第63話 使徒と従士 閑話
私が飛ばされたそこは砂漠地帯だった。
いえ、正確には私達だ……
「サナちゃん?ココ、どこだろ?」
「……」
「岩と砂だらけね。まいったわね、もう……」
そう、異世界転移
漫画や小説、はたまた映画の想像世界でなら楽しんでいられたのだろうが……
それもよりによって砂漠地帯……砂原とゆうか岩石に岩山、申し訳程度の植物しかない見知らぬ国どころか知らない世界。
過酷な環境である事は馬鹿でも理解できた。
不幸中の幸いなのは一人ではなかった事。
「とにかく……人か町をさがしましょ……」
ペリカちゃんさんはそう言って、どこをどう探せばいいのかは分かっていないようだった。
慌てる事はない、なんとかなる、何とかするしかない。
「パニックになりそうな時ほど冷静なれ。慌てて事態が好転する事なんかない」、「ピンチに陥った時ほど笑え、スリルとピンチは楽しむもんだ」と我が主のブラ珍さんは言ってた。
言うのは簡単だと鼻で笑ってしまいそうな台詞も、あの人だったら本当にそうするんだろうなと感じた。
「もう歳も歳だし、俺はピンチなんか御免だけどね」と笑ってた。
私は昔から変わった子、変な子として周りに認識されていた。
高校に入って2年に上がってクラスが変わってからだった……私に対するイジメが始まった。
何が楽しくて、あのように人に構うのか理解に苦しんだ。
嫌いなら関わらなければいいのに、私のように。
特別、学校になんか思い入れや興味など無かった私は直ぐに不登校になった。
親は将来の進路の心配をしたが、大学に入るのに高校卒業は別の方法でも何とかなると父が母を説得する形で落ち着いた。
獣医師になりたいと思っていた。
その為に勉強だけは頑張ってた。
人との関わりを蔑ろにしてた報いなの?
学校に行かなくなって時間が空くとゲームをやるようになった。
誰も私を知らない世界で私は、言い知れない安心感を覚えた。
たかがゲームだと……
いくらでもリセットできると……
人とのコミュニケーションなどインターネットを介すとちょっと変でも気にしない人が多い。
適当に入ったクランが別の大手クランと何をトチ狂ったのか揉めに揉めて戦争になった。
圧倒的だった。ここでも、この世界でも私は弱者として虐げられるのかと思うと、怒りが込み上げた。
所詮ゲームだとあの時の私は思えなかった。
現実の理不尽に世の中の理不尽に抗うようにゲームの世界で私は抗った。
敵方の人間から全チャで名指しのチャットがきた。
『頑張れ!』『負けるな!』と
最初は馬鹿にしてるのだと思った。
こんな状況で圧倒的な立場にいる敵からの煽りだと思った。
『違う、そこは右だ。予備戦力で対抗しろ』
『搦手からくるぞ!迎撃準備!』
敵の筈なのに的確なアドバイスが飛んでくる。
最初は罠かと思ったが、自分のクランメンバーからめちゃくちゃ罵倒されながらもアドバイスしてきた。
しまいには、『なんだよw敵は手強い方が面白いだろ?ウチには嬲るのが好きな腰抜けのクソしかいねーのかよ!www』
と味方を煽るしまつ。
彼?は大丈夫なのだろうか?と、こっちが心配になった。
敵の盟主が最終的に出てきて彼を諌めていたが、ブラ珍とモブ太は最後まで味方を煽り私達の戦闘にアドバイスをくれた。
当然、クラン戦はボロ負けしたがスッキリした気分だった。
世の中あんな馬鹿がいるんだなと思うと、久しぶりに笑いが込み上げてきた。
クランは解散は免れたものの、盟主以下幹部は除名となり実質上の解散だった。
あの二人は大丈夫だったのだろうか?私は連絡を取ってみる事にした。
なんの因果か、即日あのトップクラン『旭日同盟』に加入することになり、更にブラ珍さんが幹部になると従士に志願した。
彼は突然、突拍子もない事を言い出したり、やったりする変人だがたまにまともな事も言う。
時々「いい事言ったろ?パクリなんだぜwww」とおどけながら、まぁまぁ的確なアドバイスをくれた。
ある時、悩みを打ち明けると…
「死んでなければ何とかなるから大丈夫!」と言われた。
「そりゃ、そうかもしれないけど…」と答えるしかないだろう。確かにその通りだし。
それでも女の子の相談に対して雑すぎでしょ…
「ふふふ」思わず思い出して笑ってしまった。
「もう、サナちゃんこんな時に笑ってるの?」
「……主を思い出した……」
「……そっか、ふふふ。変人だもんね、あの人」
「ん」コクリと返事をし、やはり笑いが込み上げる
とにかく水場を探すべきとなり比較的登りやすい高台のような岩に登ると、椰子の木が生えているのを見つけた。
そこはオアシスだった。
無我夢中だった。
助かった!そう思って水場に駆け寄ろうとした瞬間、目の前を「ヒュッ」と何かがかすめた。
何かが飛んできた方を向くと弓を構えた数人が岩影から出てきた。
更に弓を射る……
しかし標的は私達ではなかった。
「サナちゃん大丈夫?……アレ……ワニ?」
彼らは水際の茂みに潜んでいたワニから助けてくれたのだ。
気がつけば周りに馬やロバ、ラクダまでいる。
「アンタら……やっぱり、本当だったのか。……俺達は部族の戦士だ。神のお告げとやらを聞いた巫女に言われてアンタらを迎えに来た。黒髪の使徒と従士の娘……だろ?」
こんな濃い顔の外国人の言葉が普通に聞き取れる違和感がハンパなかった。
近づく男の前にペリカちゃんさんが私を庇うように立つ。
「助けてくれてありがとうございます。ですが、見ず知らずの方に迎えに来たと言われても……」
「あーあーあー、確かに確かに。でも大丈夫!アンタらが使徒であるって事が何故分かり、こんな所に迎えに来たのか、それは、神の意思だから!神の意思に反するような人間に俺が見える?ん?」
正直に胡散臭いと言いてやろうかと思ったが、
「お前はどう見ても胡散臭い人間だろうが!」
馬に乗った一人から、顔は隠していたが女性の声がした。周りの人間も笑いながら同調している。
「大変失礼しました、使徒様、従士殿。砂漠の虎ハキムが娘、メデルと申します。此度は使徒様方のお迎えの任を族長と巫女様より仰せつかりました」
女性は顔の布を下げ恭しく礼を取った。
同じ女からみても息を呑む程の褐色美人だ。
メデルさん達と共に部族の住む土地で歓迎を受けた私たちは、上げ膳据え膳の生活に困惑した。
「中つ国……ミッドガルドへは、急ぎキャラバンを編成するべく部族間の会議で協議中ゆえ、それまでは恐縮ではありますがこの
砂漠の町だともっと簡素な家や建物ばかりだと思ったが、思いの他綺麗な建物ばかりで日本の家よりお金も手間もかかってるんじゃないのかと思う程だった。
幾何学模様が偏執なまでに施された町や建物。
食器や家具に至るまでだ。
「何となくだけどトルコとかモロッコみたいで素敵よねー」と、ペリカちゃんさんは言ってた。
とにかく何とかなった。とりあえずは。
後は力とやらを目覚めさせれば皆んなと連絡を取れる筈だ。
覚醒という厨二病を再発しかねない言葉が私の胸をときめかせる。
皆んな心配してるだろうか?ブラ珍さんはそんなにしてない気がする。
「ふふふ。我、いざ覚醒せん……」
「サナちゃん……」
いつの間にかペリカちゃんさんが後ろに立っていて、気まずい空気になったが我が主の雰囲気ブレイカー振りに比べたらなんて事はない。
「……明日早いし、寝る」
「……そうね、おやすみなさい」
私達は翌日の魔物狩りに備え早めに寝たのだった。
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