第5話 初めてのクエスト
骨折もだいぶよくなったころ――。
ようやくギルドへいってクエストを受ける気になった俺は、恐る恐るギルドの門をくぐる。
ざっと集会所を見渡すが、どうやらあいつらはいないようだ。
もしグフトックがいたら引き返すところだった……。
まあ、そうならないように早朝を選んだんだけど。
「よかった……」
安堵しつつ、俺は中に入り、掲示板の前に立つ。
こんな時間から行動する熱心な冒険者は当然少なく。
俺の真っ白な鎧が悪目立ちしている。
不審に思ったのだろうか、まだ準備中だった受付嬢さんが俺に声をかけてきた。
どうやら俺のことを覚えていてくれたようで。
「あの……もしかして、ロインさん!?」
「あ、ああ……。受付嬢さん。その節は、毛布とかありがとうございました」
「どうしたんですかその恰好!」
「いや……ちょっとね……。スライムを倒せるようになったんです」
「そうなんですか! すごいですね! よかったです。ロインさん、頑張ってましたもんね……」
「あ、ありがとうございます。その……」
○○さんのおかげです! と言いたかったのだが、俺はまだこの受付嬢さんの名前を知らないでいた。
ふと目線を彼女の胸に移す。
いや、なにも胸を見たいわけじゃなくてだな……。
そこにはネームプレートに彼女の名前が書かれていた。
「ありがとうございます、サリナさん」
「ふふ……ロインさん今、私の胸見てたでしょ」
「え、ええ!? そんな!」
「ま、いいですけどね……! ロインさん頑張ってたから、ご褒美です」
あらぬ疑いをかけられてしまった……。
だが、いいのか……!?
俺は彼女の胸を思わずガン見してしまう。
「はい! 終了です! もう見ちゃだめですよー! ほら、クエスト受けるんですか?」
「あ、そうだった……。クエストだ」
サリナさん、なんだかつかみどころのない人だな。
なんというか、上手くからかわれたのか?
でも、キレイな人だ。
茶色のカールした髪が綺麗だ。
「その……サリナさん。ドロップ率の低いアイテムのクエストとかって、ありますか……?」
そう、俺が選んだのは当然、そういうレアアイテム納品のクエストだった。
◇
「よし……ここか」
俺はサリナさんから教えてもらった情報を頼りに、目当てのモンスターがいるところまでやって来た。
街から近くにあるダンジョンだ。
このダンジョンに住むガーゴイルから、かなりレアなアイテムが採れるらしい。
「いくぞ!」
俺はわき目もふらずダンジョンを走り回った。
「どこだどこだどこだどこだああああ!」
他のモンスターに用はない、俺はガーゴイルちゃんに用があるんだ!
「ギギギギギ!」
「いた! あいつか!」
しばらくして、目当てのモンスターを発見する。
さっそく倒すしかないな……!
「くらえ……!」
――バシュ!
「クソ……! 避けるな!」
ガーゴイルは空を飛んで、器用に俺の攻撃をかわす。
「降りてこい! くそ。なかなか当たらない」
これは倒すのに時間がかかるかもしれない……そう思っていた時だ。
「よし! 少しだが、かすったぞ!」
――ズシャアアア!
俺の剣がかすった箇所から、とんでもない量の血が吹きだす。
なぜだろうか……すこし当たっただけなのに!
ガーゴイルはそのまま、フラフラと地面に落ちてきた。
「そうか……この剣の能力……!」
たしか、稀に即死効果があると書いてあったな……。
それにしても、最初の最初でその即死効果が現れるなんて。
これも俺の運のよさが関係しているのか……?
「とにかく、これでガーゴイル一匹討伐だ!」
だが、これは討伐クエストではない。
レアアイテムの納品クエストなのだ。
「一発で出ればいいが……」
俺は恐る恐る、ガーゴイルの死体に近づく。
「……! ビンゴ……!」
《デモンズ鉱石》
レア度 ★★★★★★
ドロップ率 0.01%
説明 黒く光る怪しい鉱石。どこで採れるのかは不明だが、稀にモンスターが持っていることがある。
「こんな色の石、みたことない……!」
これは見るからにレアアイテムだとわかるような石だ。
どこで採れるか不明なのだから、そうとう貴重ということになる。
その場所から、こいつらが採ってきてるのだろうか?
「これが装備品の制作につかえるんだろうな……」
だが、こんな少量の鉱石を、武器ができるほどまで集めるとなると、かなり時間がかかるぞ……?
「まあ、俺にかかればすぐだ……!」
その調子で、俺はガーゴイルを倒しまくった!
そしてデモンズ鉱石×45個を持って帰ることに成功したのである。
これだけあればさすがに、武器をつくるのに不足はないだろう。
◇
「え……これ、全部集めてきたんですか……?」
ギルドに帰った俺は、なんとサリナさんにドン引きされた。
「え? ダメでしたか……?」
「いえ、そんなことはないんですけど……。依頼は一個だったので」
「ええええええ!? じゃあこの44個、無駄じゃないですか!?」
「ええ、そうなります……」
まじか……。
まあ、それならそれで金に買えればいだろう。
それどころか、俺がこれで武器を作ってもいいかもしれない。
「というか、あり得ないですよ。超レアアイテムですよ? これ」
「そうなんですか……?」
「ええ、ガーゴイル自体は弱めのモンスターなんですけどね。ドロップ率が低すぎるせいで、誰もこのクエストを受けてくれなかったんです……。私も、ダメもとだったんですけど……。まさかこんなに集めてくるなんて……。ロインさん、あなたいったい何者なんですか!?」
「いやぁ……俺もたまたま沢山見つけられただけですよ……」
まさか、俺はとんでもないことをやらかしてしまったのかもしれない。
これは、サリナさんにはあとで口止めをしておかなくてはならないな。
一歩間違えれば、面倒なことになりかねない。
「ロインさんって、ほんとはこんなにすごい人だったんですね……」
「いやぁ……どうでしょう」
「これは、ロインさんが万年最下位の汚名を返上して、冒険者ランクのトップに輝く日も近いですね!」
「ま、まあ……頑張ります……!」
結局、必要な鉱石は一つだけだということで、あとの44個は俺が持ち帰ることになった。
あんな少量の鉱石でも、加工のコーティングなどで使える貴重な素材となるそうだ。
「でも、一個だけでこんなにもらってよかったのかなぁ……」
なんとあのクエストだけで、30000Gも受け取ってしまった。
これでは全部を売ったらいったいいくらになるんだ……!?
「よし、金には別に困ってないから、これは武器屋に持ち込んで加工してもらおう」
一つだけでもかなりの強武器が作れると噂の新鉱石を、44個もふんだんに使えば、一体どんな最強の武器が完成してしまうのか……!?
俺は今から楽しみで仕方がなかった。
――
ロイン・キャンベラス
所持金 60000G
――
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