第96話 死の商人②
商会の敷地に入ると倉庫のある一角に案内された。
ここから二、三日の距離である目的地の村には到底必要とされないであろう武器の山を指して「アレが運んで欲しい荷物だ」と宣った。
それなりに利用するつもりなんだろう。
こんな所で襲うほど馬鹿じゃないらしい。
「どうだろう?幾らで運んでくれるか決まったかい?ウチとしては「金貨200枚だな」……おい、兄さんそりゃちょっと吹っかけすぎじゃないのか?」
ヘラヘラしていた狐顔の商人の顔が変わる。
「アンタらの商売に口を出すつもりはないが、この大量の武器を街から運び出す為に俺を雇ったんだろ?下手に官憲にでも知られるとちょっとマズそうだもんな。リスクを犯すなら、それなりの報酬は頂かないとな」
ゴリラ男と鶏野郎は気色ばむが、狐顔は糸目を開いて笑顔になる。
「そうきたか、アンタ中々言うじゃないか!ただ、ちょっと欲出し過ぎだな。100枚で手を打っとけ」
笑顔を消して凄んできたが、「150枚。これ以上下げようとするなら他をあたれ」と伝える。
「……いいだろう。ただし今から出発だ。必要な物はウチで準備する」
密告防止のつもりだろう。
暇な俺にとってはありがたい話しだ。
「決まりだな。よろしく頼む」
ハメられてやったぞ?せいぜい楽しませて欲しい。
右手を出して握手する
「思い切りのいい奴は嫌いじゃない」
嫌らしい笑顔の狐顔の商人はどうやら俺を丸め込んだと思ってるらしい。
荷物をアイテムボックスに収納すると長剣100本、直槍200本、短槍50本、弓50張、弩20挺。
戦争でもする気かよ、コイツらのクライアントは。
こんだけの量の武器を無許可で流通させるほどこの世界の統治者達は甘くない。はず。
これを最終的にどこに持って行くのかは気になる所だが、はたして……
商会の準備に小一時間ほどかかったが、昼には商会を出発することができ、宿に預けてあるマンゴー号を引き取り街を出た。
————————
ギルドの職員や冒険者くずれ達の話しを聞く限り、チョロいだろうなと思っていたが、思ってたよりも更にチョロいヤツだった。と、言うよりもコチラ側により近い人間だったと言う方が正しいか。
法や秩序、倫理を重んじる事はなく、金で大概の事はやる人間だ。
女を誑かして稼いでる使徒が清貧なわけがない。
あの大司教と同じ穴のムジナというわけだ。
コチラの"商品"を見て吹っ掛けてくる辺り、オツムも空っぽではないらしい。
これなら利益を見せてやれば御するのは、馬鹿を相手にするよりもよほど簡単だ。
最終的には身柄を本国に売り渡せば、俺はこんなクソ田舎の支店長どころか本店の幹部の椅子が用意される事は間違いない。
あの
「関わった冒険者らに痛い目に遭わせろ」だと。
馬鹿かよ!そんな1
一応輸送に関わった冒険者を洗うと面白そうなヤツを見つけた。
『氷の魔女』や『聖女』様をたらし込んで粋がってるGランクの底辺冒険者兼使徒
それがこの男だ。
そしてアイテムボックス持ちである事もわかった。
痛い目に遭わせる?ほんと馬鹿かよ!
利用するだろ?普通。
更に異世界人ときた!
売るだろ?普通。
もうすでに密輸の片棒を担がせてやったのだ。
逃げはするまい。
商隊護衛は選りすぐりの傭兵達だ、逃げ出せるはずがない。
暢気な顔で歌を口ずさんでるのも今の内だぜ。
「くっくっくっ、笑いが止まらねぇとはこの事だ」
コイツには、このギリー様の踏み台になってもらうとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます