくと、明らかに敵意を向けてきた。

 そして、なんとそいつは魔法を放ってきた――!


 ――ボウ!


 スキルメイジから赤い火の玉が発せられる。


「っく……!」

「厄介な攻撃ね……!」


 俺はデモンズブレードを盾にして、それを受け止める。

 しかし、これでは近づくことが出来ない。

 だが、俺にはちょうどいい相棒がいた。


「私にまかせて!」

「クラリス!?」


 クラリスは盾を構えると、スキルメイジへと一直線に近づいて行った。

 まさにこのために盾職がいるといわんばかりの突進だ!


「キュイキュイ!?」


 スキルメイジは必至に魔法を撃ち続けるが、それはすべてクラリスの盾に弾かれてしまう。

 クラリスの盾は、龍星岩が素材に使われた【タイタンシールド】だ。

 だから当然、魔法にも強い!


「キュイ……!?」

「うおおおおおお!」


 どうやらスキルメイジは自分の攻撃が通じないことに、困惑しているようだ。

 その場から動かずに、無駄に魔法を撃ち続けている。

 そこにクラリスがどんどん距離を詰める――!


「えい! シールドバッシュ!」


 十分に距離を詰めたクラリスは、盾でスキルメイジをぶん殴った!

 スキルメイジは頭を叩かれて、脳しんとうを起こしているようだ。


「いまよ! ロイン!」

「まかせろ……!」


 俺はその隙に、一気に距離を詰め――。


「デモンズブレード! スキルメイジをぶった斬れ!!!!」


 愛剣でスキルメイジを一刀両断!


 ――ズシャアアアアア!


 その場に血の雨を降らせた。


「すごい攻撃力だね、ロインの武器は……!」

「そっちこそ、ナイスアシストだ!」


 俺一人だったら、かなり時間がかかっていたかもしれない。

 だが、クラリスのおかげで厄介な敵も、スムーズに倒せそうだ。


「いやいや、これもロインのおかげだよ」

「え……?」


「この盾があるのは、ロインが龍星岩をゆずってくれたおかげだしね」

「あ、ああ……まあ、そうだな。でも、クラリスの今の活躍を見ていたら、譲った甲斐があったというものだよ」


 魔法を使ってくるスキルメイジには、魔法をよく弾く龍星岩が最適な素材だ。

 俺はこんなところでも運がいいのかもな。


「さて……ではおまちかねのドロップアイテムだな」

「え……? ちょっと待ってよロイン」

「ん……?」


 クラリスは俺の顔を見て、すごく呆れている感じだ。

 不思議そうに俺を見つめている。

 というか鼻で笑いやがったぞこいつ……。

 まあそれもそうか……。

 俺はまだ自分の能力をクラリスに話していない。


「ドロップアイテムって……自分がどれだけ運いいと思ってるのさ。まだ一匹目だよ?」

「ああ、そうだな」


「スキルメイジがスキルブックを落とす確率なんて、0.001%にも満たないんだよ?」

「ああ、わかってる」


「だったら……」

「賭けるか?」


「え……?」

「スキルメイジがアイテムをドロップしてるか、賭けるか?」


 俺は余裕の表情でそう言った。

 クラリスには少し意地悪だったかな……?

 でも、クラリスはなおもいぶかしんだ顔で、俺を白い目で見ていた。

 どん引きされてる?


「いいよロイン! 絶対に私が勝つから! そうだなぁ……今晩のご飯をおごるっていうのでどう?」

「ああ、いいよ」


 もちろん、この賭けには俺が勝つ。

 まあ、夕飯代は龍星岩の対価としてありがたくもらっておこう。

 そのほうがなにかと後腐れないからな。


「じゃあ、いくぞ……?」

「望むところよ!」


 俺はドロップアイテムが落ちているかを確認するために、スキルメイジの死体をまさぐった。

 血まみれの肉塊から、スキルブックを探し出す。


「えっと……お、あった!」

「うそ!?」


「じゃあ、賭けは俺の勝ちだな!」

「ど、どういうことおおおお!?」


 まあ、あとで種明かししてやるか……。

 それよりも、重要なのはスキルブックの中身だ。


「ねえ、ロイン。はやくなんのスキルか確認しましょう」

「お、そうだな。それ次第でこいつの価値はゼロにも億にも変わる」


 さてさて、記念すべき最初のスキル……。

 それはいったいなんなのだろうか。

 俺のスキルでは、スキルブックを手に入れられることまでは確定だが――。

 そのスキルブックの中身までは分からない。

 だから、これがなんであれ、あと何体かはスキルメイジを倒すことになるだろう。


「おお!? こ、これは……!」

「みせてみせて……!」



斬空剣エアスラッシュの書】

レア度 ★★★★★★★★

ドロップ率 ???

説明 斬空剣エアスラッシュを習得できる。

   一度限り使用可能。



「攻撃スキルのようだな……!」

「大剣使いのロインにはぴったりかもね!」


 さっそく俺はスキルを使ってみることにした。

 スキルブックをパラパラとめくり「スキル使用」と唱えると、スキルブックは灰になって消えてしまった。


「不思議なものだな……」

「そうね……初めて見た……」

「よし、じゃあさっそく。あそこの岩でも斬ってみるか!」


 俺は岩に向けて、剣を構える。

 そして――。


斬空剣エアスラッシュ――!」


 すると。


 ――ズドオオオン!

 ――バカッ!


 空を斬った剣先から、衝撃波のようなものが出た。

 そして数メートル先にあった岩を真っ二つにしてしまった。


「す、すごい……!」

「これで遠距離でも戦えるぞ……!」


 俺は、自分がこれからどんどん強くなっていける確信をした。

 しばらくはこの火山に通って、スキルを厳選していこう。

 いらないスキルブックは売れば金になる。

 それに、盾系のスキルが出れば、クラリスにあげればいい。


「次は盾系のスキルが出るといいなぁ」

「え……?」


「いや、クラリスは盾使いだろ?」

「ちょ、ちょっと待って……く、くれるの?」


「ああ、当然だろ? 俺はいらないし……」

「そ、そんなぁ……! もらえないよそんな高価なもの!」


「いや、いいって……どうせこれから余るように出るんだし」

「えぇ……なんなのそのドロップアイテムに対する圧倒的自身は……」


 いや、自信もなにも、確定でドロップするんだから……。

 俺はまたクラリスが驚くところを想像して、少し笑ってしまった。

 しばらくは俺の能力は黙っておこう。

 まあ、さすがに3回も連続でスキルブックがドロップすれば嫌でも気づくだろうけど……。

 そのときの反応が楽しみだ――!

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