第194話 悪徳侯爵令嬢②
三騎の騎兵を先頭に豪奢な馬車が出来るだけの速さをもって走らせていた。
後続の護衛は既に片付けた。
「横に付けろ!」
軽トラの荷台から、バンバンと屋根を叩いて運転席の童貞に指示を出す。
慣れない運転で、通せんぼする馬車におっかなびっくりの童貞がなんとか路肩に外れて追い抜きにかかる。
前を走る護衛が馬首を返そうとするのをバレットで仕留めると、倒れた騎馬を避けきれなかった馬車が横転した。
馬車の中から悲鳴が上がり完全に止まると、投げ出された馭者と馬の頭を撃ち抜いて止めを刺しておく。
「おーい、生きてるか?」
横倒しになった馬車の天井部分をノックしてみる。
MAPさんには、変わらず赤点が二つ表示されてるので生きてはいるはずだ。中からガサガサと音がするので横倒しになった馬車を持ち上げて立て直してやった。
「両手を上げてゆっくり出てこい! 下手な真似をすれば殺す!」
馬車のドアの前に立ち構えると、童貞に頷いて合図を出す。
取手に手をかけた瞬間に勢いよくドアが開くと、扉で叩きつけられた童貞が顔を押さえて呻いていた。
中から飛び出してきたのは、なんとメイドである。襲いかかってきたメイドの両手には、短刀が握られていた。
「慮外者が!死んで詫びろ!」
テンプレ異世界メイドって、なんで好戦的なん?
まぁ、嫌いじゃないんだけどね。
テンプレ通りで、暗殺者スタイルの戦闘技術をマスター……してるのかどうかは分からんが、素早く突っ込んできたと思ったら、右を順手、左を逆手に持った短刀の連撃である。
常人からしたら確かに速いが、比較対象をウサちゃん設定にしたら断然遅い。
左の振り抜いてきた手首を左手で掴み、顔面を狙ってきた右の突きこんできた右手首を右手で掴む。
メイドの腕を十字に絡ませて肘関節を極めながら投げるが、上手い事自分から飛んで投げられ逃れようとする。
「ギャァァァァ!」
両手首の骨を握り潰してやった。
女の子には優しい俺だが、忠告もしたし殺しにきた人間を無傷で逃してやるほどお人好しではない。
「ちょっと黙ってろ」
転がした状態の脇腹を踏み抜いて肋骨を数本へし折っておく。
呼吸がかなりおかしくなっているが、少なくとも数分は死なないだろう。
「う、動くな!コイツがどうなってもいいの!?」
「別にかまわんが?」
金髪縦巻きツインドリルの女がGTOの首に短剣を突きつけていた。
「なんなら、二人まとめて俺が撃ち抜いてやってもいいぞ?」
指鉄砲を向けるとGTOを盾にするツインドリル。
「お前、本当何やってんの?馬鹿なの?死ねよ」
「お、おおおおオッパイ、オッパイががあぁぁああ当たってるぅぅう!」
完全に密着状態の童貞とツインドリルお嬢様だ。
そりゃ当たってるわな。
だからって……なぁ?
ちょっと。童貞にもほどがあるだろうよ。
「ちょ、ちょっと!アナタ!急に何言いだすのよ!」
「ソイツ、女に免疫がないんだ。お前のその密着は、ソイツには刺激が強すぎるんだ。たぶん、変態ってわけじゃないから安心していい」
完全にテンパってる童貞は「オッパイ、オッパイ、オッパイ……」とオッパイを連呼している。
ありゃダメだな。
「5秒やる、ソイツを離さなければソイツごと魔弾を撃ち込む」
「フン!たかが魔弾ごときでこの私が臆するとでも思っているのかしら?」
「5、4」発射!発射!発射!
『キュキュキュンッ!ドガガガッ!』
カウントの途中で撃ち出した魔弾は、童貞の展開した障壁に弾かれ、逸れた魔弾が豪奢な馬車に穴を空けた。
「あっぶなっ! テメー、コラ!」
「アナタ! 5秒経ってないじゃない! それに何よ!それ!本当に魔弾!?馬鹿じゃないの!?」
いきなりカウントの途中で撃った事に、二人は酷くご立腹のようだが、おかげで童貞が正気に戻った。
「お前さ、とっととそのドリルを拘束しろよ」
「あっ……、それな!」
「ちょ、ちょっと動くと刺すわよ!」
ドリルが首に突きつけていた短剣に力を込めるが、短剣は童貞の首の皮にすら刃が通らない事に驚いた。
「ご、ごめん、へ、変な事しないから、ちょっと触るけど、本当、ちょっとだけだから、さ、触るだけだから」
はたから見たら、完全に変態である。
「い、いや、触らないでよ!この、変態っ!」
「ち、ち、違うっ!俺、俺はへへへ変態じゃないんだ!少しだけ我慢すればい、痛くしないから」
言動が完全に犯罪者のそれだ。これは人選ミスだろう。
アイツ、自分から襲撃チームに名乗りを上げたから連れてきたのに。
「あのさ、とりあえずお前のとこのメイド死にそうなんだけど、大丈夫?」
「卑怯よ!婦女子を人質に取るなんて!異世界人でしょ、アナタ達!恥ずかしいとは思わないの!?」
「全然」「特には」
確かに卑怯なのかもしれんが、俺には関係ない。童貞もそこら辺は結構ドライだ。
「それが神に召喚された人間のすること!?日本人の矜持ってもんがアンタ達にはないわけ?」
「お前が何で日本人の事を知ってるかは知らんが、大人しく従えば、二人とも命だけは助けてやる。これ以上、俺達に手間をかけさせるつもりなら、メイドを殺してお前の手足の骨を粉々にして攫う」
「私をどうするつもり……?」
「用があるのはお前のパパだ。パパ次第だが、権力大好きなお前のパパが、皇太子の婚約者である自分の娘を見捨てたりはしないだろ?」
「クッ……」
童貞に顎で促すと、簡易手錠で腕を縛り、顔を袋で覆うと軽トラの助手席に乗せた。
俺もメイドを縛り、ポーションを飲ませて荷台に転がす。
「よっしゃ、出発だ!
「何が、レクサスよ!ただのハイゼッ○じゃないコレ!」
「お、女の子と初ドライブなんて、き、緊張するなぁ。あっ、シーベルト締めるけど、ごめんね?」
「変なとこ触んないでよ!変態!」
まぁ、腕を縛ってたり、目隠しの袋を被せてるのに目をつぶれば、女の子とドライブデートに見えなくもない。ような気がしないでもない。
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