第22話 盾と剣


 スキルメイジの生息するという死の火山デスルーラーに向かう前に。

 俺はまず腹を満たすためにレストランに入った。

 そこで、とある女性を見かけた。

 黒髪ショートカットが似合う、背の低い女の子だ。


「珍しいな……」


 超巨大な大盾を持った、ソロの冒険者。

 大剣持ちの俺としては、妙な親近感を抱く。

 会計を済ませ、俺はなんなくその子を目で追っていた。

 彼女は馴染みの防具店へと入っていく。


「あ、俺も冒険の前に、防具をいくつか新調しておくか……」


 そう、死の火山へ出向くからには、なにか耐火耐熱装備を整えておいた方がいいだろう。

 俺も彼女に続いて、防具店へと入ることにした。


「いらっしゃい」


 店に入った俺は、金にものをいわせて適当に買い漁った。

 とりあえず買える中で、一番の耐火装備を揃えた。

 元々着ていた防具は売ってしまおう。

 さっきのスキルブック屋さんで、かなり金を支払ったが、それでも俺にはまだかなりの金が残っていた。


「よし、これで完璧だな」


 新しい耐火装備は、赤く神々しい装備だった。

 これなら火山の環境でも、苦戦せずに戦えるだろうとのことだ。


 ふと、何の気なしにさっきの女の子を見やる。

 彼女は俺が防具を買い終える間も、ずっと悩んでいた。


「うーん……」


 どうやらほしい防具があるようだが、それには素材が足りないらしかった。

 貴重な素材が必要な防具を買うには、それにあった金額だけでなく、素材品を要求されるものもある。

 店としては素材を手に入れるのにも一苦労だからな。

 金だけでは買えない防具は、その分強力だ。


「あ……」


 彼女が欲しがっている防具をちらっとみると――。

 そこにはこう書かれていた。



 ■必要素材 《龍星岩》×1



 龍星岩、レア度★★★★★★★★の防具強化素材だ。

 魔力をよく弾く性質を持つ岩だが、なにぶん手に入りにくいためこうして購入時に素材を要求される。


 そして俺はこの素材を、持っていた。

 ちょうどあのゴーレムを倒したときに、手に入ったレアドロップアイテムだ。


「そういえば忘れてたな……」


 俺はポケットの中からそれを取り出す。

 基本的に盾の素材によく使われるものだが、あいにくと俺は大剣持ちだ。

 盾を背負う余裕はない。


「だから余っていたんだよなぁ……」


 ちょうどいい。

 大盾持ちの彼女は困っているようだし、俺にとってこの素材は不要だ。

 まあ、またゴーレムを倒せばすぐに手に入るし。


「あの……」

「はい……?」


 俺は恐る恐る、彼女に声をかけた。


「よかったら、この素材……使います?」

「え……? い、いいんですか……?」


 突然の申し出に、困惑する彼女。

 まあ、そりゃあそうだわな……。

 俺でもこんなレア素材をぽいと差し出されたら、怪しいと思うはずだ。

 なにかの勧誘か? とか、なにか要求されるんじゃないか? とかってな。


「俺には不要な素材で、余ってるんで、どうぞ」

「で、でも……こんな高価な素材……」


 彼女はどうすればいいのか困っているようだった。

 申し訳ないことをしてしまったかな?

 でも、彼女のように頑張っている冒険者を、俺は応援したい。


 ソロで盾職ってのは、かなりのチャレンジャーだ。

 なにか訳があるのか知らないが、普通はそんなことはしない。

 俺のように攻撃力がなかったりするように、彼女も素の防御力が低かったりするのかもしれない。

 だからこそ、俺はなぜか力になりたかったのだ。


「いいですよ。俺は。ほら……見ての通り、大剣使いですし……。それに、ほら、防具もけっこういいの着てるでしょ? ラッキーなことに、今お金が結構余裕あるで……。どうぞ、もらってやってください」

「そ、そうなんですか……? そ、そこまで言うのなら……。ありがたく頂戴します。ありがとうございます、本当に」


 よかった、彼女は微笑んで受け取ってくれた。

 せっかくのレアドロ素材を捨てたり売ったりするよりも、こうして喜んでもらえたほうが嬉しい。

 彼女はさっそく、その素材を目当ての盾と交換した。


「あの……お名前を聞いてもよろしいですか?」

「あ、ああ……俺はロイン。ロイン・キャンベラスだ」


「私はクラリス。クラリス・キャンディラスです」

「あ……。なんか名前、似てますね」


「そ、そうですね……。私たち、似たもの同士なのかもですね。ふふ……」

「大盾使いと、大剣使いですもんね……!」


 普段は寡黙そうな彼女が、そんなふうに笑ってくれた。

 ちょっとした共通点がきっかけで、少し心を開いてくれたみたいだ。


「あの……ロインさん、これからのご予定は?」

「死の火山に行く予定です」


「死の火山ですか……!? それはなんでまた……」

「ええ、スキルブックを掘りにいこうかと」


「それはすごい大変ですね……。話には聞いたことありましたが……。まさか本当にそんなことをする人がいるんですね」

「あ、あはは……」


 なんだか少し呆れられたのかな……?

 馬鹿だと思われてたらどうしよう。

 まあ、はたからみれば無謀な博打打ちにしか見えんだろうからな。

 でも、俺にとっては勝ちの見えた賭けなんだ。


「あの、よかったらパーティーを組みませんか……?」

「え? 俺とですか……?」


 どうしよう……。

 パーティーを組むなんて考えたことなかったな。

 グフトックたちのせいで、パーティーにいい思い出なんかない。

 でも、彼女となら上手くやっていけそうだ。

 共通項も多いし、ちょうど盾と剣で相性もいい。


「お礼をしたいんです。お手伝いさせてください。それに……もっとロインさんのことがしりたいんです」

「そ、そう言われると……。断る理由もないですし。俺もクラリスさんと一緒に戦ってみたいです」


「いいんですか! ありがとうございます! それと、私のことはクラリスでいいですよ。たぶん、年下ですし。それに敬語もなしで」

「そっか、じゃあ俺もロインで。よろしく」


 かくして俺たちは盾と剣という一風変わったパーティーを結成することになった。

 まあ死の火山なんていう危険な場所を最初の冒険に選ぶのもどうかと思うが……。

 盾職の彼女がいれば、かなり危険度も下がるだろう。


「そういえば……クラリスはどうして大盾使いに?」


 今の時代、大盾でソロ冒険者なんて見たことがない。

 だからまあ、彼女はもともとパーティーメンバーを探していたのかもしれないな。

 見たところ人見知りで気弱な性格っぽいから、俺が声をかけてちょうどよかったのかもしれない。


「その……笑わないできいてね?」

「うん……?」


「私、素の防御力がゼロなんです……」

「あ、やっぱり……」


「え? やっぱりって?」

「実は俺も……素の攻撃力がゼロだったりして」


「えええええ!? やっぱり私たちって……」

「うん、似たもの同士だね」


 ということで、なにか運命的なものを感じざるを得ないのだった。

 最弱の攻撃力と最弱の防御力。

 そんな2人の冒険は、ここからスタートした――。

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