第2話 48番の少年。
目覚めた少年、48番の少年はゴワゴワした服を渡されて着ろと言われた。
その時初めて自分が下着姿だった事に気付いた。
ゴワゴワした服は手に持っただけで安物だとわかる。
そしてふとここが何処で自分が何者か分からない気持ちの悪さに気付いて、今は夢を見ているのだろうと思った。
黒いシャツと紺色のズボンを着た少年は頬に傷のある兵士の後をついて歩く。
何故かこの頬に傷のある男の言う事を聞かなければならない気がしてしまう。
外に出ると自分と同じ格好の少年少女が沢山居る。25人は居て全員直立不動で無表情。
少年も同じ無表情なのだがその実感はない。
「お前のお仲間だ、今日は初期設定だからこっちだ」
そう言われて誰もいない、新品の丸太が置かれた空き地に連れてこられた少年の前に昨日の男が現れる。
だが再び記憶を失った少年はその男の事を知らなかった。だが傷のある男以上に従わなければならないと思える存在だった。
「48番、今からお前にファイヤーボールを授ける。良く見ておけ」
男の言葉はわからなかったが男が丸太に向かって放ったファイヤーボールはすぐに理解出来た。
少年は撃ってみろと言われて丸太に当てると男は満足そうに笑う。次だと言うと傷のある男に腕を斬り付けられた痛みでこれが夢ではない事を理解した。
その後男からヒールを教わった少年は自分の傷を癒すとアイスボールやサンダーボール、アイスランスなどの魔術を授かった。
「今の説明で理解できたか?」
理解できた少年は首を縦に振ると男は満足そうに去っていく。
午後は拳の握り方から身体の動かし方を教わり1日が終わる。
傷のある男に連れられて通された場所は食堂で目の前に出されたパンとスープを食べるように言われる。
パンはボソボソゴワゴワでスープも味は薄いし野菜の屑部分なのか固く苦い。
不味い食事を拒絶しても身体は言う事を聞かずに食べ進める。
苦しみの中で食事が終わると「明日からは俺が離れていても食事に来るんだ」と傷のある男に言われた。
この言葉に少年は頷いた。
そして部屋に通されると部屋には男女合わせて7人が居た。
7人は死んだように番号が書かれたベッドに横たわっている。
「お前のベッドはここだ」
少年は8と書かれたベッドに入ると部屋の明かりが消された。
暫くすると声が聞こえて来る。
「おい、聞こえるか?48番、返事は小さく話せ」
初対面でも感じ悪いと思いにくい魅力的な声。
ここに優しい男の子の「ヨンゴ、まだ早いんだよ」と言う声、「ええ、早く話してやりたいだろ?」と先ほどの声の主が言う。
ここで近い場所から女性の声で「まったく、ヨンゴは…。48番、さっきの男が遠ざかるとあなたは自由が利くようになるの。確認するときは誰にも見られないように手の指を動かしてみて。出来る?」と聞いて来た。
この言葉に従って指を動かすと確かに動く。
「動く…動いた」
つい嬉しい気持ちになって少年は声が上ずってしまう。
「うん。良かった。でもこの事は内緒。奴らに気付かれていい事はないからね。あなた、自分の事はわかる?」
「…わからない。俺は誰だろう…」
「そっか…あなたもなんだね。トロイの奴、何が精度が増したよ。全然よね。名前がないと不便だから…名前つけるね。
あなたは48番だからシヤ。シヤね」
名前がわからずに気持ちの悪かった少年はシヤの名前を貰う。
これだけで気持ち悪さが一つ減った気がする。
「シヤ…」
「うん。私は47番だからシーナ」
声が近い理由も納得ができた。47番…7だから自分の隣に居る。
隣の女性は自らをシーナと名乗った。
「シーナ…」
「そうよ。それでさっきから話しかけてきていたのが45番のヨンゴ」
「ヨンゴ…」
「おう、よろしくな」
「後、もう1人が46番のシロー」
「よろしくね」
これで最初に話しかけてきた感じ悪いと思いにくい声が45番のヨンゴで優しい声が46番のシローだとわかった。
「本当は41番のシイと42番のシヅ、43番のヨミと44番のシーシーも居てシヤに挨拶したいんだけど代理マスターがまだ近くに居るみたいでダメみたい」
「シイ?シヅ?ヨミ?シーシー?…代理マスター?」
突然の情報に振り回されるシヤだったがシーナは嫌な顔せずにキチンと説明をする。
「代理マスターってのは私達に言う事を聞かせられる人間。そこら辺の話は明日から嫌でも教えられるから気にしないでいいよ」
この説明「わかった」と言ったシヤは「シイ、シヅ、ヨミ、シーシー、よろしく」と言う。
4人とも身動きは取れないし返事も出来ないが何かが繋がった気はした。
「シヤ、先に一つだけ言うからね。私達はこんな身体にされてしまって今日の事を明日も覚えていられるかわからないの」
ここでヨンゴが横入りして「シーナが1番覚えていて、次がこの俺な」と言う。
「そう、私とヨンゴは忘れにくいから…だから覚えているから、仮に明日の朝にシヤが私達や自分の名前を忘れていても私達は覚えてる。安心して。ね?頑張って生きよう。生きていればきっと良いことがあると思うんだ」
「ありがとうシーナ、ヨンゴ」
ここでシローが「ま……!」とだけ言う。シヤは何が起きたかわからずに「シロー?」と聞き返すとシーナが小さい声で「シヤ、奴らが来たんだ。静かに」と言った。
声を殺して数秒後に扉が開く。
「話し声なんて聞こえるわけないのにリステリアも気にしやがる」
「これで聞こえたら術人間にされたガキどもの祟りだってなぁ、ファーストロットの時とは違って俺達が代理マスターなんだから間違いなんて起きないのにな」
扉を開けて異常無しと判断をした兵士はまた話しながら去って行く。
足音が遠ざかったところでヨンゴが「危なかったな、サンキューシロー」と言う。
代理マスターが居なくなったからシローも普通に話が出来ていて「ううん、今日はシヤが加わったばかりだからチェックが厳しいんだと思う」と返事をした。
「そうだね、じゃあ、今日は寝よう」
「皆おやすみ」
「おやすみ」
シヤも不思議な気持ちで「おやすみ」と言う。
早朝、「おはようシヤ」と言う言葉で目を開けたシヤだったが自分の事すら覚えていなかった。
だがシーナは嫌な顔一つせずに一から昨日この部屋に来た事、シヤの名前を貰ったこと、シーナ達の名前を教えてくれた。
シヤがお礼を告げようとしたら代理マスター達がきて指一本動かせなくなった。
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