第144話 釣りおじさん

サハギンの死体を収納し、せっかく設営したキャンプ地が生臭くならないように、血や肉のカケラを土に埋めたり水で洗い流す。

勿論、生活魔法でだ。チートとはこういう事だ。



静かになった湖畔で釣り糸を垂らす。

最近、ゆっくり平穏な時間を過ごすなんて暇なかったからな。とても新鮮だ。


まったりと椅子に座り、瓶入りのワインをラッパ飲みし、タバコの煙りをくゆらせる。


「釣れねぇな……」

餌にサハギンの肉片を使ってるのがダメだったのか?虫でも捕まえるか……

いっそポイントでルアーとかリール付きのロッドを買ってもいいな!


魚の気配はあるのだが、なかなか食いつかない。


しょうがない、これも経費で落とすとしよう。


シュッ、ポチャン、ジリジリジリジリジ、ジリジリ、ジリ…グッググッ!キタァァァ!

「フィーーーーシュ!!www」


30cm程のニジマス(たぶん)


やるやん!さすが文明の利器!

カーボン製ロッドとスプーン型ルアー!


その後も同じくらいのサイズのニジマスが釣れる釣れる。

スカリ(生きたまま魚を入れておく網的なモノ)の中は既に20匹は超えた。


日も沈みそうなので、そろそろお終いにするかと膝下まで水に浸かっていたのを陸に上ろうかとしたところに気配察知に感アリ!

