第18話 決闘


 冒険者ギルドの前は、俺と勇者の決闘を一目みようという連中であふれていた。

 向かい合う俺たちを円で囲むようにして、ギャラリーが広がる。

 勇者パーティーの面々も、勇者の後ろで声援を送っている。


「アレス! そんなやつ、やっちゃって!」


 などと言っているが、もちろん俺はただでやられる気はない。

 グフトックにも俺は自分の価値を見せつけたんだ。

 居場所を守り、幸せをつかむには、自分で行動するしかない。

 俺は俺の実力を、ここで証明するつもりだ。


「本気でやっていいんだよな……?」


 俺は一応、確認のためにそう問う。

 勇者アレスター・ライオスは答えた。


「当たり前だ。これは決闘だ。どちらかが戦闘不能になるまでの真剣勝負! 2度と冒険者として働けないようにしてやるさ……」

「そうか……それはよかった」


 正直、俺の持つデモンズブレードは威力も武器も大きすぎる。

 こんな武器で手加減をするほうが難しいんだ。

 それに相手は仮にも冒険者ランク1位の男だ。

 いくら俺が規格外の強武器を持っているからと言って、油断はできない。


「さあ、どこからでもかかってこい!」


 勇者は余裕の表情で、武器さえ構えない。

 まあ、俺と違ってヤツには魔法やスキルなどもあるのだろう。

 一方の俺は、俺自身はどこまでも非力な冒険者。

 このデモンズブレードの一振りだけで、ゴーレムを倒してきた。

 そんな俺に取れる選択肢は一つ。


 小細工なしで、ただ大剣でぶん殴る――!


 ――ブォン!


 俺は力いっぱいにデモンズブレードを振った。

 しかし、勇者はまだ動かない。

 どうやら受け止める気らしい。


「はっはっは! そんな素人剣術、俺に通用……あぼぉおおお!?」


 魔力を身体にまとって、防御をするつもりだったのだろう……。

 しかし、俺のデモンズブレードはヤツの想定以上の攻撃力だったらしい。

 魔力での障壁を軽々打ち破り、勇者アレスターの腹に直撃する。


 ――ドン……!


「あがぅぁ……!」


 勇者の身体が大剣にぶっ飛ばされる。

 ギャラリーをなぎ倒し、数百メートルはぶっとんでいった。


 俺は念のため、デモンズブレードの腹で殴っておいた。

 そのため、彼の身体が真っ二つになるということはない。

 いくら決闘とはいえ、真昼間から勇者のヒラキを見せる気はない。


「そ、そんな……!? アレスター……!?」


 吹っ飛んでいった勇者を、仲間の女が追いかける。

 あれは……もう意識を失っているだろうな。

 戦闘の続行は不可能だ。


 さすがは勇者だけあって、装備も頑丈だ。

 まあ、死にはしないだろう……。


「おい……! まだ終わりじゃないだろう」

「は……?」


 その場から去ろうとする俺を、勇者パーティーのもう一人の男が引き留めた。

 ゲオルド・ラーク――ランキング3位の大男だ。

 強固な鎧に身をまとっていて、威圧感のすごいガタイのいい巨漢。


「うちのリーダーはまだ戦えるぜ……?」

「なに……?」


 そういってゲオルドは、アレスターの方を指さした。

 見てみると、アレスターは立ち上がり、俺の方まで歩いてきているではないか。

 なんとしぶといやつ……。

 そこはやはり1位なだけはある……。


 戻って来たアレスターは、俺にこう言った。


「っふ……さっきは油断したぜ……。なかなかやるなぁ……。どうやら5位というのは本当のようだ」

「わかったならもういいだろう……。無駄な争いはやめよう」


 俺は別に、こいつと流血沙汰を起こしたいわけじゃない。

 ただ俺が5位であるのが不正だという言いがかりを、撤回してもらえればいだけだ。

 なので、俺の実力さえわかってもらえれば、それでいいのだ。


「こっちにもなぁ……! 面子ってもんがあんだよ! ランキング1位のこの俺が、大衆の面前でぶっとばされたままで終われるかよぉ! どっちかが死ぬまでだ!」

「そうか……ならまあ……仕方ない。第二ラウンドだ」


 こんどはアレスターのほうもようやく本気になったのか、剣を抜き、構えた。

 魔力の量も、さっきより増している気がする。


「先手必勝……! 死ねええええ!」

「……!?」


 アレスターはいきなり剣を振りかざして、向かってきた。

 俺はそれを、デモンズブレードで受け止める。


 ――キン!


