第5話 青いままの水

 また誰かが死ぬ。殺されていく。僕はこの世界の現状にはじめて焦りを感じた。こんなにここで死んでいく人がいるなんて…。

 僕は今日、リチュエルのお葬式に来ている。強くなった僕を天国にいる友人に見せるためにも。…そして彼を弔うためにも。僕は初めて誰かのお葬式に行った。家族の誰かはまだ誰も死んでいないから。僕は誰かを弔うイベントに付き合う。イベント…と言えるのか分からない。どっちかというと冠婚葬祭か。…誰かの死を悲しむイベント。「祭り」なんて表現をしたら誰かの死を喜んでいるように見えてしまうから。イベント…と言ったほうがいい。そっちも喜んでいるように見えるが「祭り」よりかはマシだろう。

 「うぅ…」

 周りを見てみるとリチュエルの死を悲しむ人々…中にはクラスメイトもいた。みんなリチュエルのことを大切に想っていたんだなと自覚できた瞬間だった。…誰か一人が死んでも必ず一人は悲しんでくれる人がいないと死者は…寂しい気持ちになるだろう。誰にも見送られずただ一人消滅していくなんて怖くて仕方がないだろう。

 お葬式はとてもみんな静かで中には泣いている声も聞こえた。お葬式は絶対にふざけてはいけない雰囲気が漂っていて…暗い空気で僕は押しつぶされそうだった。寂しさ、悲しさ、孤独感、喪失感…暗い感情で心が死にそうだった。他の人もそうなのだろうか。リチュエルの家族は僕とは比較にならないほどの感情でこのお葬式にいるのだろう。寿命ではなく、誰かに殺害されたのだから、僕には持っていない感情を強く持ち合わせているのかもしれない。…僕が死んだら家族は悲しむ。僕も家族が死んだら悲しむ。人々にとって家族は大切にしているものの一つだという事に気づいた。僕に足りないなにか…それが少しずつ分かっているような気がする。

 僕に足りない…もの。その一つは「慈愛心」だと思う。僕はみんなを愛さなければならない…もっと詳しく言うのならみんなのことを考えないといけない。政府員はそうでならないと…ただの傲慢な人物になってしまうのだから。政府員が傲慢だったら誰も賛同してくれないだろう。みんなに望まれないだろう。だから…その心を持とう。頑張って目標を決めて…この世界を変えていく。それが世界最高峰の政府員の使命だと…僕はそうだと信じている。

 お葬式が終わり、寮に帰る。箒にまたがり、帰ろうとした時に…隣の葬式場が準備していた。誰かの葬式がまた…開催されるのだろうか。誰の葬式かと透視魔法で見てみると…衝撃だった。昨日の夕方、子供と一緒にいた男性の遺影があった。殺されたのか…?リチュエルと同じように…。

 そう思っていると…子供の泣く声が聞こえた。そして女性の怒りに溺れる声も同時に聞こえた。女性が子供に怒鳴りつけているみたいだった。

 「あなたがいたから!私の夫は死んだのよ!貴方が殺したの!」

 「ご…ごめんな…ざい…!」

 「貴方なんて…生まなければよかったわ!」

 そう女性は子供にいった。発言からして女性は子供の母親みたいだ。…子供が…男性を殺した…いや男性ではない…自分の父親を殺してしまったのか…?子供が…?昨日の夕方を様子を見てみると仲が悪いというわけではなかった。むしろ愛し合っていた。子供の方もお父さんのことが好きみたいな雰囲気が出ていた。…どうして…なんで子供が父親を殺してしまったんだ…?あの後、殺人に発展するほどの大喧嘩があったのか?それなら普通に考えて父親のほうが生存する…子供は大人の力には勝てない。子供はぱっとみて小学校2年生ぐらいだ。高等の人ならわかるが小学校低学年ならどうあがいても勝てるわけがない…それなのに…どうして。

 …ライに聞けば分かるのかな。でもライの居場所がよくわからない…。

 「呼んだのなら貴方を招待するわよぉ」

 そう聞こえてまたもや暗転した。

 「あ…ライ…」

 「ふふ…どうして子供のほうが生き残ったのかと…聞きたいのねぇ」

 ライは円柱状の大きい水槽の近くにある椅子に座っている。水槽もとてもきれいな青色でライに似合っていた。

 「…そうねぇ。それは貴方が一番よく知っているのではないかしらぁ?」

 「…え」

 想定外の言葉がライの言葉から出てきた。僕が…一番良く知っている?

 どういうことだ、僕はあの家族とは知り合い関係すらもない…ただの赤の他人なんだ。それなのに、僕が一番良く知っている?それは…一体どういう意味で言ったんだ…?分からない…。どうして…。

 「真相を知りたいのなら貴方自身で動けばいいわよぉ。でも…多分貴方はいつか知ることになるから安心してねぇ」

 …いつか…知る…か…。

 「…指示には従う。だけど指示に従っている時以外は真相を知るために行動する。…それでもいい?」

 「いいわよぉ。私はプライベートを強制することはないわぁ」

 そう言って意識がふわふわしてきて目が覚めるとまたもや僕の部屋。箒もちゃんとあり、僕は倒れていた。本当…ライは一体何者なんだ…?

 …僕が…僕がこの連続自殺事件と連続死者事件を…調査して真相を見つけてやる。だから今、ニュースを見て今日は誰が殺されたのか見ておかないと…僕が解決しないといけないのかもしれないのだから。

 そして僕はニュースを見た。…そしてまた誰かが殺されてしまった。

 「ニュース速報です。ノースエンチャント地区にある一軒家に子供の死体があると警察に通報がありました。殺害されたのはメリア・フィリア。フィリア家の娘であると判明しました。警察はメリアさんを殺害した容疑者を逮捕しました。容疑者の名前はキル・フィリア。メリアさんの母親だと言うことです」

 …あ…あの時の…二人…。

 …やっぱり…何か胸騒ぎがする…でも見つけないと…真相を。自殺者と殺される人が増えてこの国の人口は減り続けている。僕は…この国が安心して暮らせられるような国にするべき…なんだから。僕は政府員になる男なのだから。


 一つの不幸はまたもうひとつの不幸を呼んでくる。

 一つの物事が連鎖してさらなる不幸を呼んできてしまうのだ。

 一つの物事がないだけで結果がこんなにも違うこともあるのだ。

 …それがたとえ…蝶のはばたきのように小さな出来事でも。


 まだ水は青かった。

 昔から水はまだ青い。

 何も変わらない、意思が変わらない。

 入水した死体の血で染まらない青くきれいな水。

 すべてを受け入れない、自分を絶対だと思う水。

 水は何もかもありのままに映す。

 邪魔なものは何もかも流し、消してから…。

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