第14話 報酬


「ふぅ……どうにか、バレて……ないよな?」


 俺はギルドに戻り、ようやく兜を脱ぐ。

 グフトックに俺だとバレると厄介だから、そのためにわざわざ新しい鎧を買った。

 装備者の攻撃能力を飛躍的に高めてくれるという【ダークネス】シリーズの鎧一式だ。

 少々値は張ったが、俺は金に困ってないからな。


 まあ、グフトックは馬鹿だし、頑固だから、俺が助けたとは思わないし、もし思ったとしても認めないだろう……。

 いちおう武器にも、突貫工事で塗装や細工などでカモフラージュをしてもらってから行ったから、まずバレないはずだ。

 あとからバレていろいろ面倒なことにもなりそうだが、その場合はこっそり街を離れよう……。


 なんて考えていると、サリナさんが俺に飲み物を持ってやってきた。

 彼女なりのねぎらいだろうか。

 俺はありがたくそれを受け取る。


「ありがとうございました、ロインさん」

「いえ、サリナさんのお役に立てて、よかったです」


 まさか俺も、エルダーゴーレムを一刀両断にできるとまでは思っていなかった。

 だって、Aランクパーティーですら歯が立たなかったんだろ?

 それを……この俺が……。

 今でも信じられない。


「私、ロインさんならやれるって、信じてましたよ」

「はは……うれしいです」


「これで、冒険者ランク大幅アップも間違いなしですね!」

「……あ!」


 そうか、冒険者ランク……!

 忘れていた……。

 今月は今日で終わりだ。

 つまり冒険者ランクが更新される。

 サリナさんはそれをわかっていたのか……!?


「……って、俺……やっぱりかなり上がっちゃいますかね……?」

「ですね……! ロインさん、今月かなりすごい活躍ですから!」


 まあ、超レアアイテムであるデモンズ鉱石をとってきたり……。

 突然変異で巨大化したダンジョン級にデカいエルダーゴーレムを真っ二つにしたり……。

 そんな人に言っても信じてもらえなさそうな功績。

 現在冒険者ランク最下位の俺が、一月でやったことだ。

 いったいどれだけランクが上昇するんだろうか……?


「まあ……Aランクは間違いないですねぇ……」

「え、Aランクですか……!? いきなり!?」


「だって、そのAランクパーティーですら倒せなかった相手を、ソロで一刀両断にしてますからね……もしかしたら、Sランクも夢じゃない……かも……?」

「参ったな……」


「どうしてですか……? 凄いことじゃないですか!」

「いやぁ……目立つといろいろと面倒なことになりそうなんですよ……」


 今の俺は、クエストで活躍をしているとはいえ、まだランク最下位だ。

 だから誰も俺に注目していないし、俺の真の実力を知るのはギルド側の人たちだけだろう。

 でも、冒険者ランクが張り出されてしまうと、全冒険者がそれを見ることになる。


 いきなり見知らぬ無名のソロ冒険者が、Aランクあたりにドーンと現れればどうなるか。

 それはもちろん大注目だ。

 あいつは誰だということになり、俺の功績が一気に噂で広まる。

 そうなれば、ゴーレムを倒したのが俺だと、グフトックにバレるかもしれない。


「なんとかなりませんかねぇ……?」

「なりませんよ……! いいじゃないですか、ロインさんはそれだけ強いんですから、なにか言われてもズバッと言い返しちゃえば!」


「そうは言ってもですねぇ……」

「ふふ……ロインさんは優しいですからね」


 いや、グフトックだけじゃなく、他の奴にも絡まれるかもしれない。

 ランキング不正を疑われたり、腕試しの筋肉バカに挑まれたりと。

 まあ、そうなれば本当に街を出よう。

 冒険者ランキングはギルドごとに決まるから、他の街のギルドに行けばある程度は注目を避けられる。


 なにせここは冒険者の集まる大都会ミレージュだ。

 ミレージュの冒険者は層が厚いから、そのランキングの価値も高く、非常に注目されてしまう。 

 他の街にいけば、いろいろと誤魔化しもきく。


「それにしても不思議ですよね……」

「なにがですか……?」


「いや、俺が前に倒したゴーレムも、同じく巨大化をしていたんです」

「え……そうなんですか!? これは……調査が必要な案件ですね。私から、ギルド長に報告しておきます」

「お願いします」


 もしかしたら、俺たちの知らないところで、なにかとてつもないことが起こっているのかもしれないな。

 なにか関連性があるのかも……。


「あ……そうだ、ロインさん」

「はい……?」


「今夜、時間……ありますか……?」

「へぇ……!? ひぇ、ふぁい!」


 俺はあまりにも驚いて、変な言葉を言ってしまった。

 サリナさんも、なぜか顔を赤らめている。

 こ、これは……どういうお誘いなのか……!?


「その……今日のお礼も兼ねて、お食事なんか……どうですか?」

「も、ももももももちろん! よろこんで!」

「よかったです!」


 さ、サリナさんと……食事いいいいいいいい!?

 俺は心の中で小躍りをしたい気分だった。

 まさかこの前までサリナさんに毛布をもらって心配されていた俺のような人間が……。

 サリナさんから食事に誘われるなんて……!?


「いやったああああああ!」


 俺はギルドを出るやいなや、一人そう叫んでいた。

 もしかしたら……食事のあとは……。

 いや、よこしまな考えはよそう。

 今はとりあえず、目の前のことに集中するんだ……!


 俺はその足で、今夜着ていくおしゃれな服を買いに行った。

 金はいくらでもあるから、とびきりの服を買おう。

 思えば、鎧や武器にばかり使って、おしゃれな服なんかは買ったことがなかったな。

 そしてサリナさんとの食事を、めいっぱい楽しんだ!



――――――――――――――――



 ちなみに、エルダーゴーレムから手に入ったレアドロはコレだ。



《聖母の加護石》

レア度 ★★★★★★★★

ドロップ率 0.001%

説明:アクセサリーアイテム。

   装備者の生存率を飛躍的に向上。

   即死無効。



 耐久力がネックだった俺にとっては、最高の報酬と言える。

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