第20話 求不得苦【三人称視点】
「いや……それはムリだろ……」
「…………へ?」
ロインはプラムとナターリアのことを、苦笑いしながらにらみつけた。
「いやいやいや……いくらなんでもお前らムリがあるわ……」
「え……ど、どうしてですか?」
プラムとナターリアは本気でわからないようすだ。
ロインは深くため息をつく。
「どうしてって……自分たちが俺にしたこと……忘れたのか?」
ロインに酷い仕打ちをして追い出したのは、なにもグフトックだけではない。
グフトックと同じように、彼女らもまた、ロインを追放した張本人だ。
それに、追い出すときにはかなりひどい罵詈雑言を浴びせた。
そんな彼女らを、ロインがパーティーメンバーなどにしようはずもなかった。
「で、でも……! だからこうして、謝ったじゃない!」
「いやぁ……ちょっとそれは無理でしょ……。だって、お前たちどうせグフトックが再起不能だとみなしたから、俺にすり寄ってきたんだろう?」
「う……」
「しかも、俺がランキング5位だということを知ってる感じだしさ……正直、見え透いてて嫌になる……」
誰も自分の金や地位目当てですり寄ってきたものなど、仲間にはしたくない。
ロインはそうやって地位や金に溺れるとどうなるかを、グフトックを見てよく知っていた。
「じゃ、じゃあ……! 許してくれなくてもいいわ!」
「は……?」
「許さなくてもいいから、仲間にして! なんでもするから……ね?」
プラムはそう言って、胸を両腕で強調してみせた。
しかし、ロインにはサリナさんという相手もいる。
そんな手に乗るような男ではないのだ。
むしろプラムのように軽蔑さえ覚えるような相手からの色仕掛けは、ロインに嫌悪感さえ感じさせた。
「いやぁ……ムリだわ……」
「そ、そんなぁ……! お願いよ! 私たち、もうお金も行くところもないんだから!」
しかし、どれだけ熱心に説得しようとも、ロインが首をたてに振ることはなかった。
あきらめたプラムとナターリアは、大人しく去っていった。
もちろんグフトックの元には戻らない。
彼女らは次の生きる道を探して、自力で歩いていったのだった――。
◇
馬小屋の簡易ベッドで、グフトックは一人、濡れた子犬のように待っていた。
だがしかし、何時間待っても一向にプラムとナターリアが戻る気配はない。
そう、グフトックは見捨てられたのだ……。
「くそ……あいつら全然かえってこないじゃねえか! こんどあったら殺してやる……!」
しかし、グフトックはその場から動けずにいた。
もはやこうなれば、そこで死を待つのみである。
はたからみれば、家のない浮浪者と同じだった。
「みじめだ……孤独だ……」
馬が落とした餌を噛みしめながら、グフトックは寂しさに耐えた。
そんなグフトックの目の前を、とある集団が通りかかった。
どうやら冒険者パーティーのようで、それなりの装備をつけている。
そのことは、冒険者であったグフトックにもわかった。
しかし、どうやら一人は気絶しているようで、大男の肩に背負われてる。
そう、その冒険者パーティーとは、あのロインに敗れた勇者パーティーである。
パーティーは、ぼそぼそとした声で愚痴を言い合っていた。
暇でしかたがなかったグフトックは、それに耳を傾けた。
「くそ……あのロインとかいうガキ……!」
「ロイン……!?」
気がついたときには、グフトックは叫んでいた。
まさか自分の知った名前を耳にするとは、思ってもいなかったのだ。
「……? おい、なんだてめぇ?」
冒険者パーティーの一人、大男のゲオルドが、グフトックを睨みつける。
そりゃそうだ、いきなり浮浪者が大声を出せば、みな警戒する。
「あ、いや……そいつは俺のパーティーにいたやつだ」
「なに……!? お前、あのロインとかいうガキと知り合いか!?」
「あ、ああ……クソ雑魚だったもんで、追い出してやった」
「はぁ……!? そいつは人違いじゃねえか? 俺たちの言ってるのは、今ランキング5位のロイン・キャンベラスのことだが……?」
グフトックは自分の耳を疑った。
(今ランキング5位のロイン・キャンベラス!?)
