第62話 対オーガ

 最後の宿場町に投宿した。

 明日は商業都市ブリスクの防衛の為の出城・要塞がある町を目指し、明後日には目的地に到着だ。


「明日はいよいよブリスク圏内に入りますが、最後まで油断せずいきましょう」

 マルコスさんの音頭で酒と飯を始める。


 濃厚なエールと鳩の丸焼きのコンボが最高。

 マッシュポテトとニンジンの甘煮も、しっとりと少しクセのある肉とのバランスがいい。

 この宿はワインより自家製のエールが自慢のようで、ガストンが「最初は絶対にエールにしとけ」と強く薦めてくれた。


 マルコス商会の定宿であるここは他の宿より少しだけお高い宿、とは言え街道の宿場町の宿としては他よりマシってだけだが最後の一踏ん張りの英気を養うには十分過ぎる飯と寝床だった。


 然程急ぐ程の距離でもないため、朝飯も具沢山の麦がゆをゆったりといただき要塞の町へと向かった。


 街道より少し離れた森の中に魔物を示す赤色のマーカーを確認。

 今日は騎馬民族青年チコと二人で騎乗訓練がてら後方の斥候をしていた。


「チコ、あの森に魔物が居るなぁ。距離的にはこちらを捕捉してないと思うが」


「どうせゴブリンかはぐれのオークでしょ。二人でパパッとやっちゃお」と言うと、ボルグに近づき森を指して「魔物だってさ!二人で行ってくる!」と告げる。


 前回の襲撃も察知してみせたので、ボルグは片手をヒラヒラさせて"行ってこい"と合図だけだした。


 馬首を森に向け駈歩で近づくと赤マーカーが森からこちらに向かってきていた。


「向こうもこちらに気付いたようだ!もうすぐ姿が見え……」


「ブラさんオーガだ!」


 ボサボサの髪に緑の皮膚、発達した犬歯を剥き出しにし軽く2mを超すムッキムキの筋肉塊が森から飛び出した。


「本隊と合流しよう!」と、馬首を変えながらも素早く短弓に矢を番えて放つチコ。

 矢に一瞬怯んだ所を土操作で落とし穴を掘りオーガが転倒する。


 ぶっつけ本番甚だしいが、襲歩でオーガに騎馬突撃を敢行する。


『マンゴウ』は一切の怯えもなく応えてくれた。

 アイテムボックスから手槍を出し起き上がり際のオーガの首を狙ったが、慣れない騎乗戦闘のせいか鎖骨の上の僧帽筋に突き刺さる。


「———グオオオオオーーー!」

 叫ぶオーガと槍を残して襲歩のまま離脱。


 反転するとオーガは突き刺さった槍を抜こうとしていたが、試しにラプアマグナムの魔弾をその左腕を狙って射撃。

 手首と前腕に命中し、内1発はそのまま貫通して左の胸辺りに穴があいた。


 ちょっとだけ心配したオーガに対し魔弾が普通に通用する事に"それもそうか"と思い直した。


 前の世界ではオーガよりデカイ獲物すら仕留める威力があったのだから。

 異世界不思議パワーとかで魔弾がオーガの筋肉に弾かれたりはしなかった。


 チコも短弓で援護してくれてはいたが、いかんせん短弓では有効とは言い難い。



 さらに両足に2発ずつ単連射で打ち込んで動きを制限させると、馬から降りて近づき腰のククリを抜くと人型だからなのか分かりやすい怯えの表情のオーガの首を刎ねた。


 刺さったままの短槍を抜き、身体が消える前に頭部の角をナイフで抉り取った。

 こうすれば素材として残るのだと"基本情報"に書いてあった。

 魔石を拾って吸収すると200Pという微妙なラインをついてきた。多そうに見えて所詮ゴブリン20匹分と考えるとかなり微妙だろ。


「ブラさんて本当に戦えるんだね!それでGランクとか詐欺でしょ!」とチコが戻って来て笑っていた。


「それはギルドに言ってくれよ。推薦とかしてくれたらランク上がったりしてな」と笑いかえし、オーガの角をチコに投げ「明日の打ち上げで酒代のたしにしようぜ」と言って商隊の一団に戻る事にした。








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