第6話 46番の超熱術。

事態は急転した。

馬車に乗せられたシヤ達は5日かけて西隣にあるガニュー・ジェネシスの領地に来ていた。

そしてイニット・ホリデーと言う魔術師と数名の兵士が簡易施設の前でトロイ達とシヤ達を迎えた。


馬車から降りたトロイを見て両手を広げて「よく来たなトロイ!」と言う男に「おお、よろしく頼むぞイニット」と言うトロイ。


イニットはシヤ達を一瞥して「これがフォースロットか?」と聞くとトロイは「ああ、まだ8体しか居ないがな。サードロットよりは安定している」と言った。


「流石はトロイだな」

「そちらはどうだ?」


「初期の4体は使い物にならず破棄をしたが現存の6体は十分な強さを得た。やはり質が1番だと思うぞ?」

「仕方あるまい、エグゼ様のご希望は質より量だ」


エグゼの希望はとにかく戦いは量だと言う。それは約20年前の北部戦線で侵略してくる北部から領地を守り抜いたエグゼの経験から言っていたが、同じくガニュー・ジェネシスも侵略者を撃退できた少数精鋭で練度の高い兵士達の経験を元に量より質と言っていた。


相反する2人だがお互いを否定はしない。隣同士ということもあるし20年前は手を取り合って侵略者を撃退した仲だった。


そしてそれは2人の魔術師にも同じ事が言えた。

「だがそれが功を成したな」

「ああ、私が量を作る事で精度を増し、イニットが質を追い求める事で育成方針が定まる」


お互いに上に立つ貴族の方針の違いにより全く異なる製作と育成を行うが情報を交換し合うことでお互いを補い合っている。

これにより仲はより一層深まっていた。


話が一通り済んだところでイニットが「いつ始める?」と聞くとトロイは「早速頼む」と言う。

この言葉にシヤ達の代理マスター達が何かの用意を始める。


「それにしてもステイブルさせずに残してくれて助かった」

「いや、こちらも超熱術を用いた攻撃の有用性を知れて助かっている。悪魔を討伐したらここもステイブルしてしまおうと思っている」


「エグゼ様の領地にできたダンジョン…リトルハットから取れる魔水晶と…」

「ガニュー様の領地にできたこのダンジョン…エクスキューションサイトから取れる無限記録盤さえあれば術人間の量産は可能。悪魔を討伐した後はここをステイブルをしてお互いに研鑽を重ねよう!」


「話は変わるがフォースロットの9体目はどうするつもりだ?アテはあるのか?」

「いや、リミールの決定以来表立った行動が取りにくくなってしまい手配はしているが未だ目処は立っていない」


「そうか。喜べ、懇意にしている人買いが2人程寄越してきたぞ」

「おお、分けてくれると言うのか?」


「ああ、若干の問題がある素体でな、1人では持て余し気味だったのだ」

「問題?イニット?お前程の魔術師が持て余す素体とは?」


「女の素体なのだが歳がな、姉妹で姉は24、妹が21だ」

「…バロッテス殿の言葉通りならば術人間の素体は若いほど好ましいと聞く」


「だから問題だと言ったのだ」

「だがある種の好機だな。私は難度の高い姉にチャレンジをする。イニットは妹にチャレンジをしてみよう。無限記録盤は?」


「ひとつ足りないがここには無限記録盤を落とす魔物がいるだろう?丁度中に入るのであれば…なぁ」

「了解した」



そう言ってニヤリと笑った2人の魔術師達はシヤ達を見た。

8人は身の毛もよだつ恐怖にかられた。



「お前達はこれから代理マスター達とエクスキューションサイトに入ってもらい無限記録盤を落とす四つ腕魔人と戦ってもらう。

ディヴァントの悪魔、ミチト・スティエットも1人で剣と魔術を駆使する存在で丁度良い対戦相手になる。各員心してかかれ!」


襲いかかってくるゴブリンや鉄蜥蜴に適宜代理マスターが「41番!殴れ!」「42番!ファイヤーボール!」等と指示を出しシヤ達は恐怖を覚えながらも指一つ動かせない身体で指示通りに戦っていた。

本来であれば連携なんかの練習もさせるべきだがその頭がないエグゼとトロイに従う形で個々が好き勝手動き、シヤとヨンゴが、何回も背中同士でぶつかったりシーナのファイヤーボールがシローに当たったりした。


暫くすると目の前に腕が4本生えていて剣と盾を持った魔物が現れる。


「出たぞ!四つ腕魔人だ!」

シイの代理マスターの上ずった声で恐ろしい敵なのを理解したシヤ達だったが指示通り動くことしかできないので何一つ出来ないが、正確に「フリースタイルで適宜攻撃、防御優先」等と言えば動けたのに兵士達は無能にもそれをしない。だからこそシヤ達は動けない。


「構えろ!46番!殴りかかれ!」

この言葉でシローが四つ腕魔人に殴りかかる。


通常、剣相手に無手で挑む者は少ない。

余程の達人が剣士に挑むケースと、剣士が構えすら知らない素人などの実力差がなければ挑む事は無謀な事だ。


シローに命じた兵士も自身が無手ならば術を使わせただろうが痛いのも怖いのもシローでしかない兵士は無謀な事にシローに殴り掛からせた。


次の瞬間、四つ腕魔人の白刃が振り上げられて何かが宙を舞う。


その直後に吹き上がる赤いもの。


宙を舞ったのはシローの腕。

そして吹き上がった赤いものはシローの血だった。


1秒程時間があったか定かではない。


信じられない光景が広がる。

「わぁぁぁぁっ、痛い!痛い痛い!痛いいいぃ!!」

シローが声をあげた。


「46番?声?まさか支配が?」

「バカヤロウ、それは後だ!46番はもう無理だ!超熱術を使わせろ!」


シヤは耳を疑った。

シローが声をあげた事も、助けもせずにもう無理だと言った事も、そして超熱術と言ったことも、そのすべてに耳を疑った。


「46番!四つ腕魔人に向かって超熱術だ!」



「うぅ…ぁぁああぁぁぁっ…超熱術!」


この言葉とともにシローが燃えた。

そして目の前の四つ腕魔人共々燃え盛った。


指一本動かせないシヤは代理マスターの命令に従って距離を取らされる。


見ているだけで何もできない。

シローの声はもう聞こえなかった炎は徐々に弱まり消えると四つ腕魔人もシローの姿もなかった。


シローの代理マスターだった男はまだ熱を持つ焼け跡に進む。

シローを案じたのかとシヤは思う。

まだ人間らしい心があったのかと思ったが違っていた。


「ふー、無限記録盤だけはあったぜ」

そう言って戻るとシヤの代理マスターは「良かったな、きっとこれでお咎め無しだな」と言って笑っていた。


異常だ。

この場は何もかも異常だと思った。

それはシヤだけではない。シイもシヅもヨミも全員が異常さに憤っていた。

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