MAPさんを確認するが、赤点ではないからサハギンではない。

強化した視力で捉えた魚影はニジマスの大物。


駄目モトで竿を振ると「ガツン!」と見事に食いついた。

リールを巻く手応えが先程とは比べ物にならない。


「パゥワァァァアア!アッアッ!」


魚も負けじと水面を跳ね針を外そうとする。


ロッドのしなりも限界に近かった。

引き上げる際あわやのところもあったが、すかさず発電でショック状態にして逃がさずに済んだ。


右手に大物ニジマス(80cmオーバー)、左手に22匹の小ぶりニジマスが入った網を持って陸に上がる。

小さいニジマスを手早く内臓とエラを抜く。

とりあえず半分くらい、塩をふり串刺しにして火の周りに刺しておく。

残りは口からエラにヒモを通して繋げて干しておく。

後で燻製にするつもりだ。


デカいニジマスは三枚に捌き、半分を切り身にし小麦粉を軽くまぶしてムニエルにする。

「グゥーーーーーッ!」


大量に業務用バターを経費で購入したついでにレモンバターソースも作る。


残りはとっておいて刺身にしたい。

アイリーンに頼んで一日冷凍してルイベかなぁと思っていたが、アイテムボックスに一度入れたら寄生虫とか弾かれるのでは?と思いつき、試してみる事にした。


「ギュウーーグルルルルゥーーー!」


「おい!さっきから腹の音凄いなお前!」


「ワッ!す、すすすすすいませんデス!バレてしまったデス!アワワワ!」


釣りの終わり頃から木の陰からコチラを覗いていたのは気付いていたが、危険は無さそうなので放置していた。

料理を始めたくらいから腹の虫がすごい鳴ってる。


「お前、北の村の子か?避難してないのか?」

「僕、村の人間じゃないよ」


「腹減ってるのか?コッチ来いよ!魚いっぱいあるから食わせてやる!」


「本当!?いいの!?僕、お金持ってないよ?」

声の感じで分かっていたが、ピョコンと出した顔はまだ幼い子供だった。


「お前みたいなガキから金なんかとらねぇよ!一人じゃ食いきれねぇから、手伝ってくれよ!」

そう言うと完全にあらわした姿に「オッ?」となった。


その子供は犬のような三角耳と尻尾が生えていたのだ。

異世界に来て初の犬系獣人だ。もしかすると狼系かも。

ちなみに一匹・二匹とは数えないらしい。

南の大陸にしかいないらしいのでコッチに来ても獣人を見る事は珍しい。

なんせ、協商連合国で初めて見たくらいだし。


そして大体は首輪付き奴隷だ。


「おじさんは村の漁師なの?魚取るの上手だね?」


「違う。冒険者だ。サハギン……サハギンって知ってるか?魚のお化けみたいな奴。それを退治しに来たんだ」


「じゃあ僕達とおんなじだね!僕達もサハギンを退治しに帝国から来たんだよ!」

やっぱり帝国軍かぁ。

首輪にそれらしい紋章がはいってるしな。

しかし、帝国軍の動きが思ったより早い。


「僕達は"せんけんたい"ってやつなんだって!その中の"せっこうりょうへいぶたい"が僕の所属なの」

なるほど、先遣隊が放った斥候部隊か。それに猟兵ときたか。何となく少数精鋭っぽいが……

しかしまぁ、それくらいなら何とかなりそうだ。


「それはご苦労だったな。北の村に仲間達がいるのか?」

この犬っ子大丈夫かな?さっきから情報ダダ漏れなんだけど。


「あっ!そうだった……湖の方の様子を見てこいって言われてたんだった……」

耳が垂れ下がって落ち込んでる。


「そうだ、お前、名前は?」

「今は『ワンコ』って呼ばれてる……お前にはそれで十分だって……」

ますます耳が垂れ下がってぺったんこだ。


「お前の仲間には俺から言ってやるから安心しろ。無理に引き留めたのは俺だって」

「いいの?」

ちょっと申し訳なさそうに上目遣いで聞いてくる。


「いいからホラ、食え!」


まずは出来上がったムニエルを出してやるが、熱くて手掴みできないで困っていた。


「フォークとナイフがあるだろう?使った事ないか?ホラ、こうやって刺して切る、食べる。うんまぁー!ホラ、カンタンだろ?」


手本を見せると、ぎごちない手つきだがなんとか口に持っていく。

パクンと一口食べた犬っコが目を見開いた。

「うんまぁーーっ!うんまぁー!」


その後もパクパクと食べ続け、結構な大きさのムニエルをペロリと平らげた。


「ホラ、コッチもそろそろいい頃だ」と串刺しの塩焼きもとってやると、フーフーしながらモリモリ食べている。


「オイシイね!おじさん!」

おじさんは余計だが、ニコニコしながら魚を頬張る姿にコチラも嬉しくなった。



しかし、そんな楽しいひと時を邪魔する連中がやって来た。


「オイっ!ワンコ!貴様、奴隷の分際でこんな所で油売りやがって!自分の立場がまだ分かってねーよーだな?ああ?」

三人の男達が姿を見せると、その中の年嵩の男がダミ声でワンコを脅す。


まぁ、体の傷や栄養状態で予想はしていたが、ワンコの日頃の扱われ方があまり良くないのがハッキリとわかった。

ワンコの怯え方は、完全に恐怖で支配されている。


とくに奴隷制度自体にとやかく言うつもりなど俺にはないが、多少の縁ができたこの獣人の子供が酷い扱いを受けているのを傍観する程、俺もクズではなかった。


「アンタがコイツの主人か?」

旅は道連れ、世は情け。袖触り合うも多少の縁。

たまには人間らしい事でもしてみようか。


「お前!人の奴隷に勝手に餌付けするんじゃねぇ!殺すぞ!」

何だコイツ?短気過ぎない?ダミ声は短気!お約束だ。


「貴様、こんな所で何してる?協商のスパイか?」

ダミ声の男の横から目つきの鋭い痩せ型の男がいきなりダイレクトアタック的な質問をしてくる。


そんな質問、「ハイ!そうです!」とか言う奴はおらんやろ。


「サハギン退治しに来た冒険者だけど?何、スパイって?」


「なぁなぁ、コイツ殺して身ぐるみ剥いで埋めちまおう」

頭の弱そうな喋り方をするデブ。


「オイオイ、凄いなアンタら!絵に描いたような『三馬鹿』だな!」


「あぁあん?んだと、コラ!」「失礼な奴め」「サカナうまそう……」などと反応する三馬鹿。


猟兵とか付いてるからてっきり敵の精鋭部隊かと思ったら、ただのゴロツキかよ。


「もう一度聞くが、コイツの、主人は、誰だ?」

馬鹿にも分かりやすく聞いてやったのに、吠え出す三馬鹿。

「テメーには関係ねーだろーが!」

「こんな所でウロチョロと怪しい奴だ、捕まえて拷問した方がいいな」

「早く食べよぉよぉ」


(とりあえず、比較的まともそうな痩せ型だけ残して殺すか……)


食べ終えた塩焼きの串を齧りながら、ぼんやりと殺しの手順を考えていた。






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んあーーーーー!盆休みぃーーーーー!

休みをください!

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