48番のシヤ。~俺、器用貧乏なんですよ。外伝~

さんまぐ

失った少年が得たもの。(全3話)

第1話 攫われた少年。

その少年は何もしなかった。

何もしていなかった。

ただ山に食料を調達にきただけだった。


そこを人攫いに攫われた。

流れるような華麗な動きで、あっという間に攫われた。

4人の人攫いに囲まれ、逃げ場を探した時には背後の男に羽交い締めにされていた。


攫われた少年は、こう言う時に攫われるのは少女や女性がメインだと思った。

ここで攫われる男性の自分はどうなるのだろう。

良くて炭鉱なんかの肉体労働、悪ければ…思い当たる節は沢山ある。

貴族の男娼なんかはまだいい。食事は出るし生き残る機会もまだある。

生きるだけなら山賊なんかに買われてもまだ何とかなるかもしれない。悪事に心が耐えられて悪に染まればそれなりに楽しく生きられるかもしれない。

だが、どうにもならないのは病の危険が付き纏う客を取らされる男娼や、魔物と同じ檻に入れられて殺されるショーの出し物から痛めつける事だけを楽しみたい貴族の玩具なんかの可能性だ。


目鼻立ちも月並みで目立った特長も売り込めるポイントも無い自分は悪い方の予感が当たるのだろうな…。


そんな事を思いながら現状に意識を向けると、口元を押さえられた布からは眠れない時に嗅ぐとよく眠れると評判の草の匂いがした。


眠らされるのか、手際が良いな。

そんな事を思った所で少年は意識がなくなった。



少年は目が覚めた。

目は覚めたが指一本動かせず声すら出ない。

まるで夢を見ているようだった。


そして何より自分がどこで何をしていてここにいるかがわからない。


【夢】ということがわかるのに【自分】の事がわからない。

耐えられない気持ち悪さだがどうする事も出来ない。

何という悪夢だろうと思うとベッドに寝かされた自分のもとに2人の男がやってきた。

年の頃は30代と40代。



40代の男が「48番はどうだ?」と聞くと30代の男が「順調です。エグゼ様。暴走もなく今は眠らせてあります」と言った。


48番?

それは自分の事か?

少年はそう思っている間も話は進む。


「そうか、大分安定をしてきたか?」

「はい。シングルナンバーは失敗の連続でしたがファーストロットで形になり、セカンドロット、サードロットを経たこのフォースロットは安定性も増しています。

これもエグゼ様が危険を犯してガニュー・ジェネシス様と情報交換をしてくださったからです」


2人の男達は主従関係にあるような話し方をしている。

そしてこの後も会話が続いていく。


「いや、情報交換だけで精度が高まり安定をするトロイ、お前の才能のおかげだ」

「ありがとうございます。ファーストロットの逃亡後、王都から出された触れ込み…無限術人間を持っている貴族の特権剥奪の報。

その危険を犯してまで追加で素体を入手してくださる御心に感謝しかありません」


「憎きシック・リミールの差し金だ。まだ監査までは時間がある。

各地のキャスパー派と連絡は取っている。数ヶ月後に悪魔を擁するディヴァント家が管理を任されたダンジョン…ラージポットをオーバーフローさせる。

その時、戦力がラージポットに集中する時に王都に近い貴族はシック・リミールを、ラージポットに近い貴族達はアプラクサス・アンチの指示に従う形でラージポットの領土ギリギリに兵を配置して魔物の流出を防ぐ事になっているがそうはせずに可能であれば悪魔・ミチト・スティエットを討伐する。

我々は兵をラージポット、術人間達はディヴァント家に差し向けて当主ロウアン・ディヴァントと妻のローサ・ディヴァントを討ち取る。

シック・リミールさえ亡き者にすればアプラクサスもキャスパー派に何も言えずにアンチ派の全てを差し出し術人間の製造を不問に処す事だろう」


2人の人間が何を言っているか理解できないが良くない事を話していて48番と呼ばれた自分は術人間と呼ばれたものかも知れない。

少年はそう思っていた。


「ミチト・スティエット…ディヴァントの悪魔。恐ろしい男だが奴はどうやって術人間を安定させる術を手に入れたのか…それがわかればもう少し精度が高まるのですが…」

「ガニューの所でもその話題になったが共通の見解は関わることなく殺すしかないという事になった。奴は危険すぎる。

あの天才と呼ばれたバロッテス・ブートを圧倒した上にひよこ人間にし、禁術の毒呪術すら打ち破り、ダイナモ・ドスパーの作った低品質の術人間が暴走をしても暴走を止めて更に支配権の強奪を行う事で安定化をさせた上に術人間が大火傷を負わせた人間を治療。そしてモブロン家の息子達を記憶の喪失も何もなく完璧な無限術人間化をさせたと言う。噂レベルだがモブロン家のファットマウンテンを数分で制圧したと聞いている。だが奴はあくまで平民、リミールやディヴァントの後ろ盾さえ無くなればどうとでもなる」


暫くすると頬に傷のある兵士が来た。


「48番、この者がお前の代理マスターだ。覚えるんだ」

この言葉を聞いた少年は何を言っているかはわからなかったが傷のある兵士の言う事を守らなければならないと理解をした。


「この方法も城にいた同志達から聞いたがてきめんだな」

「はい。ダイナモの術人間とディヴァントの悪魔は共に生きないから、術人間の母を代理マスターにしたと言っていました。代理マスターはサードロットに試した所抜群の効果が得られました。これで私が前線に立つ必要もなくなります」


「よし…試してみろ」

この言葉で傷のある男が少年に「寝ろ」と言うと少年は起きていられなくなってあっという間に眠る。


最後に聞こえたのは「成功だな」と言う言葉。


そして少年は目覚めた時に先程聞いていた会話の大半の記憶を失っていた。

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