第185話 帝国の逆襲②

「お前はもう、三輪車にでも乗ってろよ」


「そりゃないだろう!約束したじゃん!車売ってくれるって!」



囚われの姫(おじさん)となった俺は、帝国の魔導外輪船で、思いのほか快適な船旅を満喫していた。


船倉にでもぶち込まれるのかと思っていたが、帝国聖女ツェツィーリアちゃんの鶴の一声で、一等船室並みの個室をあてがってもらった。


勿論、完全に自由とはいかないが監視付きであれば甲板くらいなら船室からも出られる。

後、魔力制御装置なる腕輪と逃亡防止に居場所を特定できる首輪を嵌められていた。


逃亡なんて、せっかくのシチュエーションをみすみす逃すような真似しないのに。


地味〜に、生活魔法が使えないのが不便である。

魔法って偉大だなぁとつくづく思う。

灯りやタバコの火、飲み水に風呂のお湯、洗濯や掃除も全て生活魔法でまかなっていたからな。


それでも最新式の船という事もあって、魔道具等は充実しているのだと言う。

風呂はないが、温かい飯が出るのはせめてもの救いか。


永遠の童貞・オニツカが監視という名目で暇つぶしに来てくれるので、そこそこ楽しんでいる。


「車の免許持ってなかった奴に、一々運転を教えんのダリーんだよ」


アイリーンやハイランダー達には自分が楽したいが為に教えたんであって、こんな童貞に手取り足取り運転教習なんぞやってられない。


「そこをなんとか!ナンパに成功したら、友達紹介するから!」


「それなら、まぁ……」


いや、コイツに"ナンパ成功!"なんて期待できるか?

仮に成功してもだ、囚われの身で紹介されてもなぁ。


『檻の中の彼、異世界人のサカ君。コチラ、治療院助手のアンナちゃんと友達のミリーちゃんでーす!』な〜んてな。


そんなシュールなファーストインプレッションなんかある?

ラブな関係になんて発展するか?無理だろう。

囚人のオッサンにギャルが食いつくはずない。

仮に食いつく女がいたら警戒した方がいいレベル。

怪しい宗教か人身売買、詐欺を疑ってかかる。


「いや、いいわ。普通に魔石くれ。お前に期待しても無駄だ」


「なんだと!やってみないと分かんねーだろ!」


残念だけど、分かっちゃうんだなぁ。

必死すぎてガツガツしすぎ、余裕がない。

絶対モテない奴の典型的な特徴である。


コイツ、自信だけはあるけど、女を前にすると挙動がおかしくなるからなぁ……


捕虜にしたゴーレム部隊の女の子とか結構可愛いかったのに、せっかく自腹で解放してやったDTOはモノにするどころか、見事にキョドッてた。


『れ、れ、れれれ礼にはおおおおよばん!じ、じょーかんとしてとと当然——』

あれではとても無理だろうな。


「とりあえず娼館とか行ってみたら?」


「初めては、やっぱ好きな子としたいだろ?」


まぁ、気持ちは分からんでもないが、実年齢を考えるとまぁまぁキモイ。

二度目の人生も拗らせる事になりそうだ。


「それより、その腕輪してても色々できるんだな」


アイテムボックスからタバコを取り出し、ライターで火をつける。


魔法は使えないが、P交換やアイテムボックス等、コマンド操作で使用する能力や魔力を使用しないスキル系は普通に使える。


「まぁな、魔力使う系以外は割と大丈夫だな。まぁ、戦闘力はガタ落ちだけどな」


魔力関係は全て使用不可、バレットも使えないから単純に肉弾戦オンリーである。

帝国は俺を完全に無力化したと思ってるのかもしれん。

まぁ、普通の魔法使いなら魔力さえ使えなくすればただの人だからな。


「ちなみに、こんなのもあるんだが?」


取り出した一冊の本に、DTOが驚愕する。


『モテる男の最強マニュアル』 140Pポイント


「そ、そ、そそそんな物があるなら何故早く言わないんだよ!うれ、売ってくれ!いいいいくらだ!」


必死すぎて他人事ながら涙出そう……


「友人価格で20000Gでいい」

「買ったぁぁっ!」


チョロい!チョロすぎる!

コイツ、初デートでラッセ○の絵とか壺とか騙されて買う奴ぅー!


「マイド!」

まぁ、別にいいけどな。本人が納得してるなら。


そそくさと本を抱えて部屋から出て行く童貞野郎と入れ替わるように、聖女ツェツィーリアがオッサン同伴でやって来た。


「ご不自由しておりませんか?お困りの事がありましたら遠慮なくお申し付けください」


うやうやしい態度ではあるが、表情は酷く冷たいツェツィーリアちゃん。

仲間や同僚をてんこ盛りで殺してるのだからしょうがない。

そんな奴から力を与えられても心境は複雑だろう。


「君の笑顔が見たい。かな」


「……」「……ツェツィーリア様、そろそろ……」


あれ?スルースキル発動しちゃった?

せめて鼻で笑うとかくらいはしてもいいと思う。


「では、また参ります。御用があればいつでもお呼び下さいませ」


呼ぶと思う?こんなダダスベリしたのに?

そんなメンタル強くないぜ?


そんな愛想笑いもできないヤツを指名したりするほど、俺はドMじゃない。


チェンジだチェンジ!愛想とサービスの良い子を寄越しやがれ!

帝国女子には愛想っちゅうもんがないのか!

ゴーレム使いの女の子なんて、ガタガタ震えるばかりで会話もろくにできなかったしな。


帝国、地味に俺の精神を削ってくるぜ。


腹いせに、DTOに渡す車を軽トラにしてやろ。

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