第145話 自由と責任
「こんな事して……ただでは済まないとは……考えないのか?ゴバァッ」
膝立ちした痩せた男の鳩尾を蹴り上げると、胃液を撒き散らしてのたうつ。
既に胃の中は空っぽのようだ。
「そんな御託はいいから、質問に答えろ。お前もああなりたくないだろ?」
顔の穴という穴から血を垂れ流して死んでる二つの死体は、コイツのお仲間達だ。
鋭い目つきでコチラを睨む痩せた男は、まだ心が折れていないようだ。
「お前達の任務は?数は?先遣隊の現在地、本隊の数。知ってる事を話せば助けてやる」
倒れてる男の前髪を掴んで膝立ち状態に戻す。
「くたばれ……」
ペッ!と唾を吐く男の顔を殴り飛ばす。
情報を吐いても吐かなくても殺されると分かってるのかもな。
「しょうがないなぁ。村に行けばお前の仲間がいるんだろ?ソイツらに聞くとしよう。お前はもう用無しだ」
湖畔にあった流木を両手で抱きかかえさせるように男を縛り、固定する。
「オイ!何する気だ!オイ!ワンコ!助けろ!こら!」
ワンコは恐怖でガタガタ震えている。尻尾を股の間に挟んで。
「お前も知ってると思うが、この湖、サハギンだらけなんだ。南の村は比較的安全らしいから、無事に漂着できるといいな」
流木は大人一人を浮かせるには十分なサイズだ。安心して欲しい。
「待て!ふざけるな!生きたまま食わせる気か!?」
「お前が無事に対岸に流れ着くように祈っといてやる。こう見えて神様とはちょっとした仲なんだ」
男を担いで水辺に向かう。
「やめろ!話す!話すから!北の村に50人いる!先行して占領する為だ!村人を追い出し、そこで800の先遣隊を待つのが任務だ!本隊は多分3000から5000なはずだ!俺達は正規軍じゃないんだ!見逃してくれ、頼む」
男は余程サハギンにおどり食いされたくなかったのか、急に早口で喋りだした。
まぁ、その情報の正確性はまるで当てにできないが参考にはなる。
「なるほど。残念だけどタイムオーバーだ。ああ、南村の村長に会ったらコイツを渡しといてくれ」
ズタボロのサハギンの死体も流木にくくりつける。
「馬鹿!やめろ!冗談だろ?」
そんな言葉など気にせず「あんまり騒ぐとサハギンが寄って来るぞ?」と口にくつわを噛ませて、おもいっきり、沖へと投げ込んだ。
サハギンの生態など知らんが、仲間の体液の匂いに引き寄せられたりするかもな。
無事に沖へと流れていく男に手を振ってやった。
「達者でなぁ!」と。
「おじさん、僕も殺すの?」
野営地で震えてるワンコが恐る恐る聞いてきた。
「馬鹿言うな。俺がそんな悪人に見えるか?それより、お前は奴隷から解放されたいか?それとも戻って奴隷のまま生きたいか?」
「えっ?おじさん、敵なんでしょ?」
「いいから、質問に答えろ」
一瞬ビクッとするがオドオドしながら答えた。
「僕、奴隷はいやだ。もう痛いのも、ひもじいのもいやだ!」ヒックヒックと泣きだし、「でも……首輪からは逃げられないし……僕、行くとこなんかないよ……」と蹲るように泣いていた。
「安心しろ、おじさんがお前に生きる場所を与えてやる」
なだめるように優しく声をかけると、『ストライカーカスタム』モードになる。
「絶対に外れないよ」と言うワンコの金属製の首輪の隙間に両手の指二本を差し込む。
魔力を纏い、身体強化も全開。
「オォォラっ!パワァァァァァァーー!」
パキパキッと、首輪表面の魔術的なナニかに亀裂が入り、「アッ!アッ!」バキン!と継ぎ目から折れたので外してやる。
「へっ?お、お、おじさん?」
「フゥ!無駄に頑丈だったなこの首輪。まっ、俺にかかれば、ざっとこんなモンよ!」
奴隷を縛る為の首輪を魔力と馬鹿力で外した俺を引き攣った顔でみているワンコ。
「コレでお前は、晴れて自由の身だ。自由とは責任が伴う。しかし!
「いいの?僕、獣人だよ?」
「大丈夫。むしろ、需要はある……。まぁ、いい。今日はもう遅いから寝ろ」
毛布を渡し、テントの中で寝るように促す。
「需要?」と不思議そうな顔するワンコだった。
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