望まぬ政略結婚⑦




翌日になり、エリスはゆっくりとベッドから上体を起こした。 起きた、ではなく上体を起こしたなのはほとんど寝れなかったからだ。

姫として当然と言えば当然なのかもしれないが、今までに告白をするという経験はない。 しかもクローネと婚約済みの状態では浮気と言われても仕方がない。


―――・・・告白の緊張から、夜はあまり眠れなかった。

―――でも大丈夫。

―――今日で全てが終わるから。

―――この縛られるような苦しい気持ちも楽になる。


ただエリスとしてもガイルと結ばれたいわけでなく、前へ進むために必要なことなのだ。

誰に何を言われようとも止めるつもりはなかったし、逆にクローネとこのまま結婚すれば信頼を裏切ることになるような気がした。

なるべく心を落ち着けるよう午前を過ごし、正午になるとテラスへ向かった。


「・・・エリス姫」

「来るのが早いのね」


流石というべきか既にガイルは待機していた。 ガイルに近付くと驚いた顔をされる。


「エリス姫! 昨日はよく眠れなかったのか?」


そう言って心配したのか目の下のくまに触ろうとした。 だがそれを避けるよう後ろへ一歩下がる。


「・・・?」


あまり時間をかけると決心が揺らぎそうだったので、不審がっているガイルに想いを告げた。


「ガイル。 私は貴方のことが好きです」

「ッ・・・!」


ガイルは当然のように驚いた顔をした。 そして考える間もなくすぐに答えを返した。


「・・・俺ではいけません。 エリス姫にはクローネ王子がいるのですから」


―――・・・振られた。

―――これで長かった私の片思いの時間も終わりね。


少しだが確かにスッキリすることはできた。


―――でも、振られたのは辛い。


それには変わりなかった。 ドキドキとする気持ちを抑えつつ平然とした態度で言った。


「ありがとう、私を振ってくれて。 自分の気持ちにけじめをつけたかったの」

「・・・」

「これからも今まで通りに接してほしい。 その方が私も助かるから」

「・・・分かった」


振ったのにも関わらず何故か元気のないガイル。 そんな彼を残しエリスはこの場を後にした。

 

―――ッ・・・。


ガイルの姿が見えなくなると何度流したのか分からない涙が溢れ出てきた。


「ガイル・・・」


部屋へ戻ろうとした時タイミング悪くクローネと鉢合わせしてしまった。


「エリス!?」

「クローネ・・・」


慌てて駆け寄ってきた。 そしてどうも“ガイル”と呟いた声も聞こえてしまっていたらしい。


「ガイルって言ってたけど、ガイルがどうかしたのかい?」

「いえ・・・」

「ガイルに何か言われたのかい?」


必死に首を横に振った。


「ガイルは何も悪くないの。 これは全て私のせい」

「でも・・・」


こんなに涙を流しているのだ。 普段から人に気遣えるクローネが心配するのは当然だった。


「ごめんなさい、クローネにも心配をかけて。 もう明日には大丈夫だと思うから」


―――・・・こんなに苦しい思いをするくらいなら、ガイルとは出会わない方がよかったの?

―――・・・いえ。

―――いつか出会えてよかったと思える日が来るのかもしれない。

―――そう思える日を信じて、今を生きるしかない。


エリスは涙で霞む視界の中、前を向くためにそう思うしかなかった。



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