第197話 使徒覚醒②

河川港の街からほど近いダンジョンに来た俺達は、大した準備などせずにアタックを開始していた。


「お前が前衛な、無駄に頑丈だし。お嬢ちゃんは俺とドッティで挟んで守る」


「あの、師匠。『ドッティ』の方で呼ぶのやめてもらえませんか?」


童貞がシコルスキーの爺さんに情け無い顔で嘆願する。


「親につけてもらった名前を恥ずかしがるなんて、親不孝なヤツだなぁ。正しく、お前に相応しい名前じゃないか。なぁ?」


真顔でそう俺に言ってくるシコルスキーだが、絶対馬鹿にしてる。

そもそも、お前の名前も大概だと思う。


「そんな名前、そうそう似合う奴はいないぞ?もっと誇りに思えよ!ドッティ!」


しかし、童貞をイジるのは俺より上手い。乗っておく。


「お前らぁ……」


シコルスキーが初めて童貞のファーストネームを呼んだ時は冗談だと思ってたんだが、童貞のファーストネームは本当に『ドッティ』だった。


ドッティ・ド・オニツカ。『オニツカ』は騎士爵を授与された時に自分でつけた家名だ。


「あ、あの、ド……オニツカ大尉、そのぅ、素敵な名前だと……思いますよ?」


「せ、聖女様ぁーーっ!」


童貞がツェツィーリアの優しさに涙を流して近寄ろうとするが、


「ヒッ!」「寄るなカス」「何どさくさに紛れて触ろうとしてんだよ。童貞は死ねっ!」


若干引き気味のツェツィーリアの前に、シコルスキーが障壁を張り、したたか顔面を打ち付けた童貞の脇腹に俺の足刀を叩きこんだ。


「ブッフ!モルスァァァア!!」ドゴォン!


ちょっとした交通事故並みの衝撃で壁に叩きつけられても生きてる童貞って、ある意味凄いよな。



レベリング中の俺に対し、順調に魔物達が襲って来るが、先程からゴブリンやコボルトなどの雑魚しか出てこない。

群がるゴブリンを魔弾のフルオートでミンチに変えると早々に煙と化した。


「一々拾う手間が省けて便利だな。異世界人のスキルは」

たった今、討伐した16匹分の小石のような魔石を拾う手間など、どれほどだろうと思われるかもしれんが、これが積み重なると非常に億劫になるだろう。


『魔石オート回収』のスキルはダンジョンでも便利である。


ゴブリン討伐180匹達成報酬1800P

ゴブリン討伐190匹達成報酬1900P

合計3700P


ゴブリンだけでも既に200を超えそうになってるが、ダンジョン最奥までまだ半分以上の距離があると思われる。


「ちと疲れたな、飯でも食って休憩にしよう。異世界人」


「まったく、これだからジジイは。お爺ちゃん、ご飯はさっき食べたでしょう?」


「もう、御使さま!老師様に失礼ですよ!ダンジョンに入ってからまだ何も食べてないじゃないですか!」


「そうだよ、何か食おうぜ?結構疲れたし。皆んなお前みたいに体力馬鹿じゃないんだよ」


俺としてはもう少しレベリングを続けたいところだったが、俺以外は全員休憩したがってるので、しょうがなく鹵獲した特殊魔法合金製の装甲馬車(馬なし)を出して中で一休みすることにした。


「中々良い馬車を持ってるな。帝国製じゃないか、戦利品か?」


「まぁな」


外見は武骨な装甲馬車だが、貴族の使ってた馬車なせいか、内装は中々凝った造りだ。

魔道具の照明まで付いてる。


縦に向かい合う形で配置されたベンチシートはフカフカのソファーのようだ。

中央のテーブルの上に、アイテムボックスに入れておいた食糧を適当に並べる。


「俺、ラーメン。味噌な」「あっ、俺も!豚骨で」


「テメーら……」

コイツらろくに働きもしないクセに……


「わ、私はなんでも大丈夫なのでコレをいただきます」

ツェツィーリアはテーブルに置かれたサンドイッチに手を伸ばしていた。


「ツェツィーリア、スープもあるぞ。ホラ」

「あっ、ありがとうございます!」


謙虚なツェツィーリアには温かい飲み物を用意してあげる。


「おい、イチャついてないで早くコッチにも食いもんだせよ」


なんとも横柄なジジイであるが、今後俺の使う魔砲とも相性の良さそうな『爆轟』を伝授してもらう為に我慢は必要だ。


「ハイ、老師殿。味噌ラーメンな。ついでにドッティには豚骨と」


「……」「コレ、カップ麺じゃねーか!?」


「お湯は、ホラ、そこの棚の上に魔導コンロがあるから自分で沸かせよ。そのデキャンタも魔道具だから、水もちゃんとあるだろ?」


「「……」」


この馬車の中、設備も充実してるし結構快適である。

渋々お湯を沸かして、カップ麺を食べてる二人の前でPで購入した家系ラーメンを取り出して食べる。


「き、貴様には人の心とかないんか……?」


シコルスキーは絶望の表情で箸を床に落とした。


「今後、人にモノを頼む時は相応の礼儀をはらうんだな」


「俺はコレはコレでいいぜ?前世ぶりだからな!カップ麺!」

「じゃあ、ドッティには今後、未来永劫、カップ麺だけにしてやる」


「やめろっ!それはイヤだ!頼むぅ、頼むから!」


「しょうがない、クソ野郎に頭を下げるのは気が進まんが……頼む、上手い飯を寄越せ。このとーり!これでいいか?」


哀願するドッティだが、ジジイの頼み方はまるで気持ちのこもっていない。


「このクソジジイ、老害かよ……。まぁいい、老人虐待するのは使徒として気が引けるからな。コレを追加してやる。ありがたく食え」


コンビニおにぎりとフライドチキンを追加してやった。


「お前、おっパブ奢ってやっただろ?次はもうちょっとマシなモノを寄越すように」


文句を言いながらもパクつくシコルスキー。


全く、最近の年寄りときたら……

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