第49話 小男

廊下の床を歩く音に違和感を感じて目が覚めた。

隣りのアイリーンは…まだ寝ている

複数の足音と武装しているのか装備の擦れたりぶつかる音が宿の客や従業員とは全く別のものであった。

部屋の前に3人、階段に2人。恐らく下の階や宿の外にあるMAPの黄色マーカーも仲間なのだろうなと寝起きの頭で考えていた。


まぁ、あのコレットパパであるヒッチ子爵の手の者達だろうな。


念のため腕に魔力を溜めて素早くズボンを履くとドアがノックされる。


「何か?」ドアを開けずに返答する

「この町の代官ヒッチ子爵の使いだ。同行を求める。」

「そうか、今起きたばかりだ。支度を済ませたら同行してもよいが、何の用か聞いておこう。」

アイリーンも目を覚ますと、怪訝な顔でこちらを見ていた。

「そんなことはどうでもいい!早くドアを開けろ!」

ドアをドンドンと叩きつけるヒッチ子爵の使いとやらに朝の大事な時間をぶち壊されて最悪の気分でドアを開けると、到底兵士とは思えない貧相な身体に無理矢理武装させられました!といった感じのチョビ髭が偉そうに立っていた。

一目でイラッとさせられたので、「朝からうるせぇんだよ」と一言だけ告げてチョビ髭の顎に右フックを一閃。

膝が崩れ倒れそうなチョビ髭の前髪を掴み、唖然としてる残りの二人に「下で大人しくさせてろ」と言ってチョビ髭を渡して部屋に戻りドアを閉めた。


アイリーンは「あまり無茶はするなよ」とだけ言って着替え始めた。


「ここの女将の飯は美味いんだ、朝飯はここで食べてから行くよ。アイリーンも一緒に食べるだろ?」と聞くと、「…もう、昼前だろう…。昼飯にして子爵の所には私も同行するとしよう。」と返ってきた。


階段を降りると子爵の私兵といつの間に来たのか、分隊長が衛兵を数名引き連れてきており微妙な顔で失神したチョビ髭を見ていた。


「ゴメス分隊長、仕事熱心なのはいいが小男1人の失神にしてはやけに早い対応だな」笑顔で挨拶すると、「アホ抜かせ。子爵の私兵がゾロゾロとお前の宿に向かうのを見て来てみたんだ。一応、昨日の件もあるからな」

アイリーンが降りて来ると私兵も衛兵も同様にその場がどよめく。

「おいおい、もしかして昨夜はお楽しみだったのか?それも氷の魔女が相手とは…お前さん何者だよ、本当は大貴族とかじゃねーよな?」とゴメスが半ば冗談で聞いてきた。

「俺が大貴族だったら子爵相手に面倒な思いしなくていいんだがな」と苦笑い。


昨日の席ですっかり打ち解けてしまったゴメス分隊長と衛兵達は、事情を知って助けに来てくれたようだった。


「この馬鹿が理由も言わずにドアを破りそうになったんで大人しくさせたんだ。」

「あぁ、他の私兵に聞いた。子爵は一応謝罪をしたいからお前を呼んで来るよう言ったらしいが…この馬鹿はいつも偉そうにしていてな、衛兵隊うちらともあまり仲はよろしくない。いい気味だな」

フンと鼻で笑い「氷の魔女が一緒なら問題は無いだろう。俺達は引き上げるとしよう。」と言って宿を出て行った。

「また飲みに行こう、次は俺の奢りだ」と言うと、背を向けたまま手を振って「いつでも声をかけてくれ」と帰っていった。


「今から飯を食うから外でまっててくれ、なんなら一緒に食うか?」と私兵達に言うとアイリーンの顔色を伺うように外に出ていった。


女将に朝飯を2人分頼むと呆れた顔で「もう昼前だよ」と言いながらも腸詰めと野菜がたっぷりのポトフとチーズにオリーブ、オイルサーディンのようなものがのった黒パンを出してくれた。


「本当ここの飯は美味いんだよなぁ…」

「随分と衛兵達と馴染んでるようだな」

「あぁ、気の良い奴等だ。俺も元兵士だったからな、気が合ったんだ」

そう言って女将特製のポトフに匙を入れた。



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