第8話 水底へ

 9月24日 ライト・クリムファインド死亡

 死因:首吊り自殺

 そのニュースを聞いてこれも僕の仕業ではないかと思い始めてきた。そもそも…9月20日からの殺人事件のすべての元凶は…僕ではないかと思い始めてきた。キルさんを不幸に陥れたのも、メリアにお父さんを殺させてしまったのも、アガペーさんが死んでしまったのも全て…全て僕のせいじゃないかって…。…だからリチュエルが死んだのも…僕のせいなんじゃないかって…。でも彼の死因は空き巣との遭遇だから…僕には…僕には関係がないはずなんだ。…でも疑惑の炎は消えない。どうしても知りたいという欲望が…出てしまう。僕は明日…友人であるリチュエル、そして警察官の死について調査すると決意した。…開いてはいけない扉だというのは分かっている。僕自身にとって知らなければいい事である可能性があるなんて言うことは…分かっているから。真実はどういうものなのか…僕は知りたいんだ。

 翌日…僕は警察署に赴いてた。ディライトさんとライトさんのことについて…。…ライトさんの自殺理由は知っているような気がする。…でも頭に言葉が思いつかない。だから…関係者に話を聞きたいと思っている。

 「…君は二人の死亡した原因を知りたいのかい?」

 「…はい」

 「君とは関係のない…いや、ライトは関係は少しだけだけどあったね。責任を感じているのかな…」

 …或る種そうかもしれない。僕がライトさんを陥れてしまったという疑惑の炎がそうしているのだと思う。…疑惑の炎が今、僕を動かしている。知らないといけない…だけど知ればいいのか分からない疑惑の炎…。

 「…ライトが停職してしまったのはディライトを死なせてしまったから…だそうだよ」

 「死なせてしまった…?」

 ライト…さんが?ディライトさんを…?

 「ライトは日記を捜査責任者であるディライトに提出しようとしていた。ディライトは証拠品は徹底的に調べる性格の持ち主…だから重要証拠品である日記を数時間もかけて調査していた。だから退勤時間が通常よりも遅くなってしまったんだ」

 …日記を…調査するために…?待って…その日記を警察に渡したのは…僕…つまり…ディライトさんが死んだのは…ライトさんのせいじゃない…もしかして…僕の…せ…せい…なんじゃ…!

 「どうして…ライトさんは…せ、責任を…」

 「…自分がもっと早く日記に気づいていれば交通事故に遭わずに家族と出会えたから…だそう。…そんな事後悔しても…自殺しても何にもならないのにね…」

 僕が…日記を提出してしまったから…?僕が日記を提出しなかったら…ライトさんは死なずに済んだの…?ディライトさんも…死なずに…家族と会えたの?僕が…幸せな家庭を壊して…。

 水の泡。

 その意味はただ水に出現する泡というだけの意味ではない。

 比喩的な意味で儚く消えていくもの。努力が無駄になることを意味する。



 その意味が分かるというのならもう分かるよねぇ?

 何もかもぉ。

 さぁ、もう終わるのよぉ。

 …水は君の目の前にあるのだからぁ。

 

 リチュエルが死んだ原因を調べてみた。もしかしたら知りたくない事実が隠されているのかもしれないけど…知らないといけない。…そういうのより…僕が殺してしまった事実を否定したいから。僕はリチュエルの事を調べた。あぁ…ごめんなさい…ごめんなさい…本当に僕が…殺したのなら…あぁ…!

 日が沈む、アカデミーまで急ぐ。何か要因があったのだとしたらアカデミーにある…そういえば…。あの時間帯…リチュエルは部活だったはずだ。それなのにリチュエルは部活をやっている時間帯に家に帰ってきていた。…もしかして…僕は初日…20日に…アーチェリー部に小石を仕掛けた。…まさかそれが…?そ、そんなわけない…あんなに小さな石が…リチュエルが死んだ要因にはならないから!絶対に!

 そう…僕はいつまでも自分に言いつけていた。認めたくなかったから。自分が…殺人者であるという事実を…受け入れきれないから。…僕はもう手遅れなんだ。

 「あら?デスティネさん」

 「あ…先生…」

 アカデミーの校門前を通っていると帰宅する途中だったのかグリム先生が話しかけてきた。僕に…一体何の用なんだろうか。まぁただ見かけたから話しかけたというのもあるのだろうが。

 「何をしているの?随分焦っているようだったけど…止めてしまって悪かったかしら…」

 「い…いえ…何でも…」

 …そういえばグリム先生はアーチェリー部の顧問を務めていた。もしかしたら…リチュエルが死んだ当日…何かあったか知っているかもしれない!これは幸運かもね。

 「あの…リチュエルが死んだ当日…アーチェリー部で何かあったんですか?」

 「え?…あぁ…そういえば…」

 グリム先生が話していた内容で僕は絶望した。そして明日、ライのところへ行こうとも思った。僕が聞きたくなかった内容…それが…グリム先生の口から出てきた。

 「実は部員の一人が不安定な小石を踏んづけて転んで頭を打ってしまって…そして枝を切っていた作業員の方に小石が頭に当たり、大木を切ってしまったの。それで部活が急遽出来なくなって、部員のみんなには早めに帰らせたわ」

 …リチュエルが普段なら部活で学校にいる時間帯のはずなのに学校におらず自分の家にいた。その理由がアーチェリー部に何かあった。その何かを引き起こした元凶…それは…他ならない僕だった。僕は友人の死の元凶だった。自分で直接、手は下していないとはいえ…僕が…友人を殺した元凶のようなものだった。じゃあ、僕は…全て…全て…?

 「あ、もうこんな時間帯…早く家に帰って子どもたちに晩ごはんを作らなくては…。それじゃあ、明日また。デスティネさん」

 「は…はい…」

 僕はどうすればいいのか分からなくなった。僕が全ての元凶だった。リチュエルを始めとした人物の死の原因を作ってしまったのは…僕だった。つまり僕が才能をもらうと…必ず誰かが死んでしまう。僕のせいで。だからこの才能は…。

 そう思っているとまた僕の魔力が上がっていることに気づく。

 待って…これ…また誰か…?

 僕が原因で…まさか!

 「先生…!」

 僕は慌てて先生の向かった先へ急ぐ。まだ間に合うかもしれない。まだ死の運命から逃れさせることが出来るかもしれない。そう思っていると…。

 爆発音が聞こえた。町中で爆発音が。どうやら店内で魔法が暴発してしまったらしい。…その爆発で死者が出てしまった。僕のせいで死んでしまった人…。

 「…せん…せい…?」

 グリム先生が焼け焦げた姿で発見された。そして、それはニュースになった。僕は毎回見ていた死人のニュースに。毎回毎回容疑者は僕ではなかった。僕の影響で容疑者にされてしまった殺人者。つまり僕のせいで殺人者になってしまった人たちだった。あのキルさんも…僕のせいで人生を狂わされた。リチュエルの両親だって僕のせいで大切な息子を失った。警察官を殺したのも全て僕…。…僕が…僕が全て悪いんだ…。僕が全員…。

 救急車が先生を病院に連れて行った。だけど先生は生き返らなかった。死亡が…確認されてしまったのだ。僕に話しかけた影響で。



 「今日の夕方、ウエストイリア地区にあるレストランで魔法の暴発が起きてしまい、爆発が起きてしまいました。この爆発で一人の女性が死亡しました」

 9月25日 グリム・アストラル死亡

 死因:爆発による大火傷



 人魚姫は自ら泡となることを決意しました。

 王子に幸せに生きてほしかったのです。

 ただただ生きてほしかったのです。

 自分は殺人者になりたくなかったのです。

 だから水底へ沈んでいきました。

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