第50話 俺盛る秋

「散々忠告したはずですが?」そこら中から呻き声が聞こえる中、凄みを効かせたアイリーンはヒッチ子爵に圧力をかけていた。




気絶したチョビ髭を先に子爵邸に連れて戻って報告したらしく、迎えの使者が暴行を受けたと知った子爵は怒りを露わに元凶を待っていた。


私兵と共に俺とアイリーンが子爵邸に到着するやいなや私兵隊で取り囲んだ。

理由も説明もないまま捕縛しろと言う子爵

アイリーンが静止しようとしたが近寄る私兵を片っ端から戦闘不能にしてやった。

顎をかち割り、膝を砕き、鎖骨をへし折る。

肘は逆に折り曲がって、股間を押さえて泡を吹く奴もいた。

素手で捕縛しようとしてきたので素手で対応してあげたのだが、弱すぎだ…連携も適当だし格闘術や逮捕術、捕縛術など練度が低いと言うより、もとより訓練されてないのだろう。

地面に投げられて受け身すらまともにできてなかった。

十数人を戦闘不能にするとさすがに武器を抜いたがアイリーンがヒッチ子爵に詰め寄って私兵を下がらせた。


「先に無礼を働いたのはそちらの使者だった。同行した者に聞いてくれてもいい。それでも俺を害すると言うならこちらも手加減はしない。」

こう見えて魔法使いだからな!


「貴様も少し大人しくしてろ」と怒られた。

あの冷たい瞳がキッと俺を貫いた。

「イエス!マム!」すかさず敬礼で答える。

アイリーンの態度は冷たいままだ


「この惨状は子爵、貴方の責任だ。あの男に手出し無用とあれほど言っておいたでしょう?」

昨日の話し合いは無駄になったな。まぁ、よくある事だよなと完全に他人事のような感じで聞いていたが、アイリーンは「責任の一端は貴様にもある、当然私にもだ。一度謝罪し和解するよう願う」

アイリーンにそう言われると断りづらい。

そもそも対立したい訳ではなく火の粉を振り払っただけなのだ。

「俺としては降りかかる火の粉を払ったまでだが、少々やり過ぎたようだ。謝罪しよう」

アイリーンに促されようやくヒッチ子爵も、

「貴殿の謝罪受け入れよう…元はと言えばこちらに非がある。こちらこそ済まなかった…」

権力者の謝罪としては上出来であろう。

「貴方に対して隔意はない、謝罪を受け入れよう」

負傷した兵を手当するよう命じた子爵は、俺達を官邸の中に招いた。


そこそこ豪華な応接間で茶菓子を出され、娘の迷惑料だと言って大金貨が5枚入った小さな皮袋を貰った。


「しかし貴殿は魔法使いだというのに大したものだな。素手で戦う訓練でも受けているのか?」

「あぁ、幼少の頃より格闘術を学んでいた。むしろ魔法を使えるようになったのは最近だ。」

アイリーンは横目で初耳だという顔をしている

「むしろここの兵士の徒手での戦闘力の低さに驚いた。武器のみに頼るのは兵士としては、ちょっと問題があるだろう。」

刀折れ矢尽きたらどうするのか?と。武器を携帯できない状況で警護したりする状況などないのか?この世界の事は良く知らないが戦闘を生業にしている人間が、素手ではからっきしでは不味いだろう。

「子爵家の私兵団としては標準以上ではあるのだが、あれを見せられたらぐうの音も出ない。どうだろう、少し指南しては貰えんだろうか?暇な時でいいのだ、取り入れた方が良い訓練方法など教えてくれればいい。」

組技主体の戦闘技術は一応あるらしいので数人に何日か指導すればいい。報酬もいい。

「次の依頼まで1週間近くは暇な身だそれでも良いなら喜んで受けよう!」なんてったって報酬がいい。Gランク冒険者の俺が受けられる通常依頼なんか馬鹿らしくてやってられない。さすが貴族。

「では、明日からよろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いする」

万事解決。win-win。気持ちよく子爵邸を後にした俺達は、まだ陽が高い時間にもかかわらず酒場に入った。

「まったく、現金なやつだ。町の権力者相手に喧嘩を売ったと思えば直ぐに報酬に釣られて仲直りか」

「俺は喧嘩など売ってないだろう?ちょっと買っただけだ。それにあの私兵達は弱すぎる。一応この町の防衛戦力として一翼を担ってるんだろ?なら町の為という解釈もできるわけだ」

冷たい瞳でフンと鼻を鳴らすアイリーンの手をそっと握り「そう怒るな、今日はアイリーンのおかげで何とか落ち着いた。ありがとう。もう無茶はしないから」と言うと、胡散臭そうに俺を見ていた。

「嘘じゃないさ。誠意を見せよう。どうだろう今からお前の部屋で証明してみせるというのは?」

呆れた表情で俺を見るアイリーンに爽やかスマイルで「行こうぜ」と促し店を出ると秋空の綺麗な夕焼けのなか、しっぽりする為アイリーンの家へと向かった。

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