第5話 未来に託した希望。

「部屋は暗いから皆には見えないから大丈夫よ」

ヨタヨタと歩くシーナとシーシーはお互いをヒールで癒すと部屋に戻る。

どうしても疲労なんかはヒールで癒えても心労…表情や顔色なんかは気付かれてしまう。

気づかれてボロが出れば、そこからトロイの施術が甘い事がバレれば助かる道すら無くなる。その事もあって我慢を選ぶシーシーとシーナ。


シーナの言った通りシヤ達にバレる事はなかった。

ヨンゴが気にした女ばかりを実験体としている事は女性の術人間が居ないことと女を売りに出された時に買って良いかの確認だと思うと誤魔化した。

実際には女はエグゼのような変態貴族のペットにされるケースが多く、市場にはあまり出回らない。

出るとすれば病で予後不良の烙印を押されたものくらいで、若く健康でそして目鼻立ちが整っているもの程別の道がある。


その道に進んだ少女達は自身をこの世で1番不幸というだろうがもっと下がある。

ここだ。

身体の自由を奪われ、記憶を消され、そして家畜と言われロクな食べ物も与えられずに人殺しの技術を教え込まれて相手の意のままに性奉仕をさせられる。


向こうならば辛ければ誰も見ていない所で泣ける。

同じ境遇の仲間と身を寄せ合って支え合える。

身体は奪われても心までは、心のこもっていない行為をすればいいが術人間は言われた事を忠実にこなす。誠心誠意の行為だ。


今日のシーナはエグゼの命令でこれでもかとシーシーを責め立てた。

エグゼはシーシーの幼さの残る顔が好みなのだろう。ここ1番は全てシーシーにしている。

そしてエグゼは筋金入りの変態貴族でシーシーが辛そうに歪める顔や快楽に蕩ける顔が好みなのだろう。

この日もシーシーは倒れる事は許さないと命じられて立ったままエグゼとシーナの攻めを受ける。

術人間の身体は限界まで命令に従っていた。



こんな日々を繰り返す中、変化が訪れた。

座学で術を使わせないままに超熱術という禁術を仕込まれた。

超熱術は術で太陽の熱を呼び集める術で制御が難しいが確実に目標を焼き殺す術だと教わる。シヤ達は体内に入れられた無限記録盤がそれを理解してしまうのを察していた。

許可さえ出れば撃ててしまう。

だが撃てても成功する自信は無かった。


そして座学にしても怨敵ミチト・スティエット…、シヤ達には希望の星である完璧な無限術人間を生み出せるマスターになれる男がここから東南東のラージポットというダンジョンの魔物を全て滅ぼして制圧した後でここから東南のディヴァントに街を作りそこに移り住む話が出た。


「よって我々は距離的に大移動の厳しいラージポットではなくディヴァントを目指す。時間にすれば約2ヶ月先と言ったところだ」

この言葉でシヤ達は2ヶ月耐える事でディヴァントに行ければミチトに会える。

エグゼの敵のミチトなら自分たちを救ってくれるはずだと思っていた。


この話を聞いた晩、奉仕活動から戻ったくシーナとシーシーにヨンゴが「後2ヶ月だ!頑張って生き残ろうぜ!」と明るく声をかける。2人とも奉仕活動を悟らせないように気丈に振舞う。


「シーナ、シーシー、実験は命に別状ない?」

「ありがとうシロー、平気よ。何かの薬は飲まされる事もあるけど平気」


ここで飲まされている薬は堕胎薬。

万一にもエグゼの子を授かってはならない為に奉仕後に飲まされている。

シーシーは何の薬か分からずに飲むがシーナは理解していた。


それを普通だと思わせるためにも「増員させるって言ってたよねシーナ」とシーシーが言う。シーナも当たり前のように「ええ、そうね。今日飲まされた薬が明日の訓練でどんな効果が出るか見たいのよね」と答える。


ここで42番のシヅが怒気を含ませて「酷え話だ」と言う。

シーナは知らず知らずのうちにリーダー気質で皆を導いていて「シヅ、怒ってくれてありがとう」と言う。


今度は41番のシイが「怒るよ。明日には忘れちゃうけどそれでも怒る」と言う。

「シイもありがとう。大丈夫。皆で生き延びるの、私達は死なない。顔も知らない未来のマスター。ミチト・スティエットに私達は助けてもらう。皆でマスターにありがとうって言いましょう」


「そうだな。でもそのマスターは術人間だらけの中でどうするんだろうな?」

「ご飯食べさせてくれるかな?」

「王都のマスターなんだからご飯は大丈夫だろ?」

「そうだよ。今はマスターが悪い人って思うより天国みたいなところだと思おうよ」

皆が口々にミチト・スティエットへの思いを口にする中シヤが黙っていることに気付くシーナが「シヤ?どうしたの黙って」と聞く。


「頑張ってこの気持ちと皆の言葉を覚えていたい。忘れたくない。どうしても細かい事が抜けてしまうから、マスターに会えたら助けてくれてありがとうと言って美味しいご飯を食べさせて貰って、名前を付けると言われたら俺はシーナがくれたシヤが良いって言いたい」


この言葉が嬉しかったシーナが「シヤ…」と言ったところで「そうだな…俺ももうヨンゴだ」とヨンゴが言うと「僕もシローがいい」とシローまで言い始める。


嬉しいのに照れて申し訳ない気持ちのシーナは「ええ?マスターがくれるのは格好いい名前かもしれないのに?」と言うとシーシーが「シーナはシーナが嫌なの?」と聞く。


「私はシーナよ。シーシーは?」

「私もシーシー、明日も忘れてたらシーシーって教えてくれる?」

シーシーの言葉にシーナは「勿論」と答えるとシーシーが「じゃあ寝よう」と言って全員眠りにつく。


こうして術人間の少年少女は未来に希望を託した。

2ヶ月後、敵同士で会っても天才と呼ばれたバロッテスを圧倒したというミチトなら、赤子の手をひねるように自分達を一蹴しエグゼを…トロイを倒してくれて保護してくれる。

そうしたら何をしよう。

食べさせてもらえるご飯はゴワゴワパサパサの不味いパンやクズ野菜のスープではなく美味しいものだろうか?

そんな事を思いながら眠りについた。

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