第15話 冒険者ランキング


 高級な料理店で、俺とサリナさんは食事を楽しんでいた。

 サリナさん、キレイだ……。

 いつもはギルドの制服だが、今日はぴったりとしたドレスに身を包んでいる。

 俺もそれに恥じぬくらいの正装をしてきたつもりだ。


「サリナさん……綺麗です」

「ロインさんも……いつもと違って、なんだか素敵です」


 俺はサリナさんの手を引いて、席までエスコートした。

 サリナさんから誘われた食事ではあるが、後でこっそり俺が支払いをするつもりでいた。

 幸い、金はいくらでもある。


「ロインさん、本当にありがとうございました。ロインさんの活躍で、ギルドはますます安泰ですよ」

「いやぁ……大げさですよ」


「それがそうでもないんですよね……」

「え……?」


「例の巨大化ゴーレムの件ですが……ロインさんのおかげで早めにわかってよかったです。本来こういう変移種の調査と把握は、ギルドの役目ですからね。大きな被害が出る前に、わかって本当に助かりました……。冒険者協会から大目玉をくらうところだったと、ギルド長もお礼を言っていましたよ」

「そ、そうだったんですか……思ってたより大事なんですね……」


 俺はただゴーレムを倒しただけだと思っていたが……。

 裏ではそういうことになってたんだな。

 とにかく、役に立ったんならよかった。

 ギルドというのもなかなか大変そうだ。


 俺たちはそんな話をしながら、おいしい料理と飲み物を楽しんでいた。


「冒険者ランク……楽しみですね」

「え? ああ……そうですね」


「やっぱり……グフトックさんに知られるのが嫌なんですか……?」

「まあ……そうですね」


 どうやらサリナさんにはお見通しのようだ。

 やはり冒険者ランクを素直に喜べない俺もいた。


「それでしたら、もう大丈夫ですよ? まあ、ちょっと言いにくい話なんですけど……」

「え……? どういうことですか?」


「グフトックさん、ロインさんに助けられたときには、かなり負傷されていました」

「ああ、そうでしょうね……」


 確か、他の冒険者たちから聞いた話だと、腕を折られただとかなんとか。

 なんとも偶然なことに、俺がグフトックに折られたのと同じようにだ。


「でも、手当が遅れたせいで……その、傷口がなかなかね……」

「まあ、しかたないですね……」


「なので、しばらくはグフトックさん、ギルドには来られないと思いますよ?」

「あーそうですね。なるほど。確かに、それなら安心してよさそうだ」


 けがをしたグフトックには悪いが、俺にとっては好都合だ。

 療養している間に、俺のことなんか忘れてくれればいいのに。


「ということで、明日もギルドでお待ちしていますからね?」

「そ、そうですね……。必ず行きますよ」


 俺はそんな約束をして、サリナさんとの食事を終えた。

 食事を終えたあと……俺は心臓が破裂しそうになりながら、店をでる。

 もちろんいい感じに俺が支払いを済ませた。


「ロインさん……その、私から誘っておいて……すみません、ありがとうございます」

「いえ、いいんですよ。俺もサリナさんには感謝をしていますから」


 問題は、この後だ……。

 俺は……誘えるのか……?


「あ、あああああの!!!!」

「は、はい……!」


 だが、先に口を開いたのはサリナさんのほうだった。

 まさか……いや、まさかな……。


「ロインさん……どこにお泊りなんですか……?」

「へ……!? え、えーっと……ホワイトナイツホテルです」


 街で一番の高級ホテルだ。


「その……このあと……行っても、いいですか……?」

「…………!?」


 俺はその場で飛び跳ねたくなる気持ちを抑えながら、無言でイエスと頷いた。

 スライムすら倒せなくて悩んでいた俺にとって、少々過ぎた報酬だと思った。





 今日から暦が新たな月にかわり、冒険者ランキングが更新される。

 もちろん先月までの俺のランキングは最下位。

 グフトックのやつはだいたい中の上くらいの位置だ。


「うう……緊張するな……いや、やっぱりやめておくか……?」


 俺はギルドの前をいったりきたりする。

 グフトックと鉢合わせになるかもという懸念は解消されたが、今は他の理由で入りあぐねている。

 サリナさんの顔がみれない……!


