第154話 夜討ち朝駆け(前編)
夕陽に染まる麦畑は収穫の時を迎えて、町の周囲に広がる畑はその半分を残して刈り取られていた。
「オラと一緒に暮らすのは〜、アイリーン、オメェだと〜ってか?」
まぁ、ここの麦畑には恋も花咲かないがな。
なんとか陽の落ちる前に、帝国軍の駐屯する町を眺める高台に到着した。
帝国軍は町の中だけでは収まらなかったのだろう。
町を囲う土塁のような防壁の外側に、大小の天幕を数十と並べて簡易な陣地を構築している。
緩やかな煮炊きの炊煙を上げて、長閑な時間と風景は、どこか絵になる光景だ。
(ちょっと気が引けちゃうなぁ)
これから及ぶ行為によってもたらされる惨劇に、心を痛める正義の使徒である俺は夜の闇を待って準備に取り掛かった。
ガソリンの入ったドラム缶をポイントで購入しておいた。
武器類は異常にレートが高いのでPで交換しにくいが、燃料は普通……といってもそれなりに高価なんだけど、まぁ買えないほどではない。
バイクにも使うしな。
それを畑の数カ所に蓋を開けた状態で次々と横倒しに設置していった。
「敵襲!敵襲ーーッ!見張りがやられた!敵は畑の中だぁ!」
陣地に立っていた歩哨をバレットで片付けると、怪我したフリで帝国軍の陣地に紛れこんで叫ぶ。
「クソッ!本当に来たのか!」
士官風の男が着の身着のままの格好で天幕から出てきた。
「オイ、大丈夫か?敵の数は?姿は見えたのか?」
「麦畑の中に逃げて行くのは確認できたのですが……申し訳ありません」
「良い、軍曹は軍医に診てもらえ。当直部隊は私に続け!狩り出すぞ!」
見張りについていた部隊と装備を整えていた部隊を引き連れていく士官の男。
手には松明。
自然と笑みが溢れてしまうのを誤魔化すのが大変。
(上手くいってくれるか)
畑に入った兵士達が匂いに気付くだろうが、ガソリンを嗅いだ事はないだろう。
油だと気づく頃には火だるまだろうし。
そんな事を思っていたら、畑から爆炎が上がった。
引火した火が、次々と燃え広がりまさに火の海。
怒号が飛び交い、混乱に陥る帝国軍を横目に簡単に町へ潜入することができた。
町に入る際、横を通ったついでに物資集積所の中身を丸ごとアイテムボックスで持ち出しておいた。
これで町への負担が増えるだろうな。
兵士達の動きを観察し、MAPと照らし合わせて町の中央にある指揮所を割り出した。マーキングしていた青年士官もそこにいるようだった。
混乱に乗じて帝国軍の高官を数人殺害してやろうとしていたが、中にやたらと強力な魔力を持った人物がいる。
やってやれない事もないだろうが、指揮所と思われる建物の中は大勢の兵士が詰めていて、練度の高い兵士と強敵を相手にするのはちょっとリスクが高そうだ。
アイリーンと無茶はしないと約束したしな。
指揮所の建物が見下ろせる町外れの教会の鐘楼に上がり少し横になって朝を待つことにした。
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「ホラね。来たでしょ?やっぱり」
サセ湖北の村に兵を出そうとしていた参謀将校に笑顔でそう言ってやる。
「ぐ、今は、そんな事を言ってる場合ではない!」
顔を赤くして反論する士官を無視して先遣隊司令に目を向ける。
中佐は微塵の動揺もなくジッとこちらを見て、「ココを狙うかね?」とたずねてきた。
「狙ってくれると非常にありがたいんですがね。探す手間が省けます」
しかし、どうだろう?
町の外で燃えてる灯りがここからでも分かる。
爆破音とともにあがった煙と炎。
現地の被害を想像すると、この俺でさえ少しだけゾクリと冷や汗をかいた。
猟兵の少尉の報告では、『サカ』と名乗った自称冒険者の男がそのような魔法を使ったという話しは聞いてない。
あのような強力な魔法なり魔術が使えるのなら、もっと簡単に猟兵部隊を殲滅していた筈だ。
敵は複数か?
あれ程の威力があるなら、指揮所に一発ぶち込んでしまえば簡単に指揮系統を壊滅させる事ができる。と、敵は思っている筈だ。
確かに出来るだろう。俺がいなければの話しだが。
己を過信しているようなヤツならノコノコとやって来るだろう。ココには俺という帝国屈指の魔導師がいる事など知らずに。
「ここで網を張りましょう。町と周辺の捜索は外の部隊にまかせるようお願いします。あれ位であれば私一人の魔術で防げますので」
「頼りにしてる。ここを狙われて被害が出る事は避けたい」
俺の腕を最初は疑っていた先遣隊の将校達が、司令の言葉で安堵したような顔になる。
まぁ、コイツらが凡人でも貴重な帝国軍士官である。こんな侵攻作戦序盤で失うわけにはいかない。
俺がいる間くらいは守ってやらねば俺の評価にキズがつく。
朝まで待っていたが、ここはおろか他の場所でも襲撃はなかった。
単なる嫌がらせの攻撃だったか……
半分程残っていた収穫前の麦畑が焼き尽くされ、軍の糧食の一部もどさくさに紛れて消えたらしい。
忌々しいヤツめ。
今頃、ほくそ笑みながら雲を霞と逃げ失せているに違いない。
「君も少し寝たまえ」
「いえ、追撃部隊を編成して下さい。私も出ます」
司令は一瞬迷ったようだが、直ぐに手配すると、俺は一個中隊の猟兵部隊と共に町を出発した。
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ちょっと宣伝てほどではないですが、ここまで読んでくれてる読者の皆様に向けてのご案内を
小説のフォローは、ありがたい事に日々増加しております。
しかしながら、私自身のフォローはあんまり増えませんw
最近、近況ノートにサポーター限定でちょっとした物語りを書いてます。
本編には余り出て来ない転移者達の物語り的な。
今回は、本編に載せると冗長になりそうなので省いた語られてないけど、こんな事もあったよ的な話しを近況ノートに載せてみました。
ちょっとした実験と、ここまで読んでいただいた御礼的なモノです。
要は、近況ノートもたまには見に来いよ!って事です。
よろしければ見に来て下さいね?
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