番外編 水の泡の蝶

 一人の女性はとある男に恋をしていた。


 男も女性のことを愛しているように「見えた」。


 女性は男の役に立とうと努力していた、料理も洗濯も。


 二人で暮らしていくためにも頑張って努力していた。


 二人は相思相愛のように「見えた」。

 

 数ヶ月経つと二人は結婚した。みんなが望む結婚の「はずだった」。


 だけど結婚すると男の態度は激変した。


 美しい女性をストレスの発散道具として扱っていた。


 女性は泣いた、必死に抵抗した。


 日に日に男の暴力は過激さを増した。


 女性はそれに耐え続ける日々であった。


 ある日、女性の命日になる「はずだった」日に


 女性は村の真ん中、集会場で火炙りにされていた。


 当時の時代には魔女と呼ばれる厄災の子を火炙りにして処刑する風習があった。


 女性は男から魔女だと告発されてしまい、火炙りにされ処刑される事になった。


 女性は美しかった、だけどその顔も体も黒く焼き焦げていた。


 美しかった女性は醜く成り果ててしまったのだ。


 女性は最期、火炙りにされて周りの人間が笑っていた事に気づく。


 人間の内面というのは表では感じられないと女性は悟った。


 熱く、肉が焼けるような感覚に襲われて死ぬ直前に声が聞こえた。


 救い手となる声だった。


 女性はその声の主に助けを求めた。


 すると瞬く間に炎が消え、周りの人間は惨殺されていた。

 

 女性の周りには本が大量にあった、見覚えのない本が。


 そこには周りの人間の名前が書かれており、そして内面が記されていた。


 女性はそれを読み、人間の内面に興味を「持ってしまった」。


 人々によって違う内面のことをもっともっと知りたいと思って「しまった」。


 救い手は女性にとある空間を提供した。


 人間の内面が書かれた本を保管することが出来る大きな図書館の空間を。


 女性は本をしまった、その空間に。


 そして女性は魔力に溢れた、救い手の仕業により。


 しかし女性は笑った、疑問や疑惑など沸かなかった。


 女性は訪ねた、救い手の正体を。


 救い手はこう言ったのだった。


 「自分は悪魔」だと女性に向かい言った。


 しかし女性は嫌悪することなく自分が悪魔と契約した魔女である事を受け入れた。


 誰からも愛されていなかったと本から読み解いた女性は


 もう人間の頃の感性や人間の心など持ち合わせていなかった。


 魔女であるのだから人間とは違う。


 人間が持ち合わせているはずの心でさえも魔女になった女性にはなかった。


 女性は感情豊か、それぞれの人間が持つ意思、色彩豊かな記憶…。


 それらを知りたいと強く願った。


 それは或る種の強欲だった。


 女性は欲望に溢れる魔女となり、欲望を司る魔女になった。


 魔女の正体は悪魔と契約した元は人間だった存在なのだ。


 女性の他にも悪魔に救いを求めた人間もいるのだ。


 そして悪魔と契約した要因を作ったのは誰でもない同胞だったのだ。


 それが後世にも残されて、未だに魔女は狩れていない。


 魔女の処刑方法は悪魔契約を破棄して、人間状態のまま殺害すること。


 しかし魔女は長い時間契約と一緒に生きており、もう固く結ばれているのだ。


 悪魔契約を破棄するのはもはや不可能であったのだ。


 女性はだからこそ、人々に対し、絶対的な余裕を見せていたのだ。


 もう女性には人々が必死に呼びかけても首を傾げるだけなのだ。


 人間ではないのだから、人間とは違う価値観を持つ種族なのだから。


 今日もまた女性…デジール・ゼフィルスは…人間の心を読むのだ。


 そして蝶はまた努力が水の泡となる瞬間を見るのだ。

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