第195話 悪徳侯爵令嬢③
「それは出来ん!皇帝陛下を裏切るなど、私には……」
憔悴した顔のケストナー侯爵は中々の忠臣である。
娘を攫った俺達は、ケストナーへと密会の申し込みをした。
『娘の命が惜しければ、会談に応じるように』と。
俺は単身、ケストナー侯爵家の本邸を訪れていた。
「アンタの娘が皇太子と結婚すれば問題ないだろ?ケストナー家は、晴れて公爵家へと
この国の統帥権は皇帝にあるが、サセ湖方面侵攻軍の軍権は現在、ケストナーにある。
「娘はまだ妃候補だ。確定してるわけではない」
「そこはまぁ、俺の協力者達に任せるしかないなぁ。今回の事で恩でも売っておけば?」
宮廷魔導師であるシコルスキーが、帝国内の有力者達と渡りをつけている。
「娘の婚約は置いておくとしてもだ、もし今、皇帝がいなくなれば、アンタの立場はどうなる?」
「グッ……」
「担ぐ御輿を間違えんなよ?鞍替えすべきは今だと思うが?」
「ほ、本当に皇弟殿下と宰相が?嘘ではなかろうな?」
シコルスキーの爺さん、政治に興味はないと言ってたが、とんだ大物と渡りをつけたもんだ。
他にも既に、教会と有力貴族のデアフリンガー公爵家も味方に引き込んである。
コレはツェツィーリアのおかげでもあるが。
「こんな嘘ついて、俺に何の得があるんだよ?俺はアンタら帝国の政治に興味はない。敵対する者の首が取りたいだけだ。俺の首を狙うヤツを放ってはおけないからな」
「しかし、国が混乱すれば──」
「アンタは自分の心配だけしてればいい。後はこちらで上手くやるさ。理解できたか?未来の公爵閣下殿」
ケストナーは、項垂れるように首を縦に振った。
◇◆◇
「ねぇ、ドクペもう無いの?出しなさいよ」
「お、俺は転移者じゃないから……あっ、コーラならあるよ?」
「ハァ、アンタ本当に使えないわね?いいわ、コーラで、氷もお願いね?」
俺が戻ると、ポテチの袋を片手に侯爵令嬢エリーザベトは召使いのように童貞をコキ使っていた。
「お前ら、ずいぶんと仲良くなったじゃないか。童貞、話しはついたぞ。お嬢様は念の為に人質のままだがな」
「あ、あなたねぇ!何が目的か知らないけど、こんな事して本当に無事に済むと思ってるの?」
「お前のパパとは協力関係になったよ。そんな事より、お前、転生者か?」
「……だから何よ」
「お前、ずいぶんと荒稼ぎしてるみたいだな?美容業界を牛耳ったり、アパレル産業に金貸し業まで、実に手広くやってるようだ」
「別にいいでしょ!それくらいの知識チート使ったって!」
「まぁな。それくらいならな?後は、何だっけ?ちょっと気持ち良くなる葉っぱに、闇ギルドの元締だっけ?」
このご令嬢、父親の金と権力を使って表と裏で手広く金を稼いでるらしかった。
貴族や金持ち連中に葉っぱを売りつけ、裏仕事の連中を使って金の回収やブツの売買、ときに脅迫や人身売買などまでマフィア顔負けの裏の顔だ。
「だ、誰に聞いたの!?そんな事!」
「否定はしないんだな。まぁ、だからといって俺がお前に何をするわけではないんだが。皇太子は知ってるのか?」
ニコリと笑って聞いてみた。
「な、何が望みよ!バラす気!?私を脅してるの!?」
「脅すとか人聞きが悪いなぁ。ちょっとお願いを聞いてもらいたいだけだよ?」
悪どいヤツから搾り取るのは、世のため人の為だ。
人手と金を用立ててもらうくらいなら罪悪感もない。
「とりあえずは、10万Gでいい」
「ハァァァァアアアッ!?そ、そんなお金ないわよ!」
「嘘はいかんなぁ。嘘つきは地獄に落とさなきゃならん。それは可哀想だろ?かき集めろよ」
この守銭奴令嬢は何が目的か知らんが、やたらと金にがめつい。
「グヌヌ……」
「えぇぇ、このお嬢様、そんな事やってんの?さすがにヒクわー」
「ひ、必要悪よ!わ、私は、言わば帝都の街を守ってるって事なのよ!」
「金を回収したら、裏の稼業からは手を引け。お前は現場をろくに見た事もなく、裏から手を回すだけでゲームか何かのつもりかもしれんが、遊び感覚でやっていい事じゃねぇ」
前世がどんな人間だったか知らんが、ちょっと調子に乗り過ぎた。
この国の宰相は、コイツの逮捕・殺害を企図していたらしい。
俺としても、ケストナー侯爵家ごと潰してもよかったのだが、シコルスキーの爺さんが利用価値があると言うので、今回は殺さない方向で動いたのだ。
ご令嬢は涙目で俺を睨んでいるが、肝の据わってない人間にいくら睨まれようと痛くも痒くもない。
そんな事よりも、ようやく職業進化の目処がたった。
はてさて、次は一体どんな『まほうつかい』になるのやら。である。
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