第186話 帝国の逆襲③

「貴様の身柄はこのメルダース伯爵が引き継ぐ!よいな?」



内陸水運の発達した帝国内部を順調に航行し、残る帝都までの最後の河川港へと停泊した。


帝都の玄関口の一つである為そこそこ大きな街であり、なんたら侯爵家が治めているらしい。


「なんだ?このチョビヒゲ。DTの知り合い?」


ようやく上陸許可が下り、船を降りれたと思えば、私兵や衛兵で俺たちを取り囲んだ貴族らしき男の出迎え付きだった。

いつの間にか、外輪船の周りにも兵が乗った小舟が取り囲み、運河も封鎖している。


「いや、全然。まぁ、おそらくこの街の代官か官吏か何かだろうけど?」


「オイ!貴様!平民か?いやぁ?その階級章ならギリギリ騎士爵は叙勲されてるのか?"元"平民か。フン!これだから貴様ら軍人のような成り上がり貴族は!」


「なんか、メッチャ嫌なヤツっぽいからとりあえず、っとく?」


「やめとけよ、面倒だから。たまにいるんだよこういう手合いが。時代錯誤とまでは言わんが、先代の皇帝陛下が貴族の権力を大幅に低下させて久しいのに、いまだに過去の栄光にすがる人種だ」


平民と比べれば遥かに特権を有しているのは間違いないが、大昔から領地を有しているような、余程の大貴族じゃない限り、その権力は国家の政治家、官僚、軍属の高級将校の域を出ない。


帝国では、昔ながらの領主階級の貴族は数えるのみだという。


「貴様ぁ、口の利き方もしらん野良犬風情が!」


「どうした!何の騒ぎだ!」


外輪船の甲板からライヒハルト大佐が、怪訝な顔つきでこちらの様子うかがっていた。


「貴官がライヒハルト大佐か?この街の代官であるメルダース伯爵だ!我々が異世界人の身柄を預かる!負け犬はとっとと帝都に戻られよ」


「なっ!そんな勝手が許されるか!これは帝国議会の決定に基づいた任務だ、貴公こそ——」


「これは皇帝陛下からの許しを得た事である!これがその勅書だ、見よ」


ライヒハルト大佐以下軍属は、チョビヒゲが皇帝の勅書を懐から取り出した途端、直立不動の姿勢とっている。

一応DTOも、渋々だが姿勢を正していた。


「オイ、それはちょっと困るな。俺は今から高級娼館に行くんだ。チョビヒゲの相手なんぞしてる場合ではないんだ」


「囚われの身でふざけた事をぬかすな、異世界人め!貴様はこれから帝国の為に働いてもらう。手始めに、この街の為にダンジョンを踏破してもらうから、そのつもりでいろ」


「な、んだと……」


ここへきて、ダンジョンか。


ぽいな。

実に異世界っぽいじゃねーか!

まさかアレか?帝国は実は、俺に異世界テンプレを堪能してもらおうと接待してくれてるのか?

ザマァの前に前菜はダンジョンってか?


『異世界人なんか不遇しちゃうんだから!べ、別にテンプレ体験させてやってる訳じゃないんだからね!』

帝国はツンデレか。

オクトーバーフェスなんかで見れるメルヘン・セクシーな衣装のビールガールで脳内再生された。


『俺のフランクフルトをどうしたいんだ?』なんてな。

ニヤニヤしてる俺を周りの奴らは奇異な目で見てるが気にしない。

とっととダンジョン踏破して、ビールガールコスのお姉ちゃんとフランクフルトしたい。



「しかし、議会の決定が……、それに軍からはそのような命令は受けていないのだが……」


勅書にたじろぐ大佐。命令系統や指揮系統の違いか、それを無視して横槍を入れてきた連中がいるのか。


「大佐、前衛できる?」


「は?」口を半開きにマヌケ面してる大佐にダンジョンの常識を教えてやる。


「いや、だから、前衛だよ。俺、DT、聖女って魔法職ばっかじゃん?バランス悪過ぎだろ。前衛いるだろ?ダンジョン攻略パーティーには。四人パーティーはオーソドックスなタイプだろ」


「はぁ……」


察しの悪い男であるが、まぁこんな奴でも肉壁くらいにはなるだろう。


「チッ!面倒だなぁ……」とか言いながら屈伸したり肩を回したりしてるDTO。


「これも神の試練なのですね……」

聖女も冷たい表情のままだが、金属の錫杖をクルリと回転させヤル気満々だ。


「何を言ってる。貴様が一人でやるのだ!」


チョビヒゲは唾を飛ばしながらそう言った。


「「「えっ!?」」」

ダンジョンアタックにノリノリな俺たち三人は、チョビヒゲの言葉に冷水をかけられた気分だ。


「ソロかぁ……。まぁ、不遇体験としてはアリか。ちょっと行って来るから、取り敢えず腕輪外してもらっていい?」


「囚人の手枷を外すとでも?異世界人ならそれを付けてても戦えるのではないか?あぁ、魔法使いだったか?ハッハッ、それはさぞ苦労するだろうな。せいぜい帝国に仇なした報いを受けるがよい!」


「そんな!貴方達は神の御使を殺す気ですか!?教会がそんな事を黙って見過ごすなど——」

「ならば聖教会も黙認したという事では?」


「そんな……」


いつも冷たい態度のツェツィーリアちゃんであるが、ことある度に俺の事を心配してくれる。

俺に気があるのかもしれん。ビールガールコスしてくれるかな?


「それと、異世界人を殺すなど人聞きが悪い言い方はやめていただきたい。聖女様、これはあくまで正当な囚人に対する外役がいえきですぞ?」


チョビヒゲは、「まぁ、結果的に死んでしまう事はあるかもしれませんが。不幸にもね」と続けた。


なんだ、異世界人の力を欲しがっているのかと思ったが、結構気合い入れて殺しにかかってきてるのかもしれんな。


「拒否すればどうなるかわかるな?異世界人。勿論、お前に肩入れする者も帝国の反乱分子として扱うことになる」


「そうか、お前が俺の敵だという事は分かった」


「クックック、何を今更。強がりか?力を使えない異世界人等、何するものぞ!ハッハッハ!」


これは帝国が用意してくれたPボーナスタイムに違いない。

本当に帝国は接待プレイが上手だなぁ。

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