第118話 寄り道

大街道を逸れて移動したおかげで、国境に集結中だという協商連合の正規部隊と接触せずに済んだ。


ニアミスはあったが、MAPのおかげで発見される前に車両を収納し身を潜めてやり過ごすことができた。


多少時間を食ったが許容範囲だろう。

予定では大街道を爆走して1・2時間で到着の予定だったのだが。


狐が後ろ暗いお仕事で使用するというルートで東最大の都市を目指したのだが、街道とは違い道の状態はあまり良いとはいえなかった。


それでも普通では2日がかりの裏道を一晩を野営で過ごし、翌朝には街に到着する事ができたのは高機動車のおかげだ。

勿論、余計な騒ぎを起こさないよう街の近くからは徒歩で移動だ。


「お前ら冒険者か?怪我人がいるな、今なら教会も空いてるだろう。急いでやれ」

門衛の兵士は担架に乗せた優男を怪我人と騙されてくれたようだ。

いや、優男が怪我人なのは本当だったな。

勿論、街で騒げば真っ先に殺すと念を押してある。

電気ビリビリの刑からすっかり大人しくなったようで、躾けの成果とも言える。


野営地の周辺で狩った馬鹿デカイ芋虫を3匹をシート状の簡易なソリに包み、引っ張ってというより引きずって運び、冒険者パーティを装ったのだが上手くいったようだ。


「中々のサイズじゃないか。うちの嫁さんの大好物なんだ。下ろし先はギルドかい?」

聞いてはいたがこの猪サイズの芋虫を好んで食う奴がいるらしい。


俺はノーサンキューだ

3日以上飲まず食わずという状況にでもならない限りは……

そりゃ虫は、特に幼虫系はエネルギー的にいえば優秀であるのは知ってるからな。

味を一言で表現するとすれば、『クリミーでマイルドなゲロ』だ。


門衛らとそんな挨拶と会話をそこそこに街に入り、宿確保組とギルドに情報収集組に別れて行動する。


モーリッツとその護衛のラッドにハイランダー四人を付けて宿を取らせることにし、俺とアイリーンはギルド。


残りのハイランダー達は狐の護衛の仕事柄、この街に詳しいと言うのでそれぞれの行きつけの酒場や娼館など散って強硬派の動きを探ってもらう事にした。


「この街には人質は居ないのだろう?寄り道なんぞしててもよいのか?」


ギルドの酒場で安いワインと魚のフリッターをつまんでいると、珍しくアイリーンが少し含む言い方で問いかけてきた。


「心配するな、あちらは人質を害する事はないさ。それに、これはタダの寄り道じゃない」


まぁ、アイリーンにとっては不可解かもしれんが俺だってそういつも行き当たりばったりで行動してるわけじゃないのだ。


この街に来たのには、ちゃーんと理由があった。


カウベルを鳴らしながらスウィングドアが開く。

冒険者にしては貧相な体格だが、そこそこ立派な魔法使い風の格好の男が現れた。


その懐かしい平たい顔の若者に声をかけて手を振ってやった。


「おい!童貞!久しぶりだな!」


「あ〜〜っ!テメェ!なんでこんな所に!?」

今回の事でコイツが西にいる事を思い出し、MAPさんに位置を割り出してもらったら意外と近くにいたので、本人には内緒で顔を見に来たのだ。


「つーか!童貞じゃねーし!来るなら連絡くらいしろっつーの!つーか、良くココに居るってわかったな!サウザランドから来たんだよな?つーか、良く国境越えて来られたな!」


「つーか、つーかうるせぇ!デケェ声で国境越えの話しなんかするんじゃねぇよ。このボケが!」

パカンと頭をはたく。


「イテッ!そうやって直ぐ叩くのやめろ。……でも、こんな時にこうやって迎えに来てくれたんだな……。グスッ……やっぱ、仲間って良いよな!」

涙ぐむミルフになんとも言えない俺達。


多分、盛大に勘違いしてるミルフを非常に珍しく、アイリーンはとても可哀想な目で見ていた。


「感動しているとこ悪いが、お前を迎えにわざわざ来たわけではない。仕事だ。お前に会いに来たのはついでだ」


「え?……またまた、つーか、そんな恥ずかしがる事ないだろ?……え?つーか、マジ?」


アイリーンの悲哀の表情に気づいたのか、ようやく察したようだ。


「マジかよ!つーか、俺の感動を返せ!このヤロー!」

騒ぐミルフを泡を吹かせ、物理的に黙らせるのに約2秒。


コイツ、異世界に来て本当にちゃんとレベリングしてたのか?


この下僕3号の、あまりのヘナチョコ加減に溜息をつく俺と、俺の行動に溜息をつくアイリーンであった。

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