第5話 初めてのクエスト


 骨折もだいぶよくなったころ――。

 ようやくギルドへいってクエストを受ける気になった俺は、恐る恐るギルドの門をくぐる。

 ざっと集会所を見渡すが、どうやらあいつらはいないようだ。

 もしグフトックがいたら引き返すところだった……。


 まあ、そうならないように早朝を選んだんだけど。


「よかった……」


 安堵しつつ、俺は中に入り、掲示板の前に立つ。

 こんな時間から行動する熱心な冒険者は当然少なく。

 俺の真っ白な鎧が悪目立ちしている。


 不審に思ったのだろうか、まだ準備中だった受付嬢さんが俺に声をかけてきた。

 どうやら俺のことを覚えていてくれたようで。


「あの……もしかして、ロインさん!?」

「あ、ああ……。受付嬢さん。その節は、毛布とかありがとうございました」


「どうしたんですかその恰好!」

「いや……ちょっとね……。スライムを倒せるようになったんです」


「そうなんですか! すごいですね! よかったです。ロインさん、頑張ってましたもんね……」

「あ、ありがとうございます。その……」


 ○○さんのおかげです! と言いたかったのだが、俺はまだこの受付嬢さんの名前を知らないでいた。

 ふと目線を彼女の胸に移す。

 いや、なにも胸を見たいわけじゃなくてだな……。

 そこにはネームプレートに彼女の名前が書かれていた。


「ありがとうございます、サリナさん」

「ふふ……ロインさん今、私の胸見てたでしょ」


「え、ええ!? そんな!」

「ま、いいですけどね……! ロインさん頑張ってたから、ご褒美です」


 あらぬ疑いをかけられてしまった……。

 だが、いいのか……!?

 俺は彼女の胸を思わずガン見してしまう。


「はい! 終了です! もう見ちゃだめですよー! ほら、クエスト受けるんですか?」

「あ、そうだった……。クエストだ」


 サリナさん、なんだかつかみどころのない人だな。

 なんというか、上手くからかわれたのか?

 でも、キレイな人だ。

 茶色のカールした髪が綺麗だ。


「その……サリナさん。ドロップ率の低いアイテムのクエストとかって、ありますか……?」


 そう、俺が選んだのは当然、そういうレアアイテム納品のクエストだった。





「よし……ここか」


 俺はサリナさんから教えてもらった情報を頼りに、目当てのモンスターがいるところまでやって来た。

 街から近くにあるダンジョンだ。


 このダンジョンに住むガーゴイルから、かなりレアなアイテムが採れるらしい。


「いくぞ!」


 俺はわき目もふらずダンジョンを走り回った。


「どこだどこだどこだどこだああああ!」


 他のモンスターに用はない、俺はガーゴイルちゃんに用があるんだ!


「ギギギギギ!」


「いた! あいつか!」


 しばらくして、目当てのモンスターを発見する。

 さっそく倒すしかないな……!


「くらえ……!」


 ――バシュ!


「クソ……! 避けるな!」


 ガーゴイルは空を飛んで、器用に俺の攻撃をかわす。


「降りてこい! くそ。なかなか当たらない」


 これは倒すのに時間がかかるかもしれない……そう思っていた時だ。


「よし! 少しだが、かすったぞ!」


 ――ズシャアアア!


 俺の剣がかすった箇所から、とんでもない量の血が吹きだす。

 なぜだろうか……すこし当たっただけなのに!


 ガーゴイルはそのまま、フラフラと地面に落ちてきた。


「そうか……この剣の能力……!」


 たしか、稀に即死効果があると書いてあったな……。

 それにしても、最初の最初でその即死効果が現れるなんて。

 これも俺の運のよさが関係しているのか……?


「とにかく、これでガーゴイル一匹討伐だ!」


 だが、これは討伐クエストではない。

 レアアイテムの納品クエストなのだ。


「一発で出ればいいが……」


 俺は恐る恐る、ガーゴイルの死体に近づく。


「……! ビンゴ……!」



《デモンズ鉱石》

レア度 ★★★★★★

ドロップ率 0.01%

説明 黒く光る怪しい鉱石。どこで採れるのかは不明だが、稀にモンスターが持っていることがある。



「こんな色の石、みたことない……!」


 これは見るからにレアアイテムだとわかるような石だ。

 どこで採れるか不明なのだから、そうとう貴重ということになる。

 その場所から、こいつらが採ってきてるのだろうか?


「これが装備品の制作につかえるんだろうな……」


 だが、こんな少量の鉱石を、武器ができるほどまで集めるとなると、かなり時間がかかるぞ……?


「まあ、俺にかかればすぐだ……!」


 その調子で、俺はガーゴイルを倒しまくった!

 そしてデモンズ鉱石×45個を持って帰ることに成功したのである。

 これだけあればさすがに、武器をつくるのに不足はないだろう。







「え……これ、全部集めてきたんですか……?」


 ギルドに帰った俺は、なんとサリナさんにドン引きされた。


「え? ダメでしたか……?」

「いえ、そんなことはないんですけど……。依頼は一個だったので」


「ええええええ!? じゃあこの44個、無駄じゃないですか!?」

「ええ、そうなります……」


 まじか……。

 まあ、それならそれで金に買えればいだろう。

 それどころか、俺がこれで武器を作ってもいいかもしれない。


「というか、あり得ないですよ。超レアアイテムですよ? これ」

「そうなんですか……?」


「ええ、ガーゴイル自体は弱めのモンスターなんですけどね。ドロップ率が低すぎるせいで、誰もこのクエストを受けてくれなかったんです……。私も、ダメもとだったんですけど……。まさかこんなに集めてくるなんて……。ロインさん、あなたいったい何者なんですか!?」

「いやぁ……俺もたまたま沢山見つけられただけですよ……」


 まさか、俺はとんでもないことをやらかしてしまったのかもしれない。

 これは、サリナさんにはあとで口止めをしておかなくてはならないな。

 一歩間違えれば、面倒なことになりかねない。


「ロインさんって、ほんとはこんなにすごい人だったんですね……」

「いやぁ……どうでしょう」


「これは、ロインさんが万年最下位の汚名を返上して、冒険者ランクのトップに輝く日も近いですね!」

「ま、まあ……頑張ります……!」


 結局、必要な鉱石は一つだけだということで、あとの44個は俺が持ち帰ることになった。

 あんな少量の鉱石でも、加工のコーティングなどで使える貴重な素材となるそうだ。


「でも、一個だけでこんなにもらってよかったのかなぁ……」


 なんとあのクエストだけで、30000Gも受け取ってしまった。

 これでは全部を売ったらいったいいくらになるんだ……!?


「よし、金には別に困ってないから、これは武器屋に持ち込んで加工してもらおう」


 一つだけでもかなりの強武器が作れると噂の新鉱石を、44個もふんだんに使えば、一体どんな最強の武器が完成してしまうのか……!?

 俺は今から楽しみで仕方がなかった。



――

ロイン・キャンベラス 

所持金 60000G

――

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