第90話 初遭遇と魔法少女 後編

「よいしょ〜!」ドスッ


「ハイもう一丁!」


「どっこいしょ〜!」ドスン


「ハイ、ラストー!」


「どんすこいっ!」ドガッ


なんだよwwwドンスコイってwww

ロシアの艦艇にあったな。ドミトリー・ドンスコイ

多分人名から取ったんだろうな。

そんな事はどうでもいい


「いいねユウちゃん!もしかして、ユウちゃんは天才かな?」

「もう、それは褒め過ぎっ!」


レベルを上げたいと言う親子2人の希望により、翌日からユウちゃんと教団の訓練所で仲良く楽しくメイスを振る訓練を開始した。


姫凛プリン

ああ、ヤヤハゲね。そこら辺に転がってない?


ブロリー騎士団長にしごかれて、絶賛気絶中!


「マリアンヌ。回復してやってくれ」

姫凛は聖女の回復魔法奇跡で起き上がると、ブロリーに掴み上げられて無理矢理訓練を再開させられていた。


「パパ大丈夫かな?」と不安そうな顔で父親を気遣うユウちゃん。天使かな?


「大丈夫だよ、パパは男だ。それに多少の怪我はあの聖女のお姉さんが直ぐに回復してくれるよ」


最初、聖女の回復魔法を初めて見たユウちゃんは、それはもう大興奮だった。


「パパ!魔法だよ!すごいよ!あーん、ユウも早く魔法使いた〜い!」

と、半殺しにあった父親の心配などそっちのけで魔法に食い付いていた。


「そうだね。聖女様って凄いよね〜、魔法も凄いしあのオッパイももっと凄いもん!」


「あ、あぁ、そうだね。よし、ユウちゃん、練習続けるよー」小学5年生相手にコメントに困る。


ふぅ少し焦ったが、「ドンスコイ!」と続けるユウちゃんの振りをみながらゴブリンか角ウサギの頭を狙えばイケるかもなぁと考えていた。



「えぇ!今からですか!?」

姫凛プリンが驚くのも無理はない。

朝飯の途中に、とりあえず手っ取り早くレベル上げた方が今後の身の振り方を決めやすいだろうと思っての、完全なる思い付き発言なのだから。


昨日の訓練を見て思った。

「トドメくらいなら刺せんだろ?」と

後は覚悟の問題だと。


「大丈夫だ、ユウちゃんには安心安全完全サポートで俺が付く。姫凛パパは頑張れ。いざとなったら回復はしてやる」

魔物とはいえ、ゴブリンなら小学生の高学年か中学生程度の膂力しか無い。多分


大人が本気でやれば負けないはず。


皮の胴鎧と籠手に脛当て、念の為に頭だけは金属製の兜を被せる事にした。


二人を教団の馬車に乗せて初心者冒険者の狩場へと向かう。

俺は久しぶりにマンゴーに騎乗しての移動だ。

最近まで都市戦闘ばかりだったからか、俺もマンゴーも自然を思いっきり堪能しながら草原を駆った。


馬車に近寄ると、「ブラちゃんだけズル〜い!ユウも乗馬してみた〜い!」と頬を膨らませていた。

あらカワイイ!

ほんのりとあざとさがあるのも、またヨシ!


「それじゃあ、帰りは一緒に乗ろうかねー」


「本当!?パパ!いいよね!乗っても!」

そのキラキラした目をみて期待を裏切る真似が誰ができようか。


「あ、あぁ、いいとも」

緊張のせいか馬車の乗り心地のせいかは分からないが青い顔のプリンパパ。

初めは聖女の揺れるオッパイに目を奪われて鼻の下を伸ばしていたくせに。


小一時間で目的地付近に到着した。


早速MAPで角ウサギを捕捉したが、今日の目標はゴブリンだ。

キョロキョロと辺りを怯えるように警戒するプリンパパと半ば遠足気分のユウちゃん。


「ユウちゃん、こんな所でも魔物や魔獣はいるんだよ。だから、しっかりと周りを警戒するんだ」

敵をいち早く捕捉する。戦闘の基本である。

これができなければ話しにならない。

警戒を怠れば死ぬ


「そうだった!ごめんなさい。ムムム」

素直に周りの警戒を始めるユウちゃん。


「ちょっとだけ待ってて」

森の中にゴブリンを捕捉したので親子二人と聖女、騎士団長以下護衛の騎士5名に待機してもらう。


棍棒を持ったゴブリンの手から武器を奪い、首根っこを掴んで捕獲し戻った。


ジタバタ暴れるゴブリンの首を握り潰さないように慎重に持って帰ってきた俺を全員が変なものを見るような目で見る。


「どうだ?活きがいいだろ?」と自慢するように見せたが反応は良くない。


「あれ?ちょっと小振りだった?初心者にはちょうどいいと思ったんだけど」


「キモーイ!なんか超キモイ!」

ガーン!あまりのショックにゴブリンを縊り殺すとこだった。

世のパパ達が娘に嫌われてしまう悲しみをこうして味わう事になるとは!