それは本当に、あのロイン・キャンベラスなのだろうか……と。
「キャンベラスなら、俺の知ってるあのロインだ! どうなっている! 聞かせてくれ」
「そうか……俺たちはな、そのロインにやられたんだ。なんでも、ロインとかいうヤツはエルダーゴーレムを一刀両断したことで、いきなり5位まで躍り出てきたらしい……」
「……!?」
グフトックはまたまた、耳を疑った。
(エルダーゴーレムを一刀両断したのが、ロイン……!?)
やはり、あの時グフトックを助けたのは、ロインだったのだ!
グフトックはそれに気づくと、妙な感覚を覚えた。
「まあアンタもあのロインとかいうのにはかかわらんことだな……。俺たちは面子を潰されたし、この街を出ることにした……しばらく辺境を拠点に据えるつもりだ」
ゲオルドはそう言うと、グフトックの元から去っていった。
グフトックはなおも混乱していた。
「つ、つまり……俺はロインに助けられ、今……ロインに借金しているということか……!?」
ギルドの決まりによって、助けられた冒険者は、助けた冒険者に謝礼金を支払わなければならない。
ロインはその支払いを匿名で済ませたがった。
なので一度ギルドが立て替えて、グフトックはギルドに払えばいいだけになっている。
そのため、今までグフトックはそのことに気づかなかったのだ。
「ああああああああああ!??? 俺がロインなんかに借金だと……!?」
グフトックは天に向かって叫んだ。
雨の中、風邪をひいてることも忘れて、屋根から飛び出す。
「クソ! クソ! クソ!」
雨でぐちゃぐちゃになった地面を、地団駄でさらに踏み荒らす。
「しかもあいつがランキング5位だと……!? どうなってやがる!」
なぜ、自分は欲しいものがことごとく手に入らないのだろう……。
なぜ、あのロインはここまで恵まれ、どんどんと成り上がっていくのだろう。
グフトックはそう考え、自分の運命を呪った。
そんなグフトックをさらにどん底におとすかのように、その場を通りがかった冒険者たちがいた。
彼らは、例によってロインのことを噂していた。
「おい、あのロインとかいうヤツ、マジで勇者を倒したのかよ……」
「ああ、そうらしいぜ。見ていた奴によると、圧勝だったってよ」
「まじか……恐ろしい新人が現れたな……」
「どうやら装備が化けもの級に強いらしい」
そんな会話を耳にして、グフトックは知ることになる。
(じゃあつまり……さっき倒れてた冒険者は……勇者……!?)
ロインは勇者を倒した。
この事実は、グフトックにとってなによりも受け入れがたいものだった。
グフトックは自我が崩壊するのではないかというほどの眩暈に襲われた。
そしてその場で、気を失ってしまった。
次に目が覚めた時には、もう田舎へ帰る準備を考えていた。
冒険者は自分には向いてない。
そう悟ったのだ。
だがしかし、ロインへ支払う借金は残っている。
彼がそのことに気づき、さらに発狂をするのは、実家に帰ってからのことである。
ある日地元のギルドの職員がわざわざ取り立てにきたのだ。
冒険者であればロインへ支払いを済ませることは容易であった。
しかし田舎に帰ったグフトックに、そんな大金を支払えるわけもなかった。
まして、腕は使い物にならないので、再び冒険者になることもできない。
さらに、農作業もままならないのだ。
そんな彼がその後、どれほど苦しんだかは、想像に難くない――。
◇
次回からまたロインのレアドロスキルを使ったハクスラ展開になります!
――――――――――――――――――
【★あとがき★】
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