 例によって、アレスターの持つ剣が、俺の剣とぶつかり、折れてしまった。

 まあ、デモンズブレードより硬度の高い武器はありえようもないので、当然といえる。


「な、なんだと……!?」

「じゃあ、次はこっちの番だ……!」


 俺はデモンズブレードを盾にするような感じで、タックルした。

 剣でありながら、かなりの面積を持つので、こういう使い方もできる。


 ――ドン!


「うぉ……!?」


 アレスターは押された衝撃で、その場に尻もちをついた。

 俺はその隙を見逃さない。

 これで、今度こそ奴は真っ二つだ。


 本気で殺そうとする気はなかった。

 まあ、ヤツの横の地面を斬れば、それで勝負はつく。

 だが、勇者のレアドロップアイテムがどんなものか、見てやりたい気もする。


「いくぞ……!」


 俺はデモンズブレードを上に掲げ、そのまま振り下ろそうとした……!

 その時……。


「ま、まいったあああああああああああああ!!!!」

「は……?」


 アレスターは間抜けな声でそう言った。

 自分から死ぬまでだとか言いながら、まいったなどと言ったんだ。

 だけど、デモンズブレードは一度振り下ろしたら止まらない。

 俺はその大きな塊を、勢いにまかせて振り下ろした。


 ――ズドン……!


 アレスターには当てないように、俺はその横の地面にデモンズブレードを振り下ろした。

 さすがにまいったと言っているやつを殺すような真似はしない。

 だがまあ、これで……勝負はついた。


 しかし当のアレスターは沈黙したままだ。

 俺としてはまいっただけではないく、発言の撤回をしてほしんだけどな……。


 そのとき、ギャラリーの一人がこう叫んだ。


「あ、おい! アレスターのやつ……! 気を失ってるぞ……!」


 他の見物人たちがそれに続く。


「ほ、ほんとだ……! 情けないやつ」

「きゃああ! しかも失禁しているわ……!」

「おいおいマジかよ……ありえねぇ……」

「自分から喧嘩売っておいてダサすぎ……」


 俺はいそいでデモンズブレードをその場から引き抜いた。

 やつの小便がかかったらいやだからな……。


「おい、俺の勝ちでいいな……?」


 アレスターが寝ているので、俺はゲオルドにそう問うた。

 ゲオルドはアレスターのようすに困惑しながらも、答えた。


「あ、ああ……アンタの勝ちでいい……」


「そうか……まあ、また今度会ったら発言を撤回してもらうよ。アレスターにはそう伝えておいてくれ」


 俺はそれだけ言って、その場を去る。

 さすがにもう彼らはなにも言ってこなかった。

 これで面倒事が減ればいいんだがな……。

 ゲオルドたちは倒れたアレスターを引きずって、静かに去っていった。


 俺はまっさきにサリナさんの元へ行く。


「すみませんサリナさん。ギルドの前を汚してしまって……。それに、発言の撤回もしてもらえませんでした……」

「き、気にしないでください……。私のために……ロインさん、かっこよかったですよ!」


「あ、ありがとうございます……」

「それにしても……本当にアレスターさんに勝ってしまうなんて……」

「まあ、相手が油断してただけですよ。まさか俺の武器がデモンズ鉱石製だなんて思わないでしょうし……」


 ただ、次に会ったときが厄介だ。

 俺には魔法もスキルもない。

 もし本気で勇者パーティー4人に襲われたら……。


 俺は、もっと強くならなきゃならない――!

 自分の幸せを守るために、さらなる生存を、勝ち取るために――!

 俺は密かにそう決意した。

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