「そ、それじゃあ姫凛さん構えて。いくよ!」

右手のゴブリンをプリンパパの手前に放り投げる。


「えっ! あ、ちょっと! いや、待って! うわぁ!」

手槍を何とか構えるが突きが当たらず組みつかれてしまう。

更に押し倒され必死に防御しようとした前腕を噛まれてる。


「イッタァー! か、噛まれてる! たっ、ねぇ! 助け、助けてぇー!」

これには、騎士団一行も苦笑い。

着けてる防具はゴブリンの歯程度なら貫通される事はまずない。圧迫自体はされるだろうが。


「ねぇ、アレ大丈夫?助けた方がいのかな?」

ユウちゃん的にも助けるかどうか判断に困るといった泥試合を繰り広げるプリンパパ。


しょうがないので組み敷かれたプリンパパに近寄ると「あんた、本気で娘を守る気があんのか?また娘があんな目にあっても、更にひどい目に遭ってもいいのか?それでも仕方ないと言うのなら、いつまでもそうしていろ」と言ってその場を離れる。


戦闘中のプリンパパのすぐ側まで行って、何もせずに戻って来た俺をユウちゃんは不思議そうな顔でみていた。


「ぅうおおおおおぅ!お、俺だってな!やれるんだ!む、娘を守るんだぁ!」

別にユウちゃんはピンチでもなんでもないんだが

先日までの境遇を思い返したのだろう。

これから起こり得る悲劇を想像したのだろう。


プリンパパは雄叫びを上げながらゴブリンを突き飛ばすと反対に馬乗りになってメチャクチャに拳を叩きつけていた。


ズブズブと煙になるゴブリンに慌てて立ち上がると

「ハハ、ハハ、ハハハハハハ!ホラ、や、やってやったぜ、ホラな」と、消えていくゴブリンを指差しながら俺に言う。


「よくやった!アンタはよくやったよ」

多少のショックはあるようだが多分大丈夫だろう。


「パパ、えらいね。パパ凄いよ!」

プリンパパを褒めるユウちゃん。

俺も褒めてもらいたい。いくら出せばいい?


「ユウも頑張るから!パパ見てて!」

そう言って振り返って俺を見ると頷いた。


獲物持って来いと?


「ユウちゃんはウサギにしとく?犬くらいにデカイけど」


「うううん!ゴブリンでいい!でも、アレ使ってもイイ?」かぶりを振るがアレを所望された。


「『ちょっ、まてよ!』アレ?似てない?おかしいな……ちょっとだけ待ってて!」渾身のキムタクを「はぁ?」みたいな顔された俺は、再びゴブリンを捕獲して戻ってきた。


ついにアレの出番かぁ。

昨日考えたばっかりだけど。


ブロリー騎士団長にゴブリンを押さえておいてもらい、二人で準備する。

「「フュージョン!!」」ロープでユウちゃんを抱っこしたまま結束。


これ、前振りいる?


合体!エンジェル、ユウレンジャー!

説明しよう!そう、ただの二人羽織後ろ隠さないバージョンだ。


俺の身体能力で機動し、俺のストッピングパワーでもって敵を半無力化したら止めをユウちゃんが刺すという、非常に合理的かつ安全確実に敵を屠るという凄技だ!

見る人によっては通報されかねない諸刃の刃でもある。


「行くよ!ゴブリン!パパの仇をとってやる!」

パパはまだ死んで無いよユウちゃん……


ブロリーがゴブリンを突き放すと、ゴブリンは俺達を前に困惑しているようだ。


「隙あり!エンジェルキーック!」

ボキッと足をへし折ると崩れ落ちるゴブリン!


これ以上ないほど絶好の位置に頭が下がる。


「今だ!ユウちゃん!必殺!」「ドンスコイ!」

グシャっと後頭部をメイスが砕く。



ピクリともしないゴブリンが崩れるとユウちゃんが「あっ!きたかも!」と声を上げる。


教えた通り「コマンド!」と言って確認している間にロープを解く。


「ブラちゃん、分かったよ。ユウね聖騎士パラディンだって!超カッコイイよね!」

よかった、ユウちゃんが自分の職業ジョブを気に入ってくれて。


「あっ!パパは?ねぇ!パパは何だった?」

「……魔法……ょ」

「え?パパ聞こえない!」

「魔法…少女。パパは『魔法少女』だったよユウちゃん……」

え?

え?www



俺は心底「まほうつかい改でよかった!」と神に感謝した。

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