第2話 青い満月の夜に水辺に立つ

 こうして僕はライに従うことになった。僕の未来が輝くのなら僕は怪しい人でも信じなければいけないのだから。僕は…やるしかないのだから…。

 「それじゃあ、貴方にこれを渡すわねぇ」

 ライにある不思議な本を渡された。ほんというか魔導書っぽい本だと思った。魔法陣とか書いてあるし、そんなことよりもほんのタイトルが書いていない。どういう本なんだ?というか本ではないのかもしれない。これは…指示書なのかしれない。ここから僕に指示を出していくのだろうか?…彼女はかなりのやりてなのかもしれない。僕では敵わないかもしれない。「かもしれない」じゃない…僕では絶対に敵わない。敵う訳がない。本の内容を自由自在に…?いや、予言書の類だと…かなり魔力を消費して作られる魔導書だ。僕では扱えない。そんな代物を…僕に…?

 「あらぁ。勘が鋭いのねぇ。これは私と貴方をつなぐ電話のようなものぉ。つまり、私が貴方に指示を送るための代物よぉ。これしか連絡手段がないからなくさないようにねぇ」

 …連絡手段がこれしかない…テレパシーとか使えばいいと思うのだけど。あぁ、でも僕が遠くに行ってしまうかもしれないから…か。テレパシーは対象が遠ければ遠いほど消費魔力が多くなる魔法だ。もしもの時に備えてテレパシーを使わないんだろう。テレパシーだと魔力が足りないという時があるかもしれないから…。…魔導書でも魔力を凄い使いそうなんだけど。

 「それじゃあ、よろしくねぇ」

 「…最初に何をすれば…」

 「貴方は定期的にその連絡書を確認してくれればいいわぁ。連絡書に何か書かれていたらそれに従ってちょうだぁい」

 …本当に簡単だ。つまりは連絡書の書かれていない時は普通に過ごしていて構わないと。連絡書に書かれていたらそれに従うだけで才能をあげると。…日常生活にあまり影響はなさそう。本当に指示の内容が簡単なら学校にいてもそれをこなせそうだ。…連絡書は普通の本ぐらいだからカバーをつければ、アカデミーへの持ち込みは可能。…僕の通っているアカデミーはルールがゆるゆるだから本の持ち込みぐらいは許可されている。ゲームは流石に駄目だけど。授業中に遊ぶやつが増えてしまうから。…監視出来る魔法があるとは言え幻を見せる魔法も存在するから誰にも知られず遊ぶことが出来る。あーもうめちゃくちゃだよ。

 「それじゃあ貴方の家に貴方をテレポートしてあげるわぁ。その方がいいでしょぉ?」

 「…そうですね」

 ライは美しく微笑むと簡易的な魔法陣を僕の下に生成して…僕の視界はまたあのときのように暗転…したわけではなく、まるで夢だったかのように白く意識がふわふわしてきた。眠いとさっきまでは思わなかったのに今は眠たいと思っている。…テレポート魔法でも眠いとは思わないんだけど…なんだかこの魔法の原理がよくわからない。独自魔法だったら凄いな。その人にしか扱い方がわからない独自の魔法。テレポート魔法を応用して作ったのだろうか。

 目を覚ますと僕は僕の部屋にいた。寝ていた…というか倒れていたみたいだったが。夢かな?と一瞬思ったが手に持っている何かを見たおかげであれは夢ではなかったと思い知らされた。僕の手にあったもの…それはさっきの連絡書だった。今はまだ何も書かれていない厚みがある本。別に重たくはないが。これが僕の手元にあるということはさっきのは夢ではなく実際に現実に起ったことだと…。それじゃあ…僕は本当に…?家族の期待に応えられるかもしれない!僕は興奮した。もちろん声には出していない。ここは寮、つまり僕以外の学生も住んでいる。大声で歓喜の言葉を言ったら迷惑極まりないし、何事か!?と思われて部屋に入ってくるかも。

 「…絶対に…応えてみせるから…」

 僕は長年家族からかけられていた圧力から少しだけ解放されたような気がした。あのライという女性の言うことが本当なら…僕は一握りの希望を掴んだんだ。神様は…僕を見放していなかったんだ…!これで…!これで…!

 興奮状態を落ち着かせるために深呼吸をして落ち着かせた。だけど心の奥底ではまだ興奮しているような気がする。頑張ってそれを抑えて晩ごはんを作り、風呂に入り、そして寝る。だけど寝られなかった。まだ興奮が冷めていなく寝られなかった。明日から僕の人生が変わるかもしれないという状況が見えて興奮が収まりきれていない。明日…最善の状態でアカデミーに行くために、ちゃんと寝ておかないと。睡眠は重要だってお母さんが言っていた。まぁ、眠れなさすぎて目の下にクマが出来るのは避けておきたいからちゃんと寝よう…。興奮したまま眠れるか分からないけど。

 僕は興奮を抑えたまま眠った。それはとてもとても綺麗な青い満月の夜だった。



 こんな逸話がある。

 満月の夜は死ぬ人が多いという逸話が。

 研究者の話では「そんなことない」と聞く。

 だけど実際に調査結果が出ているのはなぜなのだろうか。

 皆、美しい満月に見とれているのかもしれない。

 美しいからこそ狂気に陥ることもあるのかもしれない。

 「綺麗な花には棘がある」という言葉も月や人間を指しているのかもしれない。

 美しい女性には要注意だ、棘があるのかもしれないのだから。

 気軽に耳を貸してはだめだ、知らぬ合間に魅入られるかもしれないのだから。

 「…いい話でしょぉ?」

 にゃー

 「そういえば今日は満月の夜ねぇ。美しいからこそ人間は狂気に陥る…ふふ…なかなかおもしろいと思わないかしらぁ?」

 にゃー

 「ふふ…私たちも綺麗な青い満月を見てみましょぉ?」

 にゃ〜!

 「楽しみねぇ…」

 月は色々ないろに見えることがある。

 青と赤色…赤色は不吉ではあるが、青色は幸運なことを指す。

 しかしどうだろう、昔は青色も…不吉な事が起こってしまう前兆とされていた。

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