第208話 先輩

「ぁ、あぁ、これでやっと帰れますね……」

「パ、パワー……」 「ロリロリロリロリロリロリ……」


比較的小規模なダンジョンとは言え、貧弱なコイツらにとっては、結構厳し目の体験入隊であったらしい。


「あったあった、ダンジョンコア。これで完了と」


最奥まで来た肉体的にも精神的にもヨレヨレの三人には、ダンジョンボスのハイオークを討伐する力もなく、また元気も残っていなかった。

仕方がないので、ハイオークに指鉄砲を向けると、35mmAHEAD弾の速射で上半身を血煙にしてやった。狭い場所で、尚且つ敵が柔らかいと、この魔砲が最適解のような気がする。


「オッ、オオォ……」

胸に吸い込まれるようにコアが回収されると、『ピコン!』とメールの着信音がなった。


「なになにぃ?」


開いたメールの内容は、期待していなかった通りの内容だった。

『エラーにつきましては、現在も目下原因の究明と検証を行なっております。ご迷惑をおかけしますが、もうしばらくお待ちください』

だと。


今回も、運営は詫びチケットでお茶を濁すつもりらしいが、前回と違って【従士最大数UP×1】とかいうしょうもないチケットだった。

正直、前回の【スキルLvアップチケット×3】が有能過ぎた。

もしかして、あれか?攻略したダンジョンの難易度とか規模によって変わってくるのかもしれんな。


モブ太を筆頭に、織田Q、早苗丸、小田ちゃん、ミルフと元々五人枠ある従士の設定から更に最大枠を増やす必要性がないんだが?

ロリ豚クソ野郎を従士にはしたくない。


「まぁ、いっか!ホラ、帰るぞ!」


虚な眼の三人を促して消えゆくダンジョンを後にした。



「これで体験入隊は終了だ。どうだった?」


「死ね!」「ハイ、パワーです」「ロリー」


三人ともウチの会社に就職を決めたらしい。


「最初は見習いだが、レベルを上げて役に立つようになれば働いた分の報酬は払う」


織田Qは、一応会社の管理として初任給が20G。

小田ちゃんは、ハイランダーや社員どもの食事を用意してくれるから初任給は30Gである。

ロリ豚クソ野郎は、飯を食わせて貰えるだけでも感謝して欲しい。


「おじさん、お帰り!」


軽装甲機動車で戻ってきた俺達に、コタロウが駆け寄ってきた。


コタロウを抱えながら、「お前の後輩達だ」と三人を紹介し、「晩飯まであの二人に訓練をしてくれ」と男二人をコタロウ先輩に託し「壊れない程度に痛ぶっていいから」と、茫然とする二人を置いて小田ちゃんと屋敷の台所へとむかった。



───────────


「おおっ!獣人ですぞ!しかもショタとは!これはロリにも期待できますな!やはり異世界は最高ですぞ!」


「ローリーさん、犯罪はダメですよ」

「無論!拙者は紳士ですぞ!ノータッチですぞ!」


あんな地獄から戻ってきたばっかりなのに、もう訓練とは……。脳筋を頼った自分が恨めしい。

しかし、自分達がいかに脆弱な存在であるかを思い知らされたばかりである。


「コタロウ君ですか、君が彼の眷族になったという狼獣人の少年ですか……。まぁ、子供とは言え先輩の言う事はそれなりに従いますが……」


「拙者はもう訓練はしたくないでござる……」


ローリーさんは既に限界を超えている。

いくら魔法や薬で身体のダメージを回復できても、精神までは癒す事はできないのだ。


「おじさん達、弱いクセに訓練サボるつもりなの?」


何故、そんな丸太を抱えているんですか?


「コタロウ君、僕達はさっきまでダンジョンに潜ってたんだ。だから、とても疲れていてねぇ。サボりたいんじゃなくて、休養がしたいんだ」


「うぇいかっぷ!」


「はぁ?」

獣人の少年が急に叫んだ言葉は「立ち上がれ!」だった。


「まだやってもいないのに諦めるの?そんなんじゃ、正義のヒーローにはなれないよ?」


この子は何をいってるんでしょうか?


「コタロウきゅん、拙者達も少しはレベルが上がって戦えるようになったでござる。コタロウきゅんには申し訳ないが、拙者、実力行使をもってコタロウきゅんに抵抗するでござるよ!」


最初は本当にダメダメで、ゴブリン数匹にボコられていたローリーさんではあるが、最後の方はオーク相手にもなんとか勝てるようになっていた。


いくら獣人とは言え、子供相手になんて大人気ないんだと呆れていたが……。


「ローリーさん、ダメ……だ……」


あ、あれは、ピーカーブスタイル?

そこから上体を振りだすと、少年を抑えつけようとにじり寄ったローリーさんに見事な高速デンプシーロールで拳が突き刺さっていく。


「ピィィィカァァァッ!」

「ひっ、ヒデブゥーーーーーーーーヘァッ!!」


せっかく回復してもらったばかりなのに、もうボロ雑巾のようにされるローリー。


「おじさんはどうする?」

「さぁ、訓練を始めましょう。コタロウ先輩」


僕はなんとか丸太を担ぐと、庭を走り始めた。



───────────


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