第192話 敗北
「やりよったな?お前!なんだよその馬鹿みたいな威力の魔弾は!ワハハハ!」
完璧に捉えたはずの魔弾は、爺さんの背後の壁を吹き飛ばしただけに終わった。
「フン!」
大振りのフックと見せかけて、空中でハンドアックスをアイテムボックスから取り出して、爺さんの頭を狙う。
確実に頭を捉えるはずだった手斧が『ブォン』と空を切った。
魔弾の時もそうだったが、ジジイに当たる直前で空間が歪み攻撃が当たらない。
ダメ元で手斧を振り切った体勢から胴回し蹴りを放ったが、顔の真横を踵が捉えると『ドンッ!!』と今度はまるでコンクリートの分厚い壁でも蹴ったかの様な感触が返ってきた。
左足イッテェェェェ!
すぐに距離を取ると、俺がいた位置の大理石の床がスプーンでアイスをすくったように綺麗にえぐり取られていた。
アレはちょっと危ないな。
それにしても、魔弾とハンドアックスを空間を歪めて躱されたのを蹴りは魔力障壁で防がれた?
「何だ今の蹴りは!?お前、本当に魔法使いかよ!凄いなお前!」
空間を操作するのが奇襲に対応出来なかったのか?
ありうるな。
両肩のハードポイント魔法陣から12.7mm曳光弾のフルオートで射撃しながら接近。
魔弾は空間の歪みに吸い込まれるようにジジイを透過する。右のストレートはフェイント。からのローキックもかわされるが、振り切ると同時に鳩尾に渾身の跳び後ろ蹴り。
『ドゴンッ!!』とまたもやこれも障壁に阻まれたが、パキパキッと障壁に亀裂が入った。
「危な!なぁ、無視するなよ、異世界人。せっかく褒めてやったのに、礼くらい言えんのか?お前は」
「ジジイ、礼が欲しけりゃくれてやるよ。そのニヤケ面にな」
「無理だろうなぁ、今のお前じゃ。しかし、この大魔導師シコルスキー様の障壁に肉弾戦でヒビを入れた人間など初めてだ。褒美にいいモン見せてやろう」
ジジイのニヤケ面を少しだけ引き攣らせてやったのは胸がすく。
「我が魔導のなんたるかを少しだけな」
ジジイがおもむろ指を鳴らした瞬間だった。
『ドドドドドォォオオオン』
「がぁっ!!」
俺の頭を何度も、何度も、衝撃波が襲ってくる。
意識も感覚も全てが真っ白にされた。
「ハハハハ!凄いな、お前!ソレをくらってまだ立ってられるのか!?なぁ!それは魔力防御なのか?爆破に合わせて反応させたな!何だそれ!今まで見た事ないぞ!」
意識が朦朧として立っているのがやっとの俺に興奮気味のジジイがあれこれ言ってる気がするが、まるで伝わってこない。
(ああ、思考が追いつかないんだ)
視界は歪んで血まで滲んでいる。コレはヤバいやつ。
(口の中も血の味がするし、鼻血も滴れてるな……)
叫びながら駆けてくるツェツィーリアに抱きつくと同時に意識が飛んだ。
「どうだ?気分は?シコルスキー様の魔術は格別だったろう!」
ドヤ顔で勝ち誇るジジイに殺意が湧く。
「ジジイ……次は殺す……。ゔっあ゛」
脳を激しく揺らされ、酷い痛みと経験した事のない不快感に襲われた。
威力を最小限に抑えて炎も伴わない、爆轟とは呼べないような代物でアレだ。
俺以外には周囲に被害も出ていない。
完全なる敗北。
チーレム無双に一歩近づいたとか調子こいてたらこのざまだ。
しかも、女の目の前で。
自分が最強だとは思ってなかったが、こんなに相手との差があるとは思っていなかった。
逆に清々しいまである。
だが、手応えもまた掴んだと言っていい。
"最強"を
「お前の魔弾、破裂させてたな?あんなんじゃ仮に当たっても俺はヤレないぞ?色々足りてないんだよ、お前」
このジジイ、障壁を破壊されかけてちょっと焦ってたクセに。
「ゔぁ、ぁ、こちとら、魔法の初心者、なんだよ……ジジイのような、化物と、一緒に、するなよ」
「う、動かないでください!まだ、じっとしててください!」
膝に俺の頭を乗せ、両手で挟むように治癒魔法を行なっているツェツィーリアに怒られた。
淡く光るその手に自分の手を重ねる。
「すまんな」
「いえ、その、もう少しだけお待ちください……」
頬を赤く染め、すこしだけ恥ずかしそうに唇を噛む仕草が可愛くて見惚れていた。
「なんだ、お前達そういう関係だったのか!?青春かよ!?えぇぇ!?そこで急に二人だけの世界に入っちゃうの?」
このジジイ、いい歳こいて話しだすと何かとチャラいっつーか、なんつーか……。
「お、お、おぉぉぉまぁぁえぇぇ!何してんだよぉぉぉ!えええ!?何してくれちゃってんのぉぉお!?とどめ刺されたいのォォォ!?」
ジジイはやたら楽しそうにしているが、童貞は血涙を流してもんどり打っていた。
それにしても、さっきのは色々ヤバかった。
ジジイが爆轟の魔術を使っただろう事は分かったが、その理屈や対処方は今のところ不明だ。
ジジイの言う魔力防御とは"魔力反応装甲"だろう。初めて使ったというか、初めて反応したので俺もよく分からないが、リアクティブアーマ的な防御スキルだ。
最初期の衝撃波こそ魔力反応で相殺してくれたが、超高速で次から次へと四方八方から連続で襲ってくる衝撃波に飽和状態になり、すぐに対応しきれなくなってあっけなく破綻した。
手加減してきたという事は、ジジイは俺を殺す気はないのだろう。
ジジイが急に殺気を放つから、俺も条件反射で殺しにいってしまったが、圧倒的な強さを見せつけられた以上、ある程度はジジイに譲歩せねばなるまい。
「それで?ジジイは俺にどうして欲しいんだ?尻尾巻いて帰れば満足か?」
これ以上帝国に被害を加えるなというなら、今のところは引いてやる。
「そうだなぁ……。とりあえず、もう少し強くなってもらおうかな。お前に」
「何言ってるんです?師匠」
童貞は、「変態ジジイがまた何か言ってる」と小声で呟いてる。
「この戦闘狂をちょっと鍛えて、殺してもらう事にしよう。皇帝を」
ジジイは名案だとばかりに笑顔でそう言った。
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