第13話 一刀両断【side:グフトック】


「ご、ゴーレム……?」


 なんと俺たちがダンジョンの壁だと思っていたものは、エルダーゴーレムの身体だったのだ。

 それにしても……それに気づかないほどの大きさだとは……!


「いいから、逃げるぞ……!」

「あ、ああ……」


 カルティナが俺の手を引いて、逃げる体勢をとる。

 プラムとナターリアも、既に逃げる気でいる。


「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!」

「うわ……!」


 しかし、ゴーレムはそれを許してはくれなかった。

 壁の一つが俺に向かって襲い掛かってきた。


 ――ドン!


「ぎええ!」


 俺は壁に殴られるような形で、反対側の壁に叩きつけにされる。

 そのせいで、俺の腕に強烈な痛みが走る。


「ぐおおおおおおお! お、折れた……!」

「グフトックさま……!?」


 くそ、逃げようとした途端、襲い掛かってくるなんて。

 俺が殴ったことに腹を立てているのだろうか。

 いや、これだけの図体だ、そのくらい虫につつかれたのとおなじくらい、どうということのない痛みだろう。


 俺は腕を折られ、その場に座り込んだ。

 早く逃げないといけないのに、 すごい痛みでなかなか立ち上がれない。


 それ以上直接襲ってはこなかったから、やはりゴーレムは俺たちに気がついて直接狙ってきているとかではなさそうだ。

 これだけ大きいのだから、さっきの攻撃は反射的なものなのだろう。


 しかし、どうやらゴーレムは体勢を変えようとしているらしい。


 ――ゴゴゴゴゴゴ!


「くそ……! 壁が……! 動いている……!」

「このままじゃ逃げ道が……!」


 なんとゴーレムが体勢を変えたせいで、俺たちはダンジョンの中に閉じ込められてしまった。

 俺が殴ったりなんかしたせいで、ゴーレムが動いてしまったのだ。


「ど、どうしましょう……」

「うう……腕が……」


 俺たちはダンジョンに取り残されてしまった。

 しかも俺は腕が折れている。

 女どもは役立たずだし……。

 物資も少ない。

 これは絶体絶命的だ。





 あれから何時間たったのだろう……。

 もしかしたら日をまたいだかもしれない。

 俺たちはダンジョンの一室に閉じ込められ、その場で立ち往生していた。

 なにもすることはないし、死を待つような気分。


 急に、ナターリアが口を開いた。


「グフトックさま……!」

「なんだ……! 俺は腕が痛いんだ!」


 まったく、気の利かない奴だ。

 なにか言いたそうだが、俺はそれどころじゃないというのに!


「その……壁が……迫ってきていませんか……?」

「は……?」


 そう、閉じ込められただけではなかったのだ!

 よく見ると、最初のときよりも部屋が狭くなっている気がした。

 いや、気のせいではない。

 たしかに少しずつだが、壁が迫ってきている。


「おい! どういうことだ……!」

「わ、わかりません……ですが……ゴーレムが少しずつ、動いているのは確かです」


 ゴーレムとてずっとじっとしているわけではないということか……。

 それにしても、どうして……。

 俺たちはゴーレムの気まぐれで、簡単に粉砕されてしまうということか……!?


「くそ……! どうにか脱出できないのか!」

「うかつに壁を攻撃してしまうと……以前みたいにさらに壁が迫ってきて、大変なことになるかもです……」


「あああああ! ギルドはなにをしている……!?」

「そうですね……こういうとき、ギルドからの救助があるはずですけど……」


 そうだ、俺たちはもうそろそろ助けられてもいい頃あいだ。

 俺たちがクエストに出てから、かなりの時間が経過している。

 ギルドが異変に気付き、緊急クエストを出しているはずだ。


「クソ……! 腹も減ったし、腕は痛むしで最悪だ!」


 俺の腕は傷口が膿んで、感染症になりかけていた。

 ダンジョンはモンスターのクソばかりで、衛生状態が悪い。

 このままでは俺の腕は、二度と使い物にならなくなる……!


 いや、そんなことよりもだ。

 このいつ壁に押しつぶされるかわからん状況のほうが問題だ。

 ゴーレムが体勢を大きく変えるのが先か、救助が先か……。


「ギルドの無能め……!」


 俺たちは、ただただ死を待つような気分で、静かに待っていた。

 そして、ついにそのときが来る。


「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 そんな叫び声とともに、急にダンジョン内に光がさした。

 なんと、ゴーレムが真っ二つに、一刀両断されているではないか。

 俺たちのいた部屋の天井が、ぱかーんと開いたかのようになった。


「な、なんだ……このデタラメな攻撃は……!?」


 もしかして、救助に来たのはSランク冒険者なのか……!?

 だが、その予想は違っていた。


「あ、あんたは……!?」


「…………」


 助けに来た人物は、みたこともない鎧に身を包んでいた。

 真っ黒な鎧に包まれたその人物は、顔を兜で隠していた。


「あ、おい……! 待ってくれ……!」


 ゆっくり礼を言ったり、姿を確認するような時間もなく、彼は去ってしまった。

 あの謎の人物はいったい誰なのだろうか……。


「た、助かりましたね……グフトックさま」

「あ、ああ……だが、彼はいったい何者だ?」


 あんな冒険者は見たことも聞いたこともない。

 こんなに大きなエルダーゴーレムをソロで一刀両断してしまうなんて……。


「そういえばあの武器……ロインのヤツが持っていたのににているな……いや、まさかな」


 鎧の男の持っていた武器に、俺は見覚えがあった。

 だが、そんなこと、あり得るか……?

 あのロインにそんなことが可能だとは思えない。

 着ていた鎧も、ロインは白で、さっきの人は黒だった。


 同じような剣は、いくらでもある。

 デモンズ鉱石製の剣だというのは、どうせロインのデタラメだろううし……。

 だが、問題はなぜあの冒険者が持っているような剣を、ロインが持っていたかだが……。

 まあ、そんなことはどうでもいいか。

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