「ああああ! 昨日あんなことがあったのに、どういう態度で接すればいいんだ!?」


 俺がそんなくだらないことでなやんでいると……。


「あ、ロインさんおはようございます。昨日は楽しかったです。ありがとうございました」

「…………ひゃ、ひゃい!?」


 サリナさんが後ろから話しかけてきた。

 どうやらなにかの用事でギルドを離れていたようで、今帰ってきたのだろうという感じだった。


「その……入らないんですか……?」

「え、ええ……!? いや、入ります……! 入りますとも!」


 とうのサリナさんはというと、昨日のことなんてなんともないというような態度だ。

 もしかして……俺よりもかなり恋愛経験が豊富で、こんなに落ち着いているとか……?

 それか……あえて態度に出さないようにしているのか……?


「で、では……ランキングを見にいきましょうか……」

「はい……そうですね」


 そう言って、俺たちは一斉にギルドの扉に手を伸ばす。

 すると、俺とサリナさんの手が、ドアノブのところでぶつかってしまう。

 当然だ、2人同時に手を出せば、ぶつかってしまう。


「あ、ご、ごめんなさい……!」

「い、いえ……! こちらこそ……!」


 ふとサリナさんの手を見ると、震えていることに気がついた。

 しかも、さっきの手の接触で、サリナさんの顔がみるみる赤くなりだした。

 あれ……?

 もしかして、サリナさんも昨日の夜のことを意識している……!?


「や、やっぱり……緊張しますね……」

「そ、そうですね……」

「「アハハハハハハハ」」


 俺たちは顔を見合わせて笑いあった。

 緊張を認めてしまえば、あとは自然に緊張がほぐれる。

 昨日、あんなことがあったんだ、意識しない方が無理というものだ。


「ロインさん、これからも……よろしくお願いしますね?」

「はい、サリナさん」


 そう、昨日の夜俺はサリナさんと……。

 思い出すだけで、笑みがこぼれてしまう。

 少しでも間違えたら、夢からさめてしまいそうな気分だ。


「よし……ランキングを確認するぞ……!」


 俺はようやく、気持ちを固める。

 これからはもっと冒険者として、高い志をもって挑むんだ!


「…………!?」


 俺がギルドのボードにちかづくと、周りの冒険者たちが一斉にこちらを見た。

 まさか……注目されている……!?


「お、おい……ロインがきたぞ……!」

「まじか……あいつがロイン……?」

「あいつ……あんなに強かったのか……?」


 野次馬たちの反応を見るに、俺はそれほど高ランクに上がっているのだろうか……?

 俺は彼らをかき分けるようにして、ボードに近づく。

 そして、自分の順位を確認するが――。



「ない、ない、ない……」




――――――――――――――――

《冒険者ランク》

 ・

 ・

 ・

1678位 ヨグソ・ソーマン

1679位 ボナボ・ナボンスキー

1680位 ダン・シルベスター

――――――――――――――――




 下から見ていくも、俺の名前が一向に書かれていない。

 まさか、そんなに上なのか……?

 最下位だった俺が……?


「あった……!」


 上からたどってみて、ようやく自分の名前を見つける。

 そしてそれは、信じられない位置にあった。



「マジかよ……」




―――――――――――――――――――――

《冒険者ランク》


1位 アレスター・ライオス Sランク

2位 エレナ・ルージュ   Sランク

3位 ゲオルド・ラーク   Sランク

4位 モモカ・フランベル  Sランク

5位 ロイン・キャンベラス Sランク

      ・

      ・

      ・

―――――――――――――――――――――




「ご、5位…………!?!??!?!??!」



 俺は絶句した。

 ふと後ろのサリナさんに振り替える。

 彼女はすでにクエストカウンターについていた。


 しかし、俺と目が合うと、にこりと笑いを向けてきた。

 俺は……なんて幸せなんだ……!


「やった……!」


 信じられないという思いがありながらも、嬉しさがこみあげてくる。

 夢のように思えていた風景が、徐々に自分の中に浸透していく。


 俺は、ついにここまで来たんだ……!

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