第6話 水面に映る赤い顔

 真相って知ればいいのか、知らないほうがいいのか分からない。真実は知らなければ幸せなこともあるという言葉すらもある。「知らないほうが幸せ」…それが正論なのか違うのか。それは時と場合によるのかもしれない。…この状況は一体どっちが正解なのだろうか。

 僕はあの家を訪れた。フィリア家という昨日まで幸せでいた家庭…。幸せってこんなにも簡単に壊れてしまうものなんだと…自覚してしまった。幸せが壊れされたことで不幸が一気に押し寄せてくる。…幸せだった頃の不幸の耐性の無さからかなり痛いダメージを負ってしまう。ずっと幸せのままのほうが一番いいのに。

 「…ひ…ひどい…」

 フィリア家は荒れていた。今は誰もいなくて警察の人が徘徊している。特別に入ってもらった。荒らさないという条件を飲み込んで。一応僕はあの二人を見ていたから関係者という扱いになり入ることが出来た。ここは元々、普通の暖かい家庭だったのだろうか。それがこんなにも荒れて…暗くて。

 人は変わる。大きな出来事があれば心が変わってしまう。あの時の母親のように。自分の子供が自分の愛する人間を殺してしまったのであれば…どう許せばいいのだろうか。というよりもどっちを選べばいいのか、迷ってしまうだろう。自分の子供を愛するのか、自分の愛するものを奪った子供を苛むのか。あの母親は苛むことを選んだようだった。…僕はどっちを選ぶんだろう。分からない…僕はまだ子供の大切さをよく理解していないから。僕はまだ大人ではないんだから。

 「…あれ。日記が…」

 触れてはいけないとは言われていない。これ以上荒すなという条件だったから見てもいいよね。読み終わったら警察の人に渡しに行こう。

 9月20日 はれ

 きょうはがっこうにいきました。おともだちといっぱいあそびました。おかあさんもよろこんでいました。おかあさんはとてもやさしいです。おとうさんもやさしいです。メリアはしあわせなのです。きょうもしあわせなひをすごしました。

 …全てひらがなではあるけど…だけど幸せな家庭を想像できる内容だった。これは…この日付はリチュエルが死んだ日だ。次の日が…この子、メリアのお父さんが…死んでしまう日…。メリア自身で殺してしまった…この日。このときまでは幸せそうに暮らしていたのに。どうしてこんなにも幸せって壊れやすいのだろうか。…幸せを維持するのはとても大変なことなんだなと思った。

 9月21日 はれ

 おかあさんにとてもとてもおこられました。おとうさんがころされてしまいました。…メリアのせいで。メリアが…メリアがすべてわるいのです。メリアがいきていたから…メリアがいたからわるいんだとおかあさんがいっていました。あした、おとうさんのおそーしきがあります。メリアはずっとおとうさんにあやまります。

 …この次の日記に記入はない。その翌日、メリアという子は母親によって殺されてしまったのだから。母親も逮捕されてしまったから。…家庭は全て崩壊してしまったんだ。たった一つの出来事のせいで。何もかも…。

 9月20日にはリチュエルが死んだ

 9月21日にはメリアという子の父親が死んだ

 9月22日にはメリアが死んで、メリアの母親キルが逮捕された

 …今日も…まさか誰かが殺されてしまう?とりあえずこれは証拠になるから…警察の人に渡しておかないと。

 「あの。これ…」

 「ん?これは…日記か。ありがとう、証拠を見つけてくれて」

 「大丈夫です。…それでは僕はこれで」

 もうこの家に来る予定はない。けどこの家で学んだこともある。…必ず僕が連続事件の真相を見つけるから。…死者が全て報われるためにも、僕が頑張らないといけないんだ。…もうこれ以上、誰かが殺されてたまるか…。人々の命が…絶たれてたまるか。死んでいくのなら僕がその連鎖を断ち切らないと。

 …そう思っているとふと自分の魔力がさっきよりも多くなっていることに気づく。もしかして知らない間に指示を達成したのかな。…まぁ、いいか。今はそんな事を気にしている場合じゃない。調査を再開しないといけない。

 


 無知というのが一番恐ろしく、そして一番救われる。

 なぜなら全て「知らない」で片付けられるのだから。

 罪の自覚を感じることが出来ないのだから。

 …だからこそ無知は人々にとっては大罪なのであるのだ。


 9月20日 リチュエル・タブー死亡

 死因:空き巣により殺害

 9月21日 アガペー・フィリア死亡

 死因:鋏が脳に刺さり死亡

 9月22日 メリア・フィリア死亡

 死因:刃物による鋭利なもので心臓を刺され死亡



 9月23日…

 「ニュース速報です。サウスマジカル地区アリアストリートにて交通事故が発生しました。被害者は警察官、ディライト・ジャスティスで警察署から退勤していたということです。大型魔法車の運転手は居眠り運転をしておりディライトさんに気づかなかった様子です。この事件でフィリア家の調査をしていたライト・クリムファインドさんは責任を感じ、停職してしまったらしいです。警察はなぜ事故が起こってしまったのか調べています」

 ディライト・ジャスティス死亡

 死因:大型魔法車に跳ねられ死亡

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る