第117話 軍靴の足音 side連合

「将軍、急報です!集結中の部隊からの報告によると、国境検問所の警備隊は全滅との事!敵の正体は不明!」


「っ!集結部隊には引き続き厳戒態勢で待機。哨戒は密にするよう伝えろ!」


ハト派の中心人物であるハルステッド評議員よりもたらされた『ブリスク辺境領軍による報復攻撃』の可能性。


それに対処する為に、連合各地から抽出編成された部隊からの報告は最悪の結果だった。

警備隊の全滅、敵部隊捕捉できず。


政治屋の糞共が考えなしにお隣りの玄関口であるブリスク商業都市にちょっかいを出した。

いつもの事ながら最後に尻を拭くのは我々軍人だ。


想像より相手の動きが早い。

軍を動かすには、それなりの時間と結構な金と物資が必要だ。


あちらはそれなりに準備が整っていたにしても、予兆があれば公的諜報機関の領事館や潜伏させてある草(スパイ)からの報告があったはず。

あの都市には情報提供者も多い。


そしてなにより行動が不可解である。


国境守備隊3個小隊を壊滅させた部隊は何処に?

国境を占拠する事もなく、またコチラに和解案の提示や賠償の要求をする事なく守備兵をただ皆殺しにしてその場を立ち去った。


各地から国境に集結中だった部隊の目を掻い潜って国内に侵攻できるとは思えない。


既に本拠地に戻った?

領主貴族の報復にしては甘過ぎる。

隠密裏に行動を行える強力な少数精鋭部隊……

そこまでの部隊を辺境伯が保有しているのか?

もしそうであるなら、我が国の自慢の諜報機関とやらは無能中の無能である。


「傭兵ギルドに向かう。用意しろ」

ともかく更なる報復に備えておく必要がある。



————————


「しかし、敵の姿がまるで見えてこないな。敵は死体すら出してないか綺麗に片付けたかだが……このタイミングだ、ブリスクからの報復攻撃なのは馬鹿でも分かる事だ。それを隠す意図はなんだ?」


お隣りの報復に対抗する為に抽出部隊の指揮を任されやってきた国境検問所は、戦闘跡というより虐殺現場の様相を呈していた。


「いくら我が国の兵士が弱小とはいえ、ここまで一方的に惨殺されるとは……。余程の大軍……であればその前に伝令を送るなり、もっと情報が送れたはずですしね」

経験豊富な副官も現場の異常に頭を傾げる。


「ああ、魔導通信では『敵襲』を最後に連絡を断ったようだ。となると、少数精鋭部隊。それも、おそらく民間人を装っての襲撃か……」

現在の状況から分かったのは、敵は恐ろしいまでの手練れであるという事だ。


自軍の兵士だけの死体の山。

凶暴な嵐の如く振われた剣であったはず、手足を飛ばされ首を失った死体。


この全身に穴の空いた死体なんぞ、どうやってこさえたのだろうか。


傭兵時代から軍に移籍した後に至るまで、それなりに経験を積んだ私と副官もこんな死体は初めてだ。


この場から逃亡を企てたであろう兵士の亡骸も散見されるが、皆一様に穴が空けられ、頭部など一部は破裂していた。


弓矢、若しくはそれに似た兵器か魔法

ただ、私の知るそれらよりも恐ろしい勢いで射出されているのは間違いない。


これだけの数だ、矢の回収をしたとは思えない。

『火矢』などの魔術ならばその痕跡も分かりやすいのだが……

考えても分からない事に割く時間はない。


「各隊、斥候を出させろ。僅かな兆候も見逃す事なく報告させるように」


指揮官として部隊の集結が完了するまでに現場を片付け、兵士達を動揺させないように注意しなければならない。

依然、主任務であるブリスクからの攻撃を警戒する必要があるのだ。




——